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焦っていたのです。

--大変な事になってしまった。


 自分の部屋の真ん中で頭を抱えているのは私、川澄七海、十五歳。--今時自己紹介で年齢言っちゃうとかアイドル気取りかよと突っ込まれそうだけども--人生で最大のピンチを迎えています。……いや、ピンチなのか? これ。


『俺と付き合えば』


 そんな爆弾発言をした木島輝は私のクラスメートであり幼馴染みだ。

 彼とは親同士が友人関係で生まれた時からの知り合いで、家もそう遠くはない距離にある為に小さな頃からよく一緒に遊んでいた。

 小さな頃から体を動かす事が大好きだった彼は今でもスポーツ万能少年で、それ故、高校に入って運動部はおろか、どの部活にも属さなかったことは私も含め、周囲の人々を驚かせた。--輝のお母さんだけは何だかにこにこしていたのだけれど。

 中学の時はサッカー部だったんだけどなぁ。あっつい日とかでもグラウンド駆けまくってたのに。


 頭の方は言っては悪いけど正直宜しくない。これに関しては私も人の事は言えないんだけど、勉強なんて、テスト前に少しだけして赤点を何とかギリギリ免れてるというレベルだ。

 だからこそあんな発想に至ったのだろう。


 何となくであった。本当に何となくであったのだ。

 一言、つまんないなあ、と。

 そう呟いた私に彼は、だったら付き合おうと言い出したのだ。

 私は暫く呆然として、あっ今なんて言ったのー? と軽く聞き返した。

 気のせいだと思った。絶対機器間違いだと思った。

 近頃色々あって焦っていた為にそう聞こえてしまったのかなと思った。

 いけない、いけない。この恋愛脳めっ(ほしまーく)と自分を叱咤くしていると。


『だから。俺と付き合えばって』


 あ、風で聞こえなかったわっ。もう一回。

 そう返した私に、彼は聞こえてるだろと睨み付けた。そして呆れるように、またどこか焦ったように首を触りながら、その言葉の真意を口にした。

 彼の言い分はこうだ。

 つまらない、刺激が欲しい、どきどきしたい。イコール今までとは違う毎日、だ。

 これまでの生活で無かったもの、そう恋人である。

 恋愛のレの字もンの字も無かった私と輝。

 であれば、いっその事二人がお試しの恋人同士になって、本当の恋人ができた時の為に予行練習をしてみようではないか、と。


 詰まるところ、『恋人ごっこ』をしようと。


 純粋というか単純というか馬鹿というか。

 私は名案だろうと自慢げに笑う彼に一笑した。

『その話、乗りましょう』


--いや、うん。自分でもどうかしてたと思うよ。でもさ、私だって焦ってたんだよ! 友達みんな彼氏持ちなのに! 私だけ独り身なんて!!



 先日の事だ。

 友人の一人の長年の片想いが遂に終わった、つまり両想いになり交際することになったという話が舞い込んで来た。

 涙を流す程に喜ぶ友人。そしてそれを聞いた私と他女友達も勿論大喜びした。おめでとう、やったじゃんと激励の言葉が飛び、それに対してありがとう、みんなのお陰だよと彼女は返した。

 私達は知っていた。彼女が今までその恋に散々苦悩してきた事を。

 時には喜び、時には悲しみ。

 相手に彼女が出来て大泣きもした。

 酷い時にはもう好きでいるのを止めたいと嘆き落胆もしていた。

 だが彼女は諦めなかった。好きでいる事を決して止める事は無かった。

 そうして結ばれたのであるから嬉しくない筈がない。心から良かったと思えた。

 しかし、気付いてしまった。

 これで私の友達の中で恋人が居ない同志という存在が一人も居なくなってしまったということに。

 私は焦った。

--独り身なの私だけじゃん!

 そう心の内で叫ぶ私に、未だ激励していた友人の一人がこちらを振り返った。

 目には薄い水の膜が張られていて、キラキラと光に反射して輝いていた。その目がたちまち憂いを帯びて伏せられた。

「後は七海だけだね」



 それまで自分の恋話には対して興味も無かった。

 だが、しかし。彼女のひた向きに頑張る姿や幸せそうな姿を見て、恋に対して憧れのようなものを抱くようになった。

 いつか出来たらいいなとそうも感じていた。

 だから、とても焦りを感じた。

 それで、輝の少しお馬鹿な提案にも乗ってしまった。


 勢いで決まってしまった事だけど--

 まあ、恋人同士って言っても“ごっこ”だから大丈夫だよね?

 もしかしたら好きって気持ちとか、何か掴めるかもしれないし。

 どうにかなるか!!



 私は考える事を放棄した。

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