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タイトルは何と読んでくれて問題ないです。
月が照っている夜だというのに、光が手元まで届くことはなかった。
雲が適度に月を遮っていた。焚き火の光だけが手元を淡く光らせる。
目的地まで、あと数日を切った。だが、生憎泊まれるような街が見当たらない。
だから野宿をする。手慣れた準備に、寝ずの番。
目の前でちろちろと静かに燃える炎を眺め続け、気配一つない夜がふけていく。
「けほっ…」
李怜は唐突に咳をした。口元を手で抑える。ぶるりと身体を震わせると、腕で身体を抱く。
そんなときだ。ふと、かつて袂を分かった師父のことを想うのは。
(あの頃の師父は、私と同じことを考えていたのだろうか)
ちらっと、視線を移すと、気持ち良さそうに地面に横たわり、寝入る少年の姿。
ここ数年、連れ立っている、彼女の弟子ともいえる少年。
愁雨という名であるが、彼女はいつも愁と短く呼ぶ。
師父の後ろをついて、学んでいた、かつてとは逆の立場となっている。
師父が咳をしたというのに、弟子は寝入っている。
李怜が弟子だったときはそんなことはなかった、はずだ。
(そろそろ、頃合いではあるが)
出会った頃の姿と比べて、愁はずいぶんと大きくなった。ぼろ雑巾のようで、枯れ木の枝よりも細い腕と胴であったというのに。同じような年頃と同じように生意気盛りの少年となったその姿に、ふと胸の奥に錐を刺されたような気持ちになる。
(仮に、運命というものがあるのならば)
そう思うと、とたんに嘆息する。
(私は、それを歪めてしまったのではなかろうか)
次の目的地へいたろうと決めた、その瞬間から乾ききらない血のように、悪い心地をいだき続けている。