表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

王子がやって来て

前後編ものです。気に入ったら、長編への書き直しにチャレンジしたいです。

2017/05/05 修正改稿しました。ストーリーは変更していません。

 よろしい! お姉さんが君に力を貸すよ、だから一緒に頑張りましょう!

 かつて、わずか12歳の少年と共に戦い、彼を新オギノス王国の初代国王に導いた。その王の相棒たる伝説の豪魔剣が、私。



 気が付いたときには、どこか暗い所で岩に自分が埋もれていた。私の身体の半分以上が!

 どうして? 自分と周りをゆっくり認識し、理解する。うん、動けない。けどなぜか周りのことが見えるし、自分がどうなっているのか分かる。誰に教えられたのか不明だけど、いろいろな情報が湧き上がって来た。


 私、矢坂 唯24歳は、所有者の適性を持つ者によりいつか岩から解放される日を待つ、豪魔剣『プラド』に転生していたのよ。


 どうやら私は手術で? 死んだみたい。手術中に何か問題があったのかな? 家族を泣かせた親不孝者になっちゃった。

 確かに願ったよ、もっと強い丈夫な体になりたいって。24歳になってようやく会社で仕事が評価されてきたのに、激務が祟って入院。その際、心臓の弁の不具合が見つかって手術を受けることになった。

 だから、ああもっと丈夫になりたいと思ったよ、誰だってそうでしょ。だからって丈夫で硬い『剣』になることはないと思うの、酷いよね。まるでどこかの男の子向けのおとぎ話のよう。


 誰も来ない薄暗い、若干湿気た雰囲気があるここは地下室だ。なぜか四隅に青白い灯りが点いては消えていくので、石壁の装飾から、天然の洞窟や穴などではなく部屋だ。身体を動かせないので、激務に疲れ切った精神を癒すように、静かにただひたすら眠るしかない。

 心の奥底にある豪魔剣『プラド』の最終目的を果たすため、この身に魔力を蓄積していく。


 バタバタと、大人にしては軽い複数の足音が近づいてきて、誰かがこの暗い部屋に飛び込んで来た。四隅に設置された青白い常夜灯が照らし出した姿は、11~12歳ぐらいの金髪の少年とそれより少し年下の黒髪の女の子。

 泣いているドレス姿の美少女の手を引いて、二人でここまで何とか逃げ込んできたようだ。少年の上等そうなシャツもズボンも逃避行の証か汚れている。


 少年が追い詰められた恐怖に顔を青冷めさせながら、地下室外の追手の気配を確かめた。そして、不自然な岩に突き刺さり、静かに佇む私にそろりそろりと近寄って来る。


「魔剣よ、お願いだ、私に力を貸してくれ。父上も母上も、奴等魔族に殺されてしまった! 私は逃げるのではなく、戦いたい!」


 怯えて泣いている金髪の美少女を背後に庇いつつ、自分も状況に怯えながら、私に必死に語り掛ける。

 彼の話によると、いつの時代からか魔力を持つ彼の一族で管理してきたが、誰にも抜けない魔剣が私。強力な力があると言い伝えられてきたらしい。おとぎ話のように聞かされていたその力を最後の頼みに、城外ではなく、地下のここへ逃げ込んで来たという。


「私に力を貸して下さい。お願いします!」


 おお、頭を下げてきちんとお願いしてきましたね。これまで「抜けろ!」とか「従え!」とか、人に命令してくる無礼者が多かっただけに、礼儀正しい子は好きだよ。ましてや将来性のある(顔立ちの)金髪少年なら、尚更嫌とは言えないね。よろしい、お姉さんが君にありったけの力を貸すよ、だから一緒に頑張りましょう!


 少年に私の言葉は聞こえなかったようだけど、魔力による私の輝きに目を見開いた。その輝きに魅かれるように恐る恐る柄を握り、誰も引き抜けなかった伝説の魔剣を少年は岩から引き抜いた。


 私は彼に力を貸し、少年は追ってきた魔族を見事退け、勝利した。


 永らく私の大切な相棒だったかの少年は、魔族との戦いに明け暮れながらも成人し、オギノス王国を平和に導いた。

 晩年、相棒の私がゆっくり眠れるようにと、以前いた湿気た地下室ではなく、落ち着く綺麗な小神殿を国王は建てた。更に王妃が心を込めて内装を上品に装飾してくれた。


 なんて素敵な神殿! ここで眠れば最終目的がいつか果たせそう。


 私好みの静かなお部屋の中央で、運び込まれていたあの岩(なぜか天蓋付き)にまた突き刺さり、私、豪魔剣『プラド』は再び眠りに就いた。この不思議な岩から魔力を受け取り、この身に蓄積していくために。


 国王は親友の一人である大神官に、私の望むまま、安らかな眠りを護るように命じた。

 そうして私は、オギノス王国の王家一族のみに伝えられる、古い伝説となったのだった。


 長い年月が過ぎたある日、おそらく20代半ばの若い男性二人が、小綺麗だけど古くなった神殿で静かに眠る私の所にやってきた。


「殿下、封印開放前の儀式の言葉は、正確にお願いします。言い伝えの手順を守って下さい」

「分かっている。……私は第二王子エドウィン。再び魔物や魔族が各地に現れ、国中の人々が苦しんでいる。力を貸して欲しい」


 二人共、それぞれ彼の王と神官の子孫だと名乗った。その身に纏う魔力の波動の類似性から、それは本当だと分かる。


 名乗って『きちんと頼む』彼に対し、うーん、どうしようかな、と悩む。


 だが、その間に王子が豪魔剣『プラド』の柄を握り、魔術師が封印開放の魔法陣を展開し発動させてしまった! 拒絶を躊躇ったためか、王家の魔力を持つエドウィンは、岩から私を引き抜くことができちゃった。


 金髪のエドウィンは細身、瞳は緑色の凛々しい煌びやかな王子様だ。ローブを纏った魔術師は黒髪に蒼い瞳で、真面目そうな美形だった。剣が抜けたと喜ぶ二人に、改めて、よろしくね、の輝きを放った。

 その日から、エドウィンが私の相棒になった。



 強力な魔術師と親友で剣術の達人である騎士を従え、彼エドウィンは私を片手に、多数の魔物と戦って戦いまくった。

 私達は戦いを通してお互いを信頼し合う相棒となり、強い絆を感じる。戦いの合間に、エドウィンは国の平和と人々の幸せと彼の夢について語ってくれた。剣である『プラド』に分かってほしいように。その純粋な夢と人々に対する優しさに強く惹かれて力を貸す私に、彼も強い想いを向けてくれた。


 北の山の麓で、東の平原で、南の海岸で、更には西の隣国と。もはや戦う相手は魔物だけではなくなった。魔物に蹂躙されて乱れた国を狙って、隣国が攻めて来たのだ。


 次々に襲い掛かって来る魔族を一刀両断に切り倒し、エドウィンの魔力に剣の力を重ねて、広範囲の多数の敵を一気に薙ぎ払う。

 一所懸命に戦うエドウィンのために、私も豪魔剣の持つ以上の力を発揮した。


「いつもありがとう。君のお陰で強い俺でいられる。今日も仲間を守れた」

『あなたとあなたが大切に想う皆のために、私も精一杯の力を出すわ』


 例え剣である私の声が伝わっていなくても、エドウィンは私の想いを分かってくれたように、感謝を込めて剣の白銀色の飾り石を撫でてくれる。彼の優しさが伝わってくるようだ。


 かつてのあの少年も、よく私を、剣の飾り石を優しく撫でていた。少年時代は祈り頼るように、青年時代は愛を込めて。泣いていた少女を王妃に迎えて子供に囲まれてからは、年長者の労わりと感謝をこめて。

 彼とは強い絆を持てて幸せだったなあ。懐かしい。


 ある日、エドウィン達は平原で多数の魔物に包囲されそうになった。

 彼の想いに応えたくて、豪魔剣の魔力でエドウィンの魔力をできるだけ増幅する。一振りで周囲の魔物を魔力波で打ち払い、どんな強固な肉体を持つ魔物だろうが切り裂く。


「殿下、魔物が多すぎます! 無茶だ、後退して下さい! 防御魔法も長くは保ちません!」

「俺が魔物を引き付ける! 撤退を!」

「ここを退くわけにはいかない! 豪魔剣『プラド』! 敵を薙ぎ払え!」


 親友の騎士がエドウィンを庇って前へ出ようとしたところ、エドウィンはプラドを振るって囲んでいた魔物十数匹を一瞬で消す。その様子に勢い付いた騎士達が追い討ちを掛け、戦況はすぐさま優勢になった。

 結局、エドウィンが私の剣の力で何度も魔力波を放って魔物を追い払い、辛くも勝利した。だが、戦いが終わって喜びに沸く騎士達に囲まれながらも、なぜかエドウィンは不満顔だ。

 

「勝ったというのに、エドウィン殿下、どうされました?」

「なあ、この豪魔剣、威力が弱くなってないか? 魔力波は宮廷魔術士より少し強いくらいで、以前ほど攻撃範囲も広くない」

『でも、私プラドも最大限の魔力で頑張ったのよ! あなたのために!』


 もちろん、私の強い想いはエドウィンに聞こえていない。けれど、分かってほしい。


「そうか? 並みの剣より遥かに強いと思うが……。今までこの剣で多くの魔物を倒してきた。殿下が強くなり過ぎて、物足りなくなってきたのかもしれないな」


 納得のいかないエドウィンを親友の騎士が揶揄う。手を伸ばし、エドウィンから私を借りて刃を検めるけど、刃こぼれは無い。それならばと、魔術師が魔術で様子を調べてみると言い、私を受け取る。複雑な魔法陣が私を包み込んだ。


「……これは、当初の頃より、豪魔剣の魔力が相当落ちてきています。長く続いた激しい戦いで、疲弊しているのかもしれません。癒しの魔法を試してみましょう」

「頼む。まだまだ役に立ってもらわねばならない」


 ピシッ! と私の中にヒビが入った気がした。


 エドウィン、今、何て言ったの? きっと聞き違いよね。大事な相棒に言う言葉じゃないもの。

 魔術師が癒しの呪文を唱えてるけど、ちっとも身に浸み渡らない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ