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  作者: 奥野鷹弘
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前編

 あいつが作った料理は、お世辞が言えるほど美味いものではない。


 料理が趣味だとかバイトで下積みが長いとか、そんなのは経歴だけであいつの味なんかではない。


 俺にはさっぱり美味しさを感じれない食べ物を、あいつの彼女は一口するたびに『おいしっ~』て喉を震わせて年齢に合わないような声で、べた褒めしてる。それに、俺がどんなにお腹を空かせてあいつの試食は食べたとしても、砂を食べたかのようにジャリジャリして不快で美味しくない。



 あいつがお店を出したいと告白してから、4年目から5年目を告げようとしている今日この頃。

 ここに来る途中、街中は振袖だとかスーツだとかでにぎわって楽しそうだった。そんな中の俺は、降り積もりが増すこの雪のように真っ白くて冷たくてふわふわなこの世界にひとり、たたずんでいるような感覚に襲われていた。何も悲しくなんてないのに。


 思い返せば4年前の成人式の日の帰り、たまたまバスで乗り込んできたあいつは、学生時代よりはるかに大人びていた。いや、それはただただスーツ姿のせいだったのかもしれない。俺はただバイト明けのやつれた姿であったのに、そんな俺を迷わずかけてきたあいつは、俺と目を合わした瞬間に一字一句間違わないでフルネームで呼び微笑んだ。あいつは、俺に逢うのが予想以上に嬉しいようで、俺と二人の話に華が咲いた。

 もちろん俺も嬉しくてそのあと何時間も話に盛り上がった。とはいえど、あいつの意向でアドレスだけを交換して、のちに何時間もメールのやり取りをしたというビックリな話なんだが。

 よく考えればあいつが話したかったことは、「懐かしい」とか「友達」だとかそんなんでなく、自分の夢を大いに自慢したかっただけなのかもしれない。だから、試食の話や経営の話に従業員、インテリア、敷地や土地などを相談してきたんだ。頼られているようで、でもコマにされているようで…考えてみれば切ない感情を少し抱いてる。



 あいつには彼女がいるんだが、それがまたお似合いだ。

 昔は、目と鼻の先的なイメージ的な二人だったらしいのだが、今はどちらかが相手に合わせているのか、それとも本当の恋人同士にもなれば自然に見えるという事なのか。それでも、ふたりの姿は出来すぎていて逆に気持ち悪いほどだ。

 いや、男性女性わけ果て無く付き合いをしている俺には、盲目なことなんだろうけど。ただ、あいつの人生は20という大人の数字とともに、富を確実に手にしているということに爪を噛んでしまう。





 そんな思考の中で、あいつの声が響いてきた。

 「んで、この味どうだっ?」

 「・・・ぇ?うん、まぁまぁかな。」


 俺は、あいつの試食のためにココにいる。

 「はぁ??まだ、気に食わねぇってやつかよ。どんだけ欲張りなんだよっ。お前が『刺激が欲しいな~っ。ほらっ、恋して二股かけて”さんかっけい”ってみたいなスパイシィなやつ。』っていうから、試行錯誤して作ったんだぞ?」

 「・・・いや、違うんだってよ。なんか、お前らしい”愛”が感じられないんだよ?」


 俺は、不味いとは云えなかった。でもそれは、自分の舌が本物かどうかわからないからだ。



 あいつは、冷や汗をかいて無口になった。いつもお供するあいつの彼女だけは、どれもこれも『おいしい~』て告げる。そして、最終的には『新しい味だねぇ~』て片付けて微笑んでいる。時々、『新しい”有くん”発見っ!!』て呟いているけど…そんなのは味すらも感じられないし、求めてもいない。

 ただ、彼女も彼女で、あいつが好きでいるのならば、俺の批判に対する目をそろそろ向けて、「何なの??」て怒鳴り散らしてきても良いんじゃないのかなて描いてる。そうすれば俺自身、身を引いてお店をすぐさま『オープン!』という形に持っていけるのではないだろうか。

 俺は、悪魔なのだろうか。



 そうして俺は、あいつの試食をあとにして、一日に幕を下ろすことにした。


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