17 結婚式は外交官の集会場
宴会の途中で眠ってしまったショウだったが、ララの膝枕で少したつと目覚めた。
「御免、足は痛くない?」
慌てて起き上がったショウをもう少し寝ていたらいいのにとララは甘やかしたが、他の許嫁達は油断も隙も無いんだからと文句をつける。
「宴会は終わったみたいだね。少しパシャム大使と話があるんだ、皆も明日からは結婚式に付随する行事があるから休んだ方が良いよ」
ショウがパシャム大使と書斎に籠もってしまったので、それぞれは部屋に帰ったが、エリカとミミはヴェスタとラルフにおやすみと言いに竜舎へ向かう。
「リューデンハイムに見学に行ったと聞いたけど、どんな所だったの?」
「予科生と見習い竜騎士がいっぱいいたわ。私はお会いしなかったけど、キャサリン王女も在籍中なはずよ。ロザリモンド王女が結婚されるので、ローラン王国に嫁がれたアリエナ皇太子妃がユングフラウに帰って来られていたから王宮で過ごしていたの」
エリカは王女達には興味がなかった。
「ミミ、私が聞きたいのはウィリアム王子についてよ!」
ミミはリューデンハイムのことを教えてと言ったから、寮にはキャサリン王女がいるのを教えてあげたのだと腹が立った。
「ウィリアム王子は、綺麗な顔立ちだわ。あんな美貌は男にしておくのが勿体ないわね。でも、竜にしか興味が無いみたいよ。ショウ兄上の方が優しくて素敵だわ」
エリカはショウが素敵なのは、ミミに言われなくても知っていると怒る。
「ショウ兄上と呼んで良いのは、私だけよ! ミミは時々そう呼んでいるわ、気をつけてね。竜にしか興味が無いだなんて、退屈な人なのかしら……」
いくら美貌の王子だと言われても、ショウのように自分を愛して甘やかしてくれる相手じゃないと嫌だと、エリカは落ち込む。
『ヴェスタ、私と一緒に飛べるようになるのはいつ?』
ヴェスタは、エリカが落ち込んでいるのに気づいた。
『飛ぶだけなら、すぐに飛べるよ。私はエリカを落としたりは、絶対にしないから安心してくれ』
エリカはヴェスタにもたれると、ウィリアム王子は竜にしか興味が無いのよと愚痴った。
『竜を愛するウィリアムなら、人間も愛することができるよ。エリカは優しい女の子だから、きっとウィリアムも愛するようになる』
『あら、私は優しく無いわよ。アスラン王の竜姫と恐れられているの』
言った瞬間に、竜に竜姫と恐れられていると愚痴るなんて馬鹿みたいだと笑う。
『東南諸島の人達は竜を恐れるからね。何故なのかな?』
エリカは巨大な竜を眺めて、そりゃ怖いわよと告げる。
『それにあの食事風景を見れば、竜を恐れるのは理解できるわ。あっ、ヴェスタ、私は平気よ。ちょっとダイエットしたい気持ちになるだけだわ』
ヴェスタが丸々とした牛を一頭食べるのを見たエリカは、菜食主義になりたい気分になったが、竜が肉食なのは仕方無いと受け入れた。
ミミの方がこの点では駄目で、ラルフに一人で食べれないかとお願いして、ショウに説教された。
「ミミ、竜騎士は竜の食事の手配や、どの量を食べさせるのか管理しなくちゃ駄目だ。ラルフもヴェスタも成長した竜だから、一週間に一度しか食事をしないから楽なはずだよ」
サンズは若い竜で、十歳になるまでは三、四日おきに食事をさせていたショウは、その度に食欲不振になって困ったのだ。
「僕がチビだったのはサンズのせいかもと思ったけど、高くなって良かったかなぁ……」
年の割に小さかったショウだが、十ニ歳ぐらいからにょきにょき背が伸びて、兄上達と目線が同じ高さになった。偉そうにミミに説教したショウだが、実は今でもサンズに食事させた後は、食欲が少し減退してしまうのだ。
二人が竜舎で竜とのお休みの挨拶を交わしていた頃、書斎ではショウとパシャム大使が外交スケジュールの確認と打ち合わせをしていた。
「ニューパロマには、ゴルチェ大陸の各国の王や王子や外交官が集結しています。スチュワート皇太子殿下の結婚式に招待されたからですが、この機会に各国は外交合戦に突入します。昨年はローラン王国のケイロンで、アレクセイ皇太子殿下の結婚式がありました。ゴルチェ大陸の各国は外交官のみ送り込みましたが、リリックス大使によると魑魅魍魎の住家のようだったと聞いています。この度は王族の出席が多いので、少しは品の良いものになると良いのですが……」
「結婚式なのに魑魅魍魎……外交官は礼儀正しいと思っていたけど」
パシャム大使は、ゴルチェ大陸の魔術師合戦になりかけた昨年のアレクセイ皇太子殿下の結婚式の様子を話してくれた。
「今回もゴルチェ大陸のスーラ国の女王と、サバナ国の国王が参列されますから、喧嘩が勃発しなければ良いのですがね。昨年はスーラ国の蛇をサバナ国の豹が玩具にして殺して、スーラ国の魔術師が豹をのろい殺したのですよ。そしたらサバナ国の魔術師が結婚式当日に嵐を巻き起こして、スーラ国の大使館に雷を落としたそうです。予定されていた結婚式のパレードも取り止めになる大騒動でした。兎に角、あの両国の争いに巻き込まれないようにしましょう」
それは酷い結婚式だったなぁとアレクセイ皇太子とアリエナ妃に同情したショウだったが、ハッとパシャム大使に来年の自分の成人式はと尋ねる。
「兄上達のように身内だけですよね……」
恐る恐る質問するショウに、そんなわけ無いでしょう! と呆れる。
「ショウ王子が王太子になるのを国内外に公表するのですよ。それに結婚式も同時に挙げるのですから、今頃はフラナガン宰相が各国に送る招待状を手配している頃でしょう」
ショウは、クラ~と目眩がしそうになる。
「大丈夫ですよ、サバナ国の魔術師もアスラン王の支配されているレイテに嵐は呼び込めませんよ。それにスーラ国の女王はアスラン王に好意的ですから、めったな事はされません」
ヘビ嫌いなショウはスーラ国には近づきたくない気持ちなのに、その国の女王と父上が仲が良いと聞いてゾクッと背筋がした。絶対に父上に蛇が嫌いだと知られないようにしなくてはと決意を新たにする。
その後も、各国との話し合う案件を打ち合わせして、ショウは溜め息をつく。
宴会好きの陽気な狸親爺のパシャム大使だが、化かし合いはお手の物で、細かい交渉は任せても安心だとは思ったが、勉強の為に同席するように言われて、びっしりのスケジュールを見せられると倒れそうになった。




