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海と風の王国  作者: 梨香
第六章 王太子への道 ローラン王国
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2  冬のヘッジ王国は憂鬱だなぁ

 慌ただしくメーリングを後にして、イルバニア王国を北上していったカドフェル号は順調にヘッジ王国へ着いた。


「何だか、物悲しい国ですね……」


 寒そうに毛皮のコートを着込んだロジーナも、舟から見たヘッジ王国の風景にあまり興味を持てない。


「山羊しか見えないわ。家も見えないし、人は住んでいないのかしら?」


 ゴツゴツとした岩の間の草を冬の間も日中は放牧されている山羊がムシムシと食べていたが、それも緑ではなく枯れているとしか見えない草なので寒々しい雰囲気になる。


「ここに寄らなくては、いけないのですかねぇ」


 山羊しかいないような国にわざわざ寄り道しなくてもと、滅多に愚痴らないレッサ艦長が憂鬱そうに話しかける。


「まぁ、此処に造船所を作るかもしれませんしね。ほら、あの山の方には木が生えてますよ。それにヘッジ王国の港は、冬でも凍りつかないから……」


 良い面をあげようとしても、どんよりとした灰色の雲と寒々しい風景を見ているだけで、憂鬱になってしまう。


「サッサと用事を済ませて、ローラン王国に行こう。こんな風景を見ていたら、テンションが下がっちゃうよ。ロジーナはどうする? 大使館に行って休憩するかい?」


 船旅で不自由しているロジーナを気遣ったが、少し考えてパスするわと侍女と船室に戻る。この風景を見ているだけで、全員が憂鬱になってしまうのだとショウは肩を竦める。サッサとローラン王国に行こうと思う。


 レッサ艦長も同感で、ルートス国王にアスラン王からの書簡を渡したら直ぐに出航しようと、留守の間に水と食糧を少し補給するようにクレイショー大尉に命じて大使館へサンズに乗せて貰って行く。


「此処が首都なんですか?」


 海風を避ける為の生け垣もくねくねと気味悪く曲がっているし、石を積み上げただけの殺風景な建物も背が低くて、空からは突き出した煙突から上がる煙だけが人が住んでいる証に見える。


「あれが大使館ですよ」


 レッサ艦長に教えて貰わなければ、上からは大使館とは思えなかったなぁと、他の民家よりやや大きい建物に驚く。


「何だか、質素ですね……」


 大使館の前庭に着陸したショウは、驚いて護衛が小さなボックスから出てきたので、パフューム大使はいるかと尋ねる。大使館に案内して貰いながら、人が訪ねて来るとは思ってなかった護衛の慌てぶりに、大丈夫なのかなとショウは心配する。


 大使館の内部は、外の素っ気なさとは違い、東南諸島らしい雰囲気をだそうと緑の植物をあちらこちらに配置してあり、ショウはほっとする。パフューム大使は、どうぞどうぞと暖炉の前にショウとレッサ艦長を案内する。 


「ショウ王子、ヘッジ王国にようこそ。しかし、冬に来られるとは、海風が冷たかったでしょう」


 ショウはルートス国王に父上から書簡をことづかって来たのだと伝えて、ローラン王国に急いでいるので面談の手配をしてくれとパフューム大使に指示する。


「面談の手配などいりませんよ。冬は誰も外に行きませんから、王宮の暖炉の前にいるでしょう。急いでおられるなら、今から出掛けましょう」


 馬車の用意をさせている間に、ショウはハッサンとラジックの結婚祝いに山羊を数十頭贈りたいのだと頼む。


 パフューム大使はパッと顔を輝かして、任せて下さいと請け負ってくれた。人もいなければ、事件も起こりそうもなくて、暇を持て余していたのかなぁと失礼な事を考えてしまう。


 しかし、こんな閑散としたヘッジ王国にも事件は起こっているみたいで、海賊が山羊を捕まえて盗んでいくのだと王宮についた途端にルートス国王に文句をつけられた。


 ショウはそんなことを言われてもと、目をパチクリする。


「東南諸島の海軍がサボっておるから、海賊船がここまでのさばっているのではないか! 海賊が盗んだ山羊を弁償して貰いたい」


 全く根拠の無い話を、ショウは相手にしない。それに王宮の暖炉の火はケチなルートス国王に相応しくショボショボとしか燃えておらず、パフューム大使に王宮でも外套を脱がないようにと忠告されてなかったら、風邪をひきそうな寒さだったので、さっさと辞した。



 帰りの馬車の中で、山羊を海賊が盗むのですかと尋ねる。


「まぁ、海賊も山羊を盗むでしょうが、山羊はすばしっこいから、そうそう捕まりませんよ。海賊の中にはローラン王国の農民や、ヘッジ王国の農民も混じってますから、山羊を捕まえて食べたのでしょう」


「それにしても、何故、我が国に賠償を求めたのですか?」


 パフューム大使は、笑って、ショウ王子が顔を出したからですよと言う。


「誰でも良いから、弁償させたかったのでしょう。次に来た外交官にも、言うでしょう。言うのはタダですからね。相手にしなくて良かったですよ、議論に巻き込まれたら夕食まで帰れませんからね。ケチなルートス国王は夕食を出すのが嫌ですから、夕方には帰してくれるのです」


 ショウとレッサ艦長は、やれやれと肩を竦める。急いでいるのなら宴会でもてなせませんねぇと残念そうなパフューム大使を、今回ばかりは気の毒にショウは感じる。


 ショウはこれくらいしかありませんからと、山羊の薫製をお土産に貰って、そういえば山羊をサンズに食べさせてやる約束だったと思い出す。パフューム大使は値切るのは好きだがケチでは無かったので、大使館にある山羊肉をサンズに与えてくれた。

 

『本当だ! 塩気があって美味しいよ~。シリンにも食べさせてあげたいな』


 サンズが年上のシリンを気遣ったので、ショウは山羊の肉をパフューム大使からお土産に貰ってカドフェル号に帰った。シリンは騎竜では無かったのでサンズより小さかったが、生きている竜の最古参なので、サンズは親切に接している。


 シリンはゴルザ村で唯一の生き残った竜として百年以上も他の竜と交流を持つこと無く過ごしていたので、若いサンズが可愛くて仕方ない。元々、竜は若い竜に甘いところがある上に、サンズがヘッジ王国の山羊肉を持って帰ってくれたので、その親切をとても喜んだ。


 シリンはもう少しピップスが竜に慣れて、新しい生活に適応したら絆を結ぼうと思っている。そして、騎竜になって身体が成熟したら、サンズと子竜を作りたいと考える。


 イルバニア王国で脂の乗った美味しい牛を食べてはいたが、小さな塩気のある山羊肉ぐらいおやつみたいなものなのでペロリと食べて、シリンはサンズと寄り添いながら可愛い子竜の夢を見る。

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