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海と風の王国  作者: 梨香
第五章 王太子への道 ゴルチェ大陸編
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27  アルジェ女王とゼリア王女

 ショウは朝日で目覚めて、薄い絹の天蓋カーテンをお姫様みたいだと思ったが、夜中に侵入する蚊を防ぐ実用品なのだと諦める。夕方には大使館の庭で蚊取りが焚かれていたが、夜中までは焚かないので必需品なのだろうと、ピラピラのカーテンを捲ってベッドから降りようとしたら、ピップスが洗面器を持って現れた。


「おはようございます!」


 朝から元気なピップスに、おはようと眠たそうに挨拶を返して顔を洗う。


「ピップスはもう朝食を食べたの?」


 朝からアルジェ女王の訪問を考えてドヨドヨのショウに、はい! と元気いっぱいのピップスは眩しかった。


 気乗りがしない用件が控えていたので、ショウは何時もより小食だ。レーベン大使は他のパシャム大使やヌートン大使から、ショウ王子は大食いだと聞いていたので、これはかなり嫌がっているのだと察する。


 朝食を食べ終えたショウは、レーベン大使に王宮よりの返事待ちだと聞かされて、サンズに気持ちを落ち着かせて貰おうと竜舎へ向かう。


『サンズ、どうしよう。アルジェ女王に王女の婿になれと言われたら……』


 竜のサンズにはショウの悩みには答えようがない。


『嫌なら、断れば良いんだよ』


 そうも言ってられない事情があるのを、ショウは少しずつ政治を勉強してわかっている。


『問題は蛇なんだよね。アルジェ女王みたいに蛇を肩に掛けていたら、絶対に無理だもの』


 サンズは蛇なんか怖がらなくて良いのにと言ったが、生理的に無理だと叫ぶ。


『私が付いて行けたら良いけど、王宮の中には入れないよね。でも、ターシュなら肩に止まって、付いて行けるよ』 


『ターシュは付いて来てくれるかなぁ』


 血の契約があるエドアルド国王も、そうそう肩に止まってくれないと愚痴っていたのに、気紛れで付いて来ているにすぎない自分の我が儘に付き合ってくれるか自信が無かったが、ショウはターシュに頼もうと探す。


『ターシュ、ちょっと頼みがあるんだけど』


 朝から庭に放された鶏を食べて、身繕い中のターシュは木の上から面倒くさそうにショウを見下ろす。


『何だ?』


 忙しいからチャッチャと言えというニュアンスが父上みたいだと、ショウは苦笑する。


『今日、王宮にアルジェ女王に挨拶に行くのだけど、付いて来てくれないか?』


 木の上のターシュは、首を傾げて考えている様子だ。


『スーラ王国では蛇がとても大切にされているから、蛇に攻撃は絶対にしないで欲しいんだ』


 ターシュは蛇を捕まえるのは得意だったが、お腹がいっぱいなので捕まえる必要はないと考えた。


『蛇は捕まえない。でも、何故、王宮に付いて行かなければならないのだ?』


 ターシュの金色の強い視線に曝されて、ショウは小さな声で蛇が嫌いなんだと答える。ターシュはフンと笑ったようにショウには感じたが、付いて行くと答えてくれた。


『ショウには大瀑布を見せて貰ったからな』


 ターシュは用事は終わりだと言わんばかりに、身繕いを再開する。これで少しは安心だと、ショウは大使館へ戻った。




 訪問までの間に父上にピップスを側に置くようになった経緯と、竜騎士として修行させなくてはいけないので、どうすれば良いのかのお伺いの手紙を書いた。チェンナイの報告書は届いたかなぁと思いつつ、そう言えば父上にスーラ王国への訪問を騙し討ちにされたのだったと、遅まきながら腹を立てる。


 後は、許婚達とエリカとパメラ、マルシェとマリリン、そしてミヤにマッキンリー大瀑布の雄大さを書いてペンを置いた。


「あれっ、午前中は流石に急だったので、昼からになったのかな?」


 何通かだけでも書けたら良いなと思っていたのに、全部書き終えたショウは時計が11時を指そうとしているのに気づいた。元々、気乗りがしない訪問なので、遅くなるのは別に構わないと思ったショウは、書いた手紙をニューパロマ、ユングフラウ、レイテにそれぞれ届けて貰おうと下に降りる。


「ああ! ショウ王子、丁度良いところにいらっしゃいました」


 レーベン大使に捕まって、手に持っていた手紙を大使は届けておきますと職員に手渡す。この慌てた雰囲気に、ショウは嫌な予感がした。


「アルジェ女王は挨拶など堅苦しいことは飛ばして、一緒にお食事をしましょうとお誘い下さったのです。それも、プライベートなお食事だそうで、ショウ王子のみのご招待なのですよ」


 ショウは、どひゃ~と逃げ出したい衝動に駆られる。


「レーベン大使も付いて来て下さらないのですか? いきなりハード過ぎますよ」


 レーベン大使もアルジェ女王がプライベートな食事に、自国の王族以外を同席させるなど聞いたことがないと驚いた。


「何か、心当たりは無いですか?」


 心当たりは有りすぎるから、逃げ出したいショウだ。


「アルジェ女王のデスに気に入られたのです。レーベン大使、僕は蛇が苦手なんですよ。プライベートな食事に、デスもいますよね? ターシュは付いて来てくれると言ってくれましたが、食事に同席させて大丈夫でしょうか?」


 狼狽えているショウ王子を、アルジェ女王が駄目だと仰らなければ、ターシュを食事の場に同席させても良いでしょうと宥める。レーベン大使も未だ若い王子を自分の付き添いも無く、食事に招いたアルジェ女王の遣り方を強引だと感じていたのだ。


「さぁ、正装に着替えて下さい! 急いで下さいね」


 男のショウは身支度に時間はかからないと思ったが、部屋に帰ると風呂が用意されていて、ピップスが他の侍従達と色々と世話を焼いてくれた。


「正装をレイテから送っていただなんて、本当に計画的だったんだ!」


 侍従に手伝って貰って王族の正装に着替えたショウは、長い裾を持とうとするピップスを止める。


「えっ? 侍従が裾を持つのだと教えられましたよ」


「父上も侍従に裾を持たせたりしない。僕も、そんなのさせないさ」


 そう言うとピップスの手から裾を受け取って腕に掛ける。レーベン大使はそんな格好の悪い! と眉を顰めたが、王宮に着いたら床に下ろすと約束させて渋々許可を出す。


「裾を持たせる侍従として、ピップスを連れていけますのに……」


 レーベン大使の言葉にグラッときたが、裾を侍従に持って貰うスタイルはショウには受け入れ難かった。


「いえ、結構です」


 キッパリ言い切ったショウ王子に、アスラン王の王子だとレーベン大使は苦笑する。


 受ける印象は違うのに、ショウ王子はアスラン王のプライドの高さを受け継いでいると、レーベン大使は評価した。未だ甘い考えもあるが、鍛えどころのある王太子だと喜ぶ。


 レーベン大使も旧態依然とした王族の慣習に疑問を持ち、改革を断行したアスラン王を心より尊敬していたので、ショウが仰々しい王族の風習に従わないのを評価したのだ。それにしても、蛇嫌いまで引き継がなくても良いのにと、アスラン王も蛇が嫌いなのを隠しているけど知っているレーベン大使は深い溜め息をつく。


 船で王宮まで付き添いながら、上空を付いて来るターシュに蛇にちょっかいを出さないようにキチンと言い聞かせたのかとか、僕と言わないようにとか、スーラ王国のテーブルマナーとかを細々注意を与える。


 王宮の前には船着き場があり、ショウ王子にレーベン大使は船着き場の前にある東南諸島連合王国が借りている部屋でお待ちしてますと告げて別れた。


 王子一人を異国の王宮に上げれないので、護衛を二人付けてはいたが、アルジェ女王とのプライベートなお食事には同席を許されないだろう。


 王宮前まで出迎えに来ていた侍従に案内されて入って行く王子の後ろ姿を、レーベン大使は心配そうに見送る。王宮の建物に入る前に、上空を付いて来ていたターシュがショウの肩に舞い降りた。ショウ王子の肩に止まった鷹の立派さに、一瞬、案内していた侍従は足を止めて見とれたが、ハッと我に返って失礼を詫びる。


 ショウはスーラ王国の王宮が緑と水に溢れているのに感心しながら、侍従の案内で奥へと進んで行く。サリザンの丘の中腹にある王宮は、あらゆる場所に滝があり、涼しげな音を立てていたし、蒸し暑さを解消するために樹木が効果的に植えてある。


 かなり奥まで行くんだなぁとショウが感じた頃、案内していた侍従が護衛は此処までにして下さいとショウに告げる。


「この扉の先は、アルジェ女王が招いた方しか入れません。護衛の方は此方でお待ち下さい」


 侍従に肩に止まっている鷹は大丈夫ですか? と質問したが、侍従はアルジェ女王がお決めになるでしょうと、惚れ惚れと鷹を見つめて答える。


 大きな扉を護っている護衛が、侍従の合図で扉を開けると、そこには白亜の小さな離宮と花と噴水がある楽園だった。


 とても美しい女官が、ショウの案内を引き継いだ。


「ショウ王子、アルジェ女王がお待ちです」


 女官が肩のターシュに付いて何も言及しないので、アルジェ女王が駄目だと言わない限り付いて来て貰おうとショウは思う。


 白亜の離宮は女王に相応しく瀟洒な建物で、レリーフや透かし彫りがあちらこちらに施されていたが、全て白で統一してある。風も通り抜ける設計で、大理石の冷たさが気持ち良く感じられた。


「アルジェ女王、ショウ王子をお連れ致しました」


 白い離宮で寛ぐ、赤いシルクドレスのドレープが身体のラインを引き立てるアルジェ女王が、パッとショウの目に飛び込む。


「アルジェ女王、お招き感謝致します」


 アルジェ女王は長椅子に横たわって、水煙草を吸っていたが、ショウの挨拶に微笑んで座り直す。


「此方こそ、正式な挨拶を飛ばしてしまい、済みませんわね。さぁ、此方にお掛け下さいな。そして、その立派な鷹をよく見せてください」


 長椅子の横を手で示されて、ショウは女王の後ろの衝立に絡み付いているデスの側に行くのにかなりの勇気を絞りだした。


「この鷹は……エドアルド国王のターシュではありませんの?」


 カザリア王国の王宮の庭を旋回している姿を見たアルジェ女王は、驚いて見る。


「ええ、王宮の庭に飽きたターシュは私に付いて来たのです。いずれはエドアルド国王の元に帰るでしょう」


 ショウがターシュを食事に同席させても良いかと許可を求めると、アルジェ女王は勿論宜しいですわと微笑む。


「ターシュはとても綺麗ですもの。でも、ずっと肩に止まっていたら、お疲れでしょう。止まり木を用意させますわ」


 食事の席はアルジェ女王の横では無く右手側で、その後ろに金の止まり木が用意された。


 ショウは、これならデスから少し遠いと安心する。


 ターシュが止まり木に移るのを確認して、振り向いたショウの目の前に、可愛い王女が座っていた。


「ご紹介しますわ、ゼリア王女ですの。ゼリア、此方は東南諸島連合王国のショウ王子ですよ。ご挨拶しなさい」


 ゼリア王女は、おしゃまにドレスを摘まんで挨拶をする。


「はじめまして、ショウ王子様! 私はゼリアと申します」


 ショウも微笑んでゼリア王女に挨拶を返した。


 こんなに幼い王女だとは、誰も言わなかったと、色々と悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しく思えたショウだ。


 その目の前で、とっても可愛いゼリア王女が無邪気に、大人になったらショウ王子をお婿さんに欲しいわとアルジェ女王に頼んでいた。

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