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海と風の王国  作者: 梨香
第四章 外交デビュー

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24  アスラン王の怒り

 ショウはなるべく女の子達に心配をかけたく無かったので平静を装っていたが、カリンが居残っている事だけでも全員が何か問題が起こっているのに気づく。


 エリカや、ミミや、メリッサは武術訓練を一緒にしたりしているが、ララとロジーナはニューパロマに来てから少し寂しく感じている。ララはメリッサがパロマ大学に入学したのを喜んだものの、自分の中途半端さを突きつけられた気持ちになった。


「ショウ様は出会った時から、どんどん成長しているのに、私はぼんやりと本を読んでばかりだわ。ロジーナのように機転もきかないし、ミミみたいに素直にショウ様に甘えるのも下手だわ」


 メリッサとは比べるのも無駄だとララは落ち込んでいたが、少しでも自分を磨いていかないとショウの妻に相応しくないと考える。

 

「そうだわ! パロマ大学には、サマースクールがあるとショウ様からの手紙で読んだことがあるわ」


 メリッサのようにパロマ大学に留学する勇気も学力も無かったが、サマースクールぐらいなら受講してみたいとララは思った。


 ショウはララからサマースクールに通ってみたいと言われて、少し考えたがユングフラウやレイテに帰るのがいつになるかわからない状況なので、その間ぼぉっと待たしているより良いと思う。


「僕は一緒に通えないかもしれないけど、それでも良いなら受講したら良いよ。サマースクールはパロマ大学に通っていなくても参加できるから、他の人も誘って行ったら?」


 ララは他の許嫁やエリカにサマースクールのことを話すと、レイテでは屋敷の中で暮らしていた全員が行きたいと言い出した。


 大使館の職員にショウがサマースクールのスケジュール表を取り寄せさせたので、全員が自分の興味のある講義を探して受講することにする。


「ショウ、許嫁達を甘やかすと、後で苦労するぞ」


 サロンでわいわいと受講するサマースクールを話し合っている従姉妹達を眺めていたショウは、カリンから忠告を受けた。


「カリン兄上に言われると重みがありますね。でも、僕はなるべく自由に過ごして欲しいから……」


 カリンが航海に出ないのは、調査の結果や、父上を待っているからだとショウは気づいていたが、酔って機密情報を漏らしたとパシャム大使に大目玉を食らったので、この件を話し合うことを避ける。


 エリカとミミのリューデンハイムに入学させる件もイルバニア王国に打診しなくてはいけないのだが、エドアルド国王に漏らしたので既に知っているのではと考えていた。


「駐カザリア王国の大使に申し込んでも良いのだけど、それもなんだかなぁ。少し略し過ぎな気がするから、バルバロッサの件が解決してからユングフラウでグレゴリウス国王陛下に直接頼んだ方が良いよなぁ」


 本当なら、スチュワート皇太子の結婚式が終わり一連の外交をこなして、メリッサのパロマ大学の留学手続きを済ませたら、ユングフラウに行く予定だったのだ。そこでミミとエリカのリューデンハイム入学手続きを済ませて、ララとロジーナを連れてレイテに帰り、ダリア号で航海に出る予定にしていたのが、ニューパロマに足留めされてしまった。


 ショウはキッシュ大使がバルバロッサと騙っているだけだという調査報告をしてくれないかなぁと期待していたが、その期待は裏切られた。


「どうもバルバロッサは生きていたみたいですよ」


 パシャム大使から調査結果を聞かされたショウはやはりと思ったが、何故逃げ延びられたのかと疑問を持つ。


「これは本当に軍部の何人かの首が刎ねられるかもしれませんな……」


 周りを軍艦が囲んだ中で火に包まれて沈没した筈のバルバロッサが生き延びたのは、誰かの手助けがあったのではとショウでも考えてしまう。


「まさかザハーン軍務大臣まで罪が及ぶことは無いでしょうね」


 カリンがバルバロッサ討伐を自分がしないと、祖父の首が斬られると言っていた意味がズドンとショウにも重くのしかかる。ザハーン軍務大臣の遣り口が嫌いだったこともあるけど、カリンやワンダーにも影響が出たりするのは困る。


「責任をとって、更迭ぐらいで済まされないでしょうか? ハッサン兄上の祖父のアリは財産の一部没収とレイテ追放で許されたのですよ」


 パシャム大使に、民間人と軍人を一緒に考えてはいけないと諭される。


「ショウ王子、言っておきますが、カリン王子に情報を漏らしてはいけませんよ。カリン王子は貴方の兄上ですが、いずれは臣下として使っていかなければならないのです。王太子としての立場を自覚して下さい」


 理屈は理解できたし、軍務大臣がこのような失態の責任を取るのも仕方ないと思ったが、自分なら命は取れない。ショウはやはり王なんか無理だと落ち込む。


「落ち込んでばかりいても仕方ない。大使館には東南諸島連合王国の法律の本も置いてあるんだ。何とかならないか調べてみよう」


 パシャム大使はこのような大失態では軍務大臣を救う道は無いと思ったが、ショウが落ち込むだけでなく、法律の抜け穴を見つけようと分厚い本を読むのに協力する。


「パシャム大使~、東南諸島の法律って過去の判例を書き連ねてあるだけではないですか……」


 ショウは確かこういう法の遣り方もあると知ってはいたが、これを全部調べるのは無理だと音をあげる。なぜなら、大使館の書斎の壁一面全部が法律書だとパシャム大使に聞いてしまったからだ。


「これを全部勉強しなくちゃいけないのですか………」


 ショウがウッと法律書の棚を眺めているのを、パシャム大使はクスクス笑った。


「まさか! こんなの法律家に任せておけば良いのです。ショウ王子は法律家を使うのも練習しなければいけませんね」


 ショウは内心で、この古狸! と罵る。この数時間の苦労は何だったのだと悄然とする。


 パシャム大使に大使館付きの法律家を呼んで来させながら、もう少し法律の整備も必要だと感じる。


「王権の強い東南諸島連合王国では、法律より王の命令が重視されているなぁ。恩赦とかは良いけど、王の考えで罰するのって拙くないかなぁ……」


「何が拙いのだ? 王が自ら罰するのは当然だろう」


 ぶつぶつ独り言を言っていたショウは、突然現れた父上に驚いてピクンと椅子から飛び上がる。


「父上、突然入って来ないで下さいよ」


 アスランは書斎の机の上の法律書を見て、ショウが何をしようとしていたのか察して、甘いなぁと溜め息をつく。


「我が国の大使館の何処に入ろうと私の勝手だ。ああ、そうかぁ、許嫁達といちゃついていたら大変だなぁ。私も兄上達の手前、お前を叱らなくてはいけなくなるし、面倒だな」

 

 ショウはユングフラウの書斎でメリッサと危うく一線を越えそうだったのを思い出して、ボッと顔を赤らめる。


 アスランは、相変わらず、此奴をからかうと面白いと笑う。子供だと思っていたが、赤くなるような事をしていたのかと驚く。


「まぁ、お前も来年には結婚するのだから、健全な証拠かなぁ。だが、この件に口出しは許さないぞ!」


 ふざけた口調から、ビシッと厳しく命じられて、ショウはビクッとしたが、引き下がるつもりは無い。


「カリン兄上がバルバロッサを討伐すると言っておられます。お願いします……」


 バーンと扉が開けられて、アスランの到着に気づいたカリンが書斎に飛び込んで来た。


「父上、バルバロッサ討伐を命じて下さい」


 アスランはショウを睨みつけて、重大な機密情報を漏らしたのかと怒鳴りつける。


「私の事は幾らでも叱って下さって結構です。なんなら王子の地位を召し上げられても構いません。でも、カリン兄上の願いをお聞き下さい」


 アスランはそれのどこが罰になるのかと、怒鳴りつける。


「ショウ! お前はまだ逃げようとしているのか! お前の考えなどわかっているぞ! のんびりと魚でもとって暮らすつもりだろう。こんなボンクラが後継者だなんて嘆かわしい!」


 不機嫌なアスラン王に、カリンとショウも口を噤む。パシャム大使も連れてきた法律家を部屋に帰して、開け放された書斎の扉を閉めたものの、怒りに怯えて口を開きかねる。


「アスラン王、バルバロッサの討伐を私に任せてくれないか」


 せっかく閉めた扉を、メルトが開け放って書斎に入って来る。


 アスランは苦手な兄上の登場に誰が報せたのかと、ショウと、カリンと、パシャム大使を睨みつける。カリンとパシャム大使がその視線に気づいて、無意識に首を横に振るのを見て、又、此奴かと怒鳴りつける。


「ショウ! お前という馬鹿者は……」


 ショウは父上に殴られると覚悟を決めたが、振り上げられた拳は振り下ろされなかった。アスランは自分を抑えるにはメルトを使うしかないと、呼び寄せたショウの悪知恵に可笑しくなってしまった。


「兄上に免じて廃嫡は許してやるが、この罰は覚悟しておくのだな。スーラ王国は、大事な交易国だしなぁ」


 堂々とした態度のショウを見直していたカリンとメルトだったが、半泣きでそれだけは許して下さいと、アスラン王に縋りつくのを見てがっくりする。


 パシャム大使はアスラン王の怒りが解けたのを察して、カザリア王国にどう返答しましょうかと口を挟む。


「かなりの条件を出して来ているが、後一押ししろ。秋の収穫時期までに海賊討伐して欲しい筈だから、カザリア王国は弱腰だぞ」


 バルバロッサの事で怒り狂っていても、自国の有利なように持っていこうとするアスラン王に、パシャム大使は満足そうに頷いて、マゼラン外務大臣と交渉しますと言う。


「海賊討伐など、兄上のお手を汚さずとも結構です。この跳ねっ返りの息子達に任せますので、兄上はサンズ島の開発に……」


 メルトの無表情な顔がズウンと目の前に近づいて、アスランはウッと言葉に詰まる。


 アスランは、子どもの頃からメルトが何を考えているのかわからなかったが、年をとって皺が出てきて、よけいわからなくなり、とても苦手に思っていたのだ。


「バルバロッサは身内の恥だ。私も討伐に参加する」


 ショウとカリンは、父上がこんなに困りきっている姿を初めて見た。


「ハーレー号だけでは無理です。エルトリア号にも協力ねがいます」


 カリンを睨みつけたが、アスランは仕方ないと許可を出す。


「その代わり、バルバロッサを今度こそ討ち取るのだぞ! さもないと、お前の祖父の首をとるからな!」


 パッと顔を輝かしてショウが叫んだ。


「父上、ありがとうございます! カリン兄上、良かったですねぇ」


 アスランは、ぼんやりしているショウだが、こういう頭の回転は早いと苦笑する。


 カリンはショウの言葉で、祖父の首が繋がったのに気づいてお礼を述べる。アスランは面倒臭げに、カリンの礼を遮ったが、パシャム大使はにこにこ笑って、海賊討伐遠征の宴会を開かなくてはと張り切りだした。


「おい、パシャム!」


 狸のような体型なのに意外と素早いパシャム大使は、アスラン王を宴会でもてなさなければと急いで準備に取りかかる。


 宴会嫌いなアスランは苦虫をかみ殺したような表情で、ショウも苦手なので、不機嫌な父上と一緒だなんて盛り上がりそうに無いなとうんざりした。


 しかし、宴会はエリカや許嫁達の参加で思いがけず大盛り上がりになった。メルトも無表情ながら楽しんでいるみたいだし、アスランはエリカや姪達に甘いので、踊りを目を細めて見ている。


 ただ、ショウだけはスーラ王国の蛇のことで鬱々としていた。カリンはショウに今回の件で恩義を感じていたが、こればかりは代わってやれないなぁと酒を飲む。


「私は蛇と話せないからなぁ。スーラ王国の女王になるには、蛇神様と話せないといけないみたいだからなぁ。うん? 確かショウは蛇神様が父上を気に入られたとか言っていたなぁ。なら、アルジェ女王と父上でも良かったのでは? まさか、父上も蛇が嫌いだとか?」


 カリンも実は蛇が嫌いだが、どうにか我慢していたので、これって父上譲りではないのかと疑念を持つ。




 宴会の次の日、パシャム大使はマゼラン外務大臣と話し合って、関税の引き下げを勝ち取り、バルバロッサ討伐を了解してきた。マゼラン外務大臣は足元を見られたのを悔しく思ったが、自国の海軍を立て直すしかないとエドアルド国王陛下と話し合う。  


 こうして海賊討伐が、正式にカリンとメルトに命じられた。


 ショウは連絡員として、又、バルバロッサの風の魔力に対抗する為にハーレー号に同乗することになった。

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