1.プロローグ
「はぁ……」
窓の外を眺めながら、私は何度目かの深いため息をついた。今ので何度目のため息をついたことかしら。まったく、いつになったら勇者は助けに来てくれるのよ!
私がこの魔王城に拐われてからもう15年も経つというのに、一体勇者はどこをほっつき歩いているのかしらっ。いい加減に辿り着きなさいよ!
「姫、授業を始めてからこれでもう180回目のため息だぞ。いくら我がこれまで教えてきた授業の復習がつまらないからといっても、これは姫の将来の為に必要なことなのだからもう少しくらい真面目に取り組んでもらわねば困るぞ」
そう口うるさく言うのは スラリとした長身に肩に少しかかるくらいの長さの銀髪で、赤紫色の瞳をした見た目は紳士風な男──私を拐った張本人、魔王だ。
「はぁ~。確かに魔王の授業はつまらないけれど、ため息の理由はそれだけじゃないのよ」
「なに、我の授業中に別のことを考えていただと? いい根性をしているではないか、ええ? 姫よ」
魔王は軽く凄んできた。凄んだって私は怯まないわよ。
「だって今まで学んだ知識の復習よりちゃんと勇者が助けに来てくれるかどうか、この先の私の人生がどうなるかの方が重要じゃない!
この際だから言うけど、わざわざ魔王城に教室まで用意して魔王自ら私に授業をするなんておかしいわよ! いや、そもそも“私のためを思って”授業をすること事態おかしいじゃない!」
魔王の反応に少しイラッときた私は今まで思っていたことをぶつけた。
「む……どうやら我慢の限界が近いようだな。せっかくだからそのことについて説明してやろう」
そう言うと魔王は近くにあった椅子を引き寄せ、腰掛けると足を組んだ。
「まず何故、我が直々に姫に授業を行っているのかというと、この城に我以外に魔族がいないからだ。授業を行う理由は先ほど言ったように将来、姫がヘボ勇者に助け出されたあと、社交界に出ても──」
「ちょ、ちょっと待って。魔族がいないとか、ヘボ勇者とかどういうこと?」
確かにこの城で見たことがあるのは魔王と使用人代わりに魔王が作り出した魔導人形だけで、魔族の姿を見ないなぁとは思っていたけど本当にいなかったからなのね! じゃあ魔族は今、どこにいるというの?
それよりもヘボ勇者ってどういうこと!? 今も魔王城に辿り着けないのは勇者がヘボいからだというわけ?
はぁ……、長年抱いていたことをぶつけたらとんでもない答えが返ってくるなんて……一体どうなっているの?
「訳がわからないといった反応だな。この際だ、我の愚痴を聞いてもらいがてら、全てを話してやろう」
そう言うと魔王は立ち上がり、授業で使っていた道具が載っている机の上を手際よく片付け始めた。