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十一話 揃わぬ足並み

 冒険者ギルド設立に向けて、ワタシは行動を開始した。

 なかなかうまくいかないが、分かっていたことだ。上役の貴族に言われたように、数年程度で結果を出せる問題ではない。


 父にはいい顔をされていない。無駄なことをしていると思われている。

 結婚しろとも言われなくなったし、ワタシを見限り始めているのだろう。

 ジアノースの名に未練はないが、家を追放されてしまえば冒険者ギルド設立もできなくなる。追放される前に、ワタシがいなくても問題なく進められる段階に持っていきたい。


 ところが、最近は冒険者ギルドどころではなくなっている。

 ウェルベンジア王国内に、強力な魔物が出現したと騒ぎになっているのだ。

 発見者は平民で、当初は見間違いか嘘をついていると思われ無視されていた。

 魔物による被害が出たため、見間違いでも嘘でもないと分かり、ようやく討伐隊が向かう運びとなった。


 ウェルサウス、ベンウェストの者たちも、力を存分に発揮できると意気込んでいる。

 ワタシも討伐隊に入って同行する。直接戦う力はないが、戦術や戦略においては、ジアノースの智慧(ちえ)は群を抜く。戦いにおいて必要不可欠だ。


 当主の父や、ワタシに代わり跡継ぎとなった弟を参加させるわけにはいかない。

 前線には出ないとはいえ、命を落とす危険もあるからだ。

 ウェルサウスやベンウェストも、三男や四男が参加している。


 目的地はハムザム高山。ここに、魔物が集結しているとの話だ。

 三千人もの部隊なので行軍速度は遅く、到着までに二月(ふたつき)はかかる。

 長い行軍を()て、そろそろ到着だ。


 斥候を出して様子を確認しに行かせ、戻ってきたため今は作戦会議の途中。

 平原に設置された野営場では、貴族が顔を突き合わせて話し合いを行う。


「斥候の報告では、魔物の数はさほど多くありません。ハムザム高山は、元より魔物が住みついておりますので、その範疇に収まるかと。しかし……」

「ドラゴンか。間違いではないのだな?」

「間違いありません」


 報告によると、ハムザム高山にはドラゴンがいたのだという。

 強力な魔物とは聞いていたが、ドラゴンの情報はなかった。

 魔物の頂点は、クートのようなマモノであるとされる。

 しかし、マモノは伝承上の存在に等しく、実質的な頂点はドラゴンだ。

 三千程度の人数で、果たして勝てるかどうか。


「一度、王都へ引き返しますか?」


 慎重論を唱えた貴族がいたが、すぐに反論が飛ぶ。

 グラドクス・ウェルサウス。武を司るウェルサウス家の者だ。


「ふん、ドラゴンごとき俺様が倒してくれる」

「ベンウェストを忘れてもらっては困るな。ドラゴンなど物の数ではない」


 魔法を司るベンウェスト家の者も同意した。

 ミガードル・ベンウェストという名の彼は、ベンウェストの魔法の餌食にすると。


 二人の発言は、勇み足とも一概に言い切れない。

 ドラゴンは確かに強敵だが、ここには御三家が集まっており、勇敢な騎士もいる。勝てなくはないだろう。

 力を合わせればだが。足並みが揃わぬのでは、勝てるものも勝てなくなる。

 ワタシも発言させてもらう。


「個人の武で太刀打ちできる存在ではありません。策を練りましょう」


「アテニルザ殿。失礼ながら、病に侵された貴殿が役に立つか?」


「体はともかく、頭は問題ありませんよ」


「どうだろうな。体調が悪ければ、思考もまとまらなくなる。ジアノースの智慧がまともに機能するかどうか」


「しかり。我がウェルサウスの武に任せてもらおう」


「力しか能のない者が出しゃばるな。この私、ミガードル・ベンウェストが先陣を切ろう」


「魔法使いなど、後方から魔法を飛ばしておればよいのだ」


 もう一度言うが、力を合わせれば勝てなくはないだろう。

 この調子では難しそうだ。


「そも、策とはどのような? ドラゴン相手に有効な策などあるか?」


 グラドクス殿に質問されたため、ワタシは答える。


「詳しい状況を知らなければなんとも言えませんが、とりあえず剣や槍での攻撃よりも魔法が有効でしょう。弓も使い、遠距離からの攻撃がよいかと。接近すれば、人間などひとたまりもありません」


 ワタシが述べたのは、至極当然の意見だ。

 ジアノースの智慧などと大仰なものではなく、誰でも思いつく程度のもの。

 しかし、グラドクス殿には不満のようだ。


「グラドクス・ウェルサウスを愚弄するか!」


「誤解なさらないでください。愚弄などしておりません。では、逆にお聞きしますが、グラドクス殿は剣一本でドラゴンに勝てると?」


「勝てる! ウェルサウスの武を甘く見ないでもらおう!」


 まさか、勝てると言い切るとは思わなかった。

 さすがに自惚れが過ぎるだろう。


「やれやれ、グラドクス殿は随分と威勢がよろしいようだ。少々、己の力を過信しておられる。私、ミガードル・ベンウェストの魔法に任せておけばよいものを」


「聞き捨てならんな。ミガードル殿こそ、魔法を過信しておられるのでは?」


「過信はお二方ともです。剣のみ、魔法のみ。いずれも不可能とご自覚ください。無論、単身での撃破も不可能です」


「では、アテニルザ殿の智慧があれば勝てると? そちらこそ過信であろう。前線に出ぬ病人は、俺様の邪魔さえしなければよいのだ」


 ワタシに、グラドクス殿とミガードル殿。

 御三家の者が喧々諤々(けんけんごうごう)と言い合っていれば、他の貴族は口を挟めない。

 作戦会議と呼ぶのもおこがましい、未熟な罵り合いになってしまった。

 ドラゴンという脅威を目の前にしてすら、足並みが揃わぬ有様とは……

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