二話 御三家
本日二話目です。明日からは、夜のみの投稿となります。
ウェルベンジア王国には、御三家と呼ばれる高位貴族が存在する。
武を司る、ウェルサウス家。
魔法を司る、ベンウェスト家。
そして、智を司る、我がジアノース家。
家名を見れば分かるように、三家を合わせるとウェルベンジアになる。
国の頂点は国王陛下だが、実質的な運営はこの三家で執り行われていると言っても過言ではない。
ウェルベンジア王国の建国以来、発展に尽力してきた由緒ある三家。
ワタシ、アテニルザ・ジアノースは、ジアノース家の嫡男だ。いずれは父から家督を受け継ぎ、他の二家と力を合わせて政に携わる。
ウェルベンジア王国の発展のため、国民の平和な生活を守るために。
ジアノース家の血を絶やさぬよう、ワタシには妻を娶り子をなす義務もある。
ジアノース家が途絶えてしまえば、ウェルベンジア王国にとっては多大な損失となってしまうからだ。
国のために。国民のために。
嫌ではない。むしろ誇らしく思う。
ワタシの力で、多くの人々を守れるのだ。これほど名誉なことはない。
ただし、国のため国民のための言葉が真実であれば、だが。
長い歴史があり、大きな権力も持っているとなると、変な対抗心が芽生えてしまうのだ。
要するに、自分たちが一番だ、とね。
御三家の関係は、お世辞にも良好とは言えない。
力を合わせて、切磋琢磨して、などという言葉が陳腐に聞こえてしまうほどには、他の二家を憎んでいるのが現実だ。
貴族の間でも、御三家のいずれかに属して派閥争いが繰り広げられている。
実は、御三家の中では我がジアノース家が最も格下だ。
昔は違ったそうだが、祖父の代から逆転されてしまった。
ワタシの父には、それが許せない。由緒あるジアノース家の当主として、二家の後塵を拝するなどあってはならないのだ。
ジアノース家の派閥も縮小気味で、二家に鞍替えする貴族も出てきている。
このままでは、ジアノース家の未来が。
父は口癖のように、ジアノース家の未来を憂えている。
ウェルベンジア王国ではなく、ジアノース家の未来を。
本当にうんざりしてしまう。
政よりも権力闘争に明け暮れる。
これでよく、国が崩壊していないものだと思う。
まあ、ワタシも他人を悪く言える立場ではない。ワタシ自身、闘争の中枢にいるのだから。
こんな日々が、これから何十年も続くかと思うと……
時々、想像する。
家を捨て、名を捨て、自由に生きられればいいのに。
「ワタシは一体、何を成したいのだろうな?」
国のために働きたいのか、自由を追い求めているのか。
誰からも答えはもらえず、自分自身ですら判然としない思いを抱えながら。
袋小路に入り込んで抜け出せない日々を、今日も過ごしている。