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惜別通道  作者: 古時灯葉
7/10

5

獣道のような山道がやっと終わりを迎える。

愁は背負っている荷物の重さをも忘れたのか、我先にと駆け出す。道の先へと背中が消えていったのもつかの間。感嘆の声が愁から、聞こえてきた。

ゆっくりと、己の速度で登ってきた李怜。目の当たりにした光景は昔と変わらない。

山のてっぺんから見下ろす、大地の景色。悠然と流れる川が束になり、大河となる。やがて、それは地の果ての海へと流れることになるのだが、ここからでもその果てをみることができない。

皮膚のように呼吸をしているかのような青々とした大地に、網のように道が張り巡らされていて、その結び目に人の営みが続いている。

かつて、師父が生きていたときに、連れて行ってくれた場所。

「見栄えはどうだ?」

「すごい…」

呆然とした愁の表情を見て、わずかに心が晴れる。

「私たちは」李怜は川と川が交わる場所を指す。「あの町から旅を始め」どんどんと指先が川を遡っていく。「ここにきた」

「ちっぽけなんですね、俺達って」

愁は言葉を絞り出すようにいった。

「ここからみれば、俺なんて豆粒以下にしか見えない。お天道様だって見きれないや」

李怜は笑った。

「なにがおかしいんです? 師父?」

「お前の口から、そんな殊勝な言葉が出るとは思わなかった」

「俺が馬鹿みたいに聞こえるじゃないか」

「お前は十分馬鹿だ」

私に付き従っているのだから、とは言わなかった。

「荷物を降ろせ」

師父の言葉に従う愁。

肩の荷を下ろし、次の言葉をまとうと師父に顔を向けたとき。鼻先に小さな嵐が起こる。

目の前に、ピンと伸ばした師父の足先。

「どういうことだ? 師父?」

愁は驚きよりも先に困惑した。

不意打ちにしては、甘く、冗談にしては厳しい。

いつもの稽古ではない、雰囲気を漂わせていたからだ。

ピンと張り詰めた雰囲気はまるで殺し合いのような。

「どうもこうもない、私がお前とここに来た理由を果たすだけだ」

近くの距離だというのに、師父の顔が陽炎のように揺らめいた、そんな感覚がした。

「お前を殺すには、ここがちょうどいい」

薄ら笑いを浮かべた李怜は壮絶という言葉が似合う。

そんな、師の顔を弟子は見たことがない。

「私の糧になってくれるよな? 愁?」

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