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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者になんてなるものか!(仮

作者: 散歩道

バシャバシャと、音を立て真っ暗な下水道をひたすら走る小さな影。


「ちっくしょー!途中までは上手くいっていた筈なのに・・・。」


薄汚れた格好に黒目黒髪、この街所か隣国にすら見た事も無い様な容姿。


「あの時間に衛兵が見回ってる筈が無いのに何か事件でも起こったのかなぁ?


これっぽっちの食料じゃ母ちゃんの三日分のご飯にもならないや・・・。


母ちゃん、食料が少ないと自分で食べずにいっつも俺に食べろって言うからなー。」


などと呟きながら、走り続けると下水道の出口、出口と言っても出た先は汚水やゴミの貯まるスラム街。


「おー!チビ黒じゃねぇか!またおめぇ街に盗みに行ってやがったな!」


「うるせぇよ!チビ黒って言うんじゃねぇよ!」


そう、見た目が黒い上にチビだからチビ黒。


「おっさんこそ、今日もゴミ漁りじゃねぇか!」


「ゴミ漁りをなめんじゃねぇぞ?

街の連中や貴族どもはまだまだ使える物でも何でも捨てやがる。割れただけの魔道ランプだって何だってあるんだ!


おめぇん家だって、あるだろうが!ゴミの山から屑魔石を集めなきゃ夜だって真っ暗なんだぞ?」


おっさんが間違っているとは思わないが、俺の体じゃ力仕事は無理だし、あんまり家を空けていられないから

一日中ゴミ漁りをしている訳にもいかないんだ。


「おっさん、ごめんよ!今度手伝うからねー。」


「おう、早く帰らないとまた母ちゃんが探しに出ちまうぞー。」


「うん!急いで帰る!」


おっさんとの会話も程々に家へと走ると、丁度母ちゃんが家から出てきたところだった。


「クロウ?何処に居るの?」


「あー!母ちゃん!家から出てきちゃ危ないって!」


「もう!あんまり帰りが遅いから怪我でもしてないかと心配したじゃないかい・・・。」


「今日は、畑の手伝いが長引いたからしょうがないだろ?」


「そうかい、そうかい・・・。

ごめんよぉ。母ちゃんの目が見えればお前にこんな苦労はかけなくて良いのにねぇ・・・。」


「こんなの、どこのうちでもみんな働いてるよ!

母ちゃんだって目が見えてた頃は毎日暗くなるまで働いておいらを育ててくれたんじゃないか!」


そう、俺の母ちゃんは目が見えないのだ。去年のはやり病で一週間も高熱が続き、何とか命は助かったものの

目が見えなくなってしまったのだ。


はやり病では高価なポーションや高位の回復魔法があればそんな事は無く二日もすれば熱も下がって元気になるのだが

こんなスラムで暮らしている俺達にはそんな大金は無く熱が下がるまでひたすら耐えるしかなかった。


母ちゃんがはやり病にかかった原因だって俺にある。

はやり病で高熱を出した俺を三日三晩寝ずに看病してくれたおかげで俺は元気になったがその数日後に母ちゃんがはやり病になってしまった。


「そうは言ってもねぇ・・・。あんたの居ない家で一人で待っているのは寂しいんだよ・・・。」


「明日からも、手伝いがあるけど暗くなる前に帰ってくるから待っててくれよ?」


「母ちゃん寂しいけど我慢するよ・・・。」


こうしていると、大きな子供みたいな母ちゃんだ・・・。


母ちゃんと家に入ると、集めておいた屑魔石を魔道ランプに入れ明かりを付ける。


「母ちゃん、ご飯できたから食べよう?」


「クロウ?あんたもしっかり食べないと大きくなれないよ?」


「俺はこれから大きくなるから大丈夫だよ!!」


「この一年でどれだけ大きくなったかこの眼で見られないのが本当に悔やまれるよ・・・。」


「もう、いつまでも小さい訳じゃないんだよ?

母ちゃんなんてあっという間に追い抜いちゃうんだ!」


「そうだねぇ、楽しみだねぇ・・・。

大きくなったクロウがお嫁さんを連れて帰ってくるのが・・・。」


母ちゃんは目が見えなくなってからずいぶん弱気になってしまった。


冒険者になれるのは12歳から。

優秀な貴族の子供とかは10歳から学院とか言う所に行って勉強するそうだ。


俺はたぶん5歳だから後7年は我慢しなきゃいけない。


でも、冒険者になって母ちゃんの目を治す為にたくさん金を稼いで、こんなスラム暮らしなんて卒業して

街中じゃなくても田舎でノンビリ暮らすのが俺の大きな夢だ。



〜〜〜〜それから時は流れ五年後〜〜〜〜


「今日は、そこそこ魔物も狩れたし、鳥とウサギも採れたからご馳走だー!」


街を出た先の森で狩りを終え暗くなる前に家路へと急ぐ。

魔物と言っても、俺が倒せるのは精々ゴブリンかホーンラビットまでだ。


それでも、気をつけないと直ぐに仲間を呼ばれて逆に此方が狩られる側にまわってしまう。


街が近づきいつもと同じスラム街だ・・・。いつもと同じ・・・。


「あれ?なんかおかしいぞ?」


夕飯の支度で所々に煙が上がるのはいつもの事なのだが今日に限っては何か煙の雰囲気が違う。


白い煙がほとんど無く黒い煤の嫌な煙がほとんどなのだ・・・。


「何があったか判らないけど、何か嫌な予感がする。

母ちゃんが心配だ!急いで帰らないと。」


いつも以上に急いで家へと走る。

スラム街だった物を尻目に脇目も振らずひたすら走る。


「一体何があったって言うんだ!何でこんな事に!」


家まで帰ってきた俺の目に映る物は、俺が今まで住んできた家だった物の残骸・・・。


「母ちゃん!母ちゃん!どこだ!母ちゃん居るのか!?」


大声で叫ぶと、瓦礫の中で何かが動いた気配がする。


「母ちゃん!そこか!直ぐに助けるから!」


急いで瓦礫をどけ、そこに目をやると、瓦礫に埋もれた母ちゃんを見つけた。


「母ちゃん!大丈夫か??すぐに全部どけるから我慢してくれよ?」


「その声は、クロウかい?私の事はいいからすぐにここから逃げるんだよ?

良いかい、絶対に戻ってきちゃ駄目だよ?」


「母ちゃん!何を馬鹿な事を言ってるだ!」


瓦礫の中から母ちゃんを助け出したものの母ちゃんは傷が深く気を失っている様だ。


先ほどの母ちゃんの言っていた言葉が気になりスラム街から急いで森へと走る。


母ちゃんを背中に背負いなるべく揺らさない様に気を使いながら走り、森に流れる川に着いた頃には完全に日は暮れて居た。


「あぁ、クロウや?そこに居るのかい?」


「母ちゃん?気がついた?でも、しゃべっちゃ駄目だよ?傷が深くて薬草を塗ったけど喋ると命に関わるよ・・・。」


そう、母ちゃんの傷は思いの他深く薬草だけでは血を止めるだけが精一杯だった。


「良いんだよ・・・。母ちゃんだって元は冒険者だったんだ。自分の傷が助からない位深い傷だってのは判ってるんだよ。」


「何言ってんだよ!明るくなったらまた薬草を探してくるからじっと休んでてよ?


無理をしなければ大丈夫だよ?」


「いいから聞きなさい?」


「聞くってなにさ?」


「クロウ、母ちゃんは本当の母ちゃんじゃないんだよ?」


「え!?突然何を・・・。」


「あれは丁度10年前・・・。


冒険者を引退して、田舎暮らしでもしようかと思い近くの村へと向かっていた所でね・・・。」


ゴホゴホと咳き込み言葉に詰まる母ちゃん。


「ほら、無理するからだよ・・・。

傷が治ったらいくらでも聞くから今は安静にしててよ・・・。」


「野営の準備をしていると、近くで赤ん坊の無く声がしたのさ・・・。


声のする方に歩いていくと、野党なのか魔物の群れなのか原因は不明だったけど


一台の馬車が横倒しになって馬車に乗っていた人たちは全滅していたんだよ。」


「全滅って・・・・。」


「でもね、横倒しになっていた馬車の陰に布に包まれたあんたを見つけたんだよ。」


「それが・・・俺・・・?」


「そうだよ・・・。母ちゃんどうしても泣いているあんたを見捨てる事が出来ずに連れて行く事にしたのさ。


でも、優秀な冒険者って訳でも無く冒険者になり切れなかった母ちゃんじゃ街の中で生活なんてとても無理な話だったんだよ。


すぐに持っていたお金も尽きてねぇ・・・。


なんとかスラムのボロ屋で住まわせてもらえる事になったけど、あんたには凄く苦労をかけたねぇ。」


「苦労なんて、母ちゃんと二人だったけどスラムのみんなだって優しかったし全然苦労だなんて思った事なんてないよ!!」


「そうかい・・・。みんなみんな連れて行かれちまったよ・・・。

母ちゃんみたいに目が見えなかったり使えないと判断された者はみんな殺されちまった・・・。」


「そうだよ!一体何があったって言うんだよ!」


「何年か前のはやり病の原因はスラムだって事で領主様の命令でスラムの住人はみんな奴隷にされちまったんだよ・・・。」


「そ、そんな・・・。」


「あぁ、どうやら母ちゃんもお迎えが来たようだよ・・・。」


「ほら、しゃべっちゃ駄目だって!本当に死んでしまうよ!」


「あぁ、クロウ・・・。本当に大きくなったんだねぇ・・・。」


「母ちゃん?目が?目が見えるのか?」


「あぁ、神様ありがとうございます・・・。こんな私の最後の願いを聞き入れてくださって・・・。」


「母ちゃん?最後って?最後って?」


母ちゃんの瞳から光が消えていく。


「母ちゃーーーーーーん!!」


次の瞬間俺の視界が白く染まる。


『約束の時が過ぎたようじゃのぉ・・・。』


「約束・・・・?」


突然頭に響く声。


次の瞬間、頭に響く声に聞き覚えがあるのを思い出す。


声だけではない、俺はここを知っている。


そうそうだ。

俺の名前は露木蔵人ツユキ クロウド都内の公立高校に通う高校2年生だったのだ。


突然異世界に呼び出されると言う不幸に見舞われたとこで神と名乗る糞爺に声をかけられそして、俺は

この爺と賭けをしたのだった。


「糞爺、確かに賭けはしたが今の今まで地球の記憶なんてまったく無かったぞ?

チートどころか記憶すら無しなんて無理ゲーにも程があるんじゃねぇか。」


『それは、ひどい言いがかりじゃと思うぞい?


お主が自分で言ったんじゃろうに、チート無しで10年生き延びたら他の勇者より10倍強くしてくれって。』


「確かに言った記憶があるが、記憶まで封印しなくて良いんじゃないのか?」


『お主の大好きなふぁんたじー小説とやらにもあったじゃろうに・・・。

ほれ「知識ちーと」とやらがのぉ・・・。』


「あっ・・・。」


そうだ、確かに現代知識は十分チートになりうる。


確かに生きてきた10年間を思い出しても現代知識さえあればあっというまに城位は建てられそうだった。


『そうじゃろう。そうじゃろう。悪いのはワシじゃなくてちゃんと条件を確認せんかったお主じゃろうに。』


「あぁ、爺さんそれに関しては謝罪しよう。

で、再びここに来たと言うことは賭けに勝ったと言う事で良いんだよな?」


『せっかちじゃのぉ。お茶でも飲まんかえ?』


「爺さん、俺と話してるのは良いんだが神様って暇なのか?」


『暇とは何じゃ!下界の様子を見たり女神達の着替えを覗いたり、おぬし達のような異世界からの魂の管理をしてみたり忙しいんじゃよ?』


今、途中でやばい事をさらりと言いやがったぞこのエロ爺。


「所で、俺の過ごした10年は現実だったのか?」


『お主の生きた10年と言うよりはのぉ・・・。

他の勇者達は、あと二年ほどで勇者の力に目覚めると共に記憶が戻るようになっておる。』


「そうか、二年後か・・・・。」


『お主に与えられた力は向こうで確かめると良いぞい?


お主達の世界の言葉でいうならのんくれーむのんりたーんと言う奴じゃ。


それでは、第二の人生悔い無き事を祈るぞい。』


「あっ!ちょっとまてよ!既に悔いが残ってるのにそれは無いんじゃねぇのか!?」


『ほっほっほっほっ。

お主の母親だった娘は本来であれば、お主に出会った夜に魔物の群れに襲われて死んでおったのじゃ。


お主の泣き声で、魔物とすれ違いになってその後の10年は充実した人生を過ごせたようじゃぞ?


時間も無いからさっさと行くが良いぞよ。』


その言葉と共に、俺の視界は再び真っ白になっていくのであった・・・。


俺は、勇者なんて御免だ!腐った貴族や王族連中の言いなりなんてなってなるものか。


そう、俺は冒険者になるんだ!母ちゃんの見てきた世界を見て回るんだ!


薄れ行く意識の中で俺はそう強く願ったのだった。

ご意見感想あればお気軽にどうぞ。


連載になるかは現状不明ですが、思いつきで書いた短編になる為

作りこみはまだまだ甘い所が多いです。



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