プロローグ
「奴隷を愛して何がおかしい! 人が人を愛するのに理由などいるものか!」
豪奢に飾られた部屋の中、シャインは糾弾した。煌びやかな衣装に身を包んだまわりの貴族たちは皆嘲るような目でシャインを見ている。
「シャイン、お前は自分が何を言っているのか理解しているのか?」
嘲笑の中、一人だけ険しい顔をした男が言った。テーブルの対角線上に鎮座する体格の良い男は、鋭い眼光でシャインを見据える。
「お前は下々の者たちとは住む世界が違う。ましてや奴隷など、吸っている空気が違うのだ」
雄々しい髭を蓄えた大男は戒めるようにシャインに言い放つ。
「なにが違うのですか! セイレーンは同じ人間です。私が見初めた相手です」
直も食らいつくシャインに、男の顔はさらに険しくなっていく。
「シャンバルに命じて妙な首輪も作らせたようだな。貴族と奴隷を結ぶ首輪など……。当然シャンバルが無事では済まないことも理解しているのだろうな」
稀代の魔法科学者、シャンバルの顔が頭に浮かび言葉に詰まる。個人的な理由により彼に無理やり首輪を作らせたのは他ならぬシャインである。
「今夜一晩のうちに考えを改めよシャイン。お前は昔から賢い子だった。今なら一時の気の迷いとしてこの事実はなかったことにしよう」
噛みしめたシャインの唇からは血が滲んでいる。
「私は絶対にセイレーンを守り抜いてみせる。例えここにいる全員を殺してもだ!」
シャインは腰に掛けた剣を抜いた。