LINEでのいざない
ある意味興味を懐いたのは事実だ。何分、そのプロフィールの写真を見る限り佳人に類する女性であるには違いなかったからだ。しかも女性に請われるままそのLINEのアカウントにアクセスしてしまった。始まりはFacebookでの友達申請だ。ただ、深慮せずに、コメントのやり取りをする友人の繋がりであったため承認したまでだが。そうしてLINEでのメッセージを望まれた。当初は、LINEはしない訳ではないが、主には使っていない旨は伝えはしたものの。そうして、くだんの彼女からLINEにメッセージが届く。
―友だちの追加ありがとう。ネイルとお菓子作りが趣味です。お住いはどちら?
―大阪市だが
―近くだ。会うことできるね。いくつ?
―52歳
―私、27歳
待てよ、Facebookでは、1988年10月1日が誕生日。だとすれば28歳のはず。これはどういうことか?この事象にある矛盾は、解消せずにはおけない。
―君は、Facebookでは誕生日を1988年10月1日にしているが。だったら28歳じゃないか?
―1988年10月1日になっていました?でも、普通に27ですよ。
普通に27?
どうして、「普通に」にという形容動詞が付されるのだ。誕生日から起算して、その翌年の誕生日の前日で、一つ歳を取るのではないか?全然普通ではないじゃないか。
―でも年齢って、誕生日を基準にするものだが。確か、法律もそうなっていたはずだが。
―法律違反だって云うの。歳一つ間違うことありません?27と云っておきながら、実は48だったら分かるけど。
確かにそうだ。歳を一つぐらい間違えることは無きにしもあらず。この俺だってそうだ。悪気なく、歳を一つ間違えて云ったことはある。
―ごもっともだ。申し訳ない。
―いいの。あの、それで、男友達全然いなくて。それに彼氏とは浮気されたばかりに別れちゃったし。構ってもらったら嬉しいな。ちなみに今、真剣に思ったてる人いたりする?
定めし、失恋はつらいことであっただろう。若い彼女なれば。それにしても、後段の質問は意味深なものだった。だが、ここは正直に話さなくてはならない。
―妻帯者だけど。
―そうなんだ。何だか残念!
ちなみにどんな女の子がタイプ?私、よく天然って云われて。だからもてないのかな。どういう女性が男性から見て魅力的なのか知りたくて。
タイプ何も、ありゃしない。何分、妻帯者の身。恋は何年休んでいますか、というか、恋愛は、開店休業中どころか、とっくに店じまいという具合だ。
―タイプ?考えたことないな。
でも、男にとって女性は魅力的な存在には違いない。
―そうなんですね。私頑張ります。魅力的な女性目指します。そうそう、最近、テレビ壊れちゃって。買うつもりだけど。でも何がいいのか分からなくて。よければ一緒に付き合ってくれない?
テレビ?実は全く観ない。だから、何も知らない。
―申し訳ない。元来テレビを観ないもので。だから詳しくない。他の誰かにお願いしてくれるかな。
―一緒に行ってくれるだけで安心なんです。
―いや悪い。他を頼ってくれないか?
―お金を出して欲しいなんて云ってませんよ。
―惡いけど。やはり。
―私、そんなに魅力ないかな?
どうして、そこに行き着く。このLINEのやり取りだけで。
―そんなテレビを買いに行くのを付いてゆかない程度で、深刻にならなくても。
―ごめんなさい。つい、ひっこんでしまうから。一緒にお食事するのは?
この俺が、若いみそらの淑女と何を話そうというのだ。
―でも、話すことが。
―音楽のことなら。
妙案だ。音楽の話題なら。
―バッハ、モーツァルトあるいはベートーヴェンとか。
―古すぎません?
そうか?
―だったら、ワーグナーとかブラームス。あるいはブルックナー、マーラー?
―知らないわ。
ストラヴィンスキーとかショスタコーヴィチはあんまり聴かないし。
―ドビュッシー、ラヴェル?
―もう、いいです!
音楽といえばクラシック以外に何があるのだ。