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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

口移しのシードル

作者: パルコ

テーマは「俺、何やってんだろう……」です。

初めてちょっとエロいの書きました!


 五年ぶりに大学時代の友人と会って、食事をした。料理は美味かったし、久々に友人と話すのは楽しかった。玄関の明かりを点けると、自分の趣味ではない派手なスニーカーが脱ぎ捨てられている。自分のスニーカーとそのスニーカーを揃えてリビングに入ると、やっぱり彼が転がっていた。


 彼と知り合ったのは一年前で、俺が八年前まで勤めていた編集社の先輩から紹介されたのが始まりだった。オリコンのTOP10に必ず入るバンドのボーカリストで、数多の人気アーティストの楽曲を手掛ける彼を日本で知らない人はいないだろう。あぁ、あと彼が結構な遊び人だということも日本で知らない人はいないと思う。むしろそっちの方が有名だと思う。それは置いといて、彼と先輩は大学時代から仲が良く、この時も二人が飲んでいる所に俺が途中参戦した形だった。いつも画面越しに見ていて、派手な男だと思っていたが、思った通りの男だと感じた。


 けれど、鋭い眼光で歌っていた画面の向こうにいる彼とは違って、その時は悪戯が成功した子どものような顔で笑ってて、俺は彼から目が離せなかった。


 それから、俺と彼は二人で飲みに行ったり、彼のライブに行ったりもした。そうやって友人のような付き合いをしていたが、ある日の取材終わりに彼と飲んでいたときに唐突に言われた。

『俺、君を好きになったみたいだ』

もう酔っているのかと軽く受け流そうとしたが、バーボンは減ってなかったし、彼の目がなんだか嘘を言っているようにも見えなくて、この人は本気なんだな、と思った。

彼の言葉にまだ、返事はしていない。


 返事をしていないにもかかわらず、彼に抱かれたことも何度かあるし、キスも数えるのが不毛なくらいしたと思う。二ヵ月前まで、彼が俺の部屋の鍵が欲しいとしつこかったから合鍵を渡したところまで思い出して、考え事をやめた。とりあえず、このテーブルいっぱいのボトルを片付けないとまずい。ボトルを片付けて、テーブルを拭き終えると彼がソファで寝返りを打った。切れ長の目は閉じられて、むにゅむにゅ動く口元は子どもみたいだ。その無防備な寝姿が何となくあどけなくて、愛らしい。自分よりも年上の彼にそんな表現はおかしいかも知れないけど。


 そういえば最近会うことがなかった気がする。俺は急ぎの記事があったし、彼も彼で忙しくしていたから。まぁ、彼はまたネットニュースに上がってたけど。何のニュースかって、そりゃデート報道に決まっている。今度は若い女優と撮られたみたいだ。聞いていないから詳しくは知らないけれど。


 しばらく会えなかった所為なのか、懐かしさに駆られてしまって彼の髪に触れていた。傷んだ髪は指が通らずキシキシしている。彼の髪を弄っていると、投げ出されてソファから落ちた右手が目に入って、節だった長い指に自分の指を絡めた。友人の娘さんは高校受験を控えているらしい。これから金がかかるとぼやいていた。かたや俺は、強引で魅力的な彼に腕を引かれている。彼に告白されてからずっと、俺は明確な答えを彼に出していない。


 彼に対する感情がどういうものかも分からない。でも、嫌いだったら彼とここまで踏み込んだ関係にはなっていないだろう。もしかしたら昔に色々なことがあり過ぎて、何でもかんでも受け入れる癖がついてしまったのかも知れない。彼は今も、俺の答えを待っているんだろうか。


 彼の髪から手を離して、片付けていたときに出しておいたシードルに口をつけると、林檎の香りが鼻を掠める。ボトルをテーブルに置いたとき、急に左手に重みを感じた。なんだか見られているような気もする。視線を辿ってみると、彼の切れ長の目が開いていて、色素の薄い瞳は熱を孕んでいる。


 体を起こした彼は変わらず俺を見ている。お帰り、楽しかった? 何食べたの? 何の話したの?、と問い詰める彼に逐一答えを与えていく。掠れた甘みのある声は、いつか見たアニメのダークヒーローに似ている。挙句、お前がいなくて寂しかったと抱きしめられた。頼むからそんな愛おしそうに頬ずりしないで欲しい。いつも奔放なあんたがすり寄ってきて、どうしたらいいのか俺には分からないのに。繋がれた手を離して彼を恐る恐る抱きとめると、さらに強く抱きしめられる。男と付き合うのが嫌なら彼にそう言って繋がりを切れば良い。けれど彼には魅力があり過ぎる。俺は一体、何をどうすれば満足なんだろう。


 またシードルに手を伸ばす。口につけようとしたところで、彼にボトルを奪われた。シードルは彼の口に注がれていく。まだ飲めたのかこの人……と考えていると後頭部を掴まれて、えっ、と声をあげようとすると口を塞がれた。押し込まれた舌を伝って俺の咥内に液体が流れ込む。液体は林檎の香りがして、キレのある爽やかな味のするそれは、馬鹿みたいに甘だるく感じて腰に官能的な痺れが走る。俺が甘い液体を飲み下しても、彼は唇を離すことはなく粘着質な水音が部屋に響く。骨が溶けたのかと錯覚するくらいに体の力が抜けたと同時にお互いの唇が離れた。やっと終わったと呼吸が楽になった時には、俺はもう天井を見ていた。意識の遠い場所で衣擦れの音が聞こえる。


 お前は結婚しないのか、という友人の言葉を思い出した。周りでも早い奴は二十歳はたちそこそこで家庭を持っているし、今日会った友人も高校生の息子と中学生の娘がいる。だからといって俺はパートナーを見つける気も起きないし、多分しばらくは所帯持ちたいなんてことは思わないんだろう。今、俺を組み敷いている彼。派手な見た目で周りからは怖がられて、気分屋で、年甲斐もなく甘えたで、そして何よりも自由を愛している人……。それでも、彼に惹かれる人はたくさんいる。彼が俺から離れたとき、俺は何を思って、どんな未来を見るんだろう。実家に戻されることは無いとは思うから、おそらく平凡で静かな生活を送るんだろう。普通に結婚して、普通の家庭を築いていく中で、彼を思い出すんだろうか。あぁ、彼が怖い顔をしている。


 彼に意識を戻したと同時に喉に強い痛みを感じた。彼が俺の喉を喰いちぎる勢いで噛み付いているからだと気づくのに時間はかからなかった。痛みが終わると体内の水が沸いて、腰骨が融けるような感覚を覚える。明日は取材があるから勘弁してほしかったけど、絶対彼が解放してくれるはずはないし。まぁ今考えても仕方がない。明日のことは終わってから考えることにしよう。彼の機嫌も悪いし。これじゃあ終わるのは朝だろうな。そこまで考えて目を閉じると、俺の腰でカチャカチャと金属音が聞こえた。

何やってんだ感があまり出なかったような……。

ここまで読んで下さりありがとうございます。

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