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第六話『王都へ至るまで』

ドラゴン来襲の後、クロネの提案により休憩することになった。

その際にいろいろな事をクロネに吐露してみたが、苦笑いを返されて逆に不安を覚えてしまった。

それから、徒歩でかなりの時間をかけて歩いてきたのだがそこまで疲労感はない。

疲れがそこまでない事もあって、先ほどのことを保留にしつつ歩き出したのはいいものの、あのドラゴンの言ったことが頭から離れない。



「私の魂は歪な形をしている、か……」



クロネには聞こえぬようにそう呟く。

こんな事は考えていても仕方のないことなのかもしれない。



「どうかしたの?」



クロネがこちらを覗き込むように見つめる。

どうやら立ち止まってしまっていたらしく、クロネも心配をかけてくれているようである。

アリスとしてはこの体に入ったせいなのか特に何も感じはしなかったが、元男だった身としてはちょっとだけ気恥ずかしい感じがする。

そうとはいえ口に出すのは流石にクロネに悪いような気がしたので自分からちょっとだけ距離を作る。



「ど、どうして離れるの?」


「クロネの顔が近すぎてびっくりしちゃって……。あはは……」



クロネがどこか残念そうな顔をしたことは予想外ではあったものの、とてもじゃないが元男として気恥ずかしかったなどとは今更言えそうにもない。

それよりも、自身が今後クロネに振り回されそうな危機感を感じた。

それはもう、いろんな意味で。



「……」


「……」



元男の気恥ずかしさから出てきた会話から一転、空間は完全に沈黙に支配されてしまった。

でもって自分から沈黙を破るようやキャラでもない、クロネが未だにアリス教とつながっていたら……などと疑ってしまい口を開こうにも開けない。

小首を傾げている様子からしてあり得るとは思えないが。



「ねえ、アリスちゃん」



なんだかんだ考えているうちに沈黙を破ったのはクロネだった。



「……えっと、どうしたの? クロネ」


「えっと、アリスちゃん。王都が見えてきたよ」


「ほ、ほう、あれが王都エルサムかぁ……」




かなり離れてはいるものの王都の城門がよく見える。要するにそれほど大きい門であるという事だろう。

その門の上からは巨大な城の上半分がはみ出して見えている。

気まずさは微妙に払拭されたので



「ゲーム時代でもそこまで見た事はないけど、ここまでくると芸術だね」



なにやらクロネが個人の感想を言っているが壮大なだけでなく、質素でかつ無骨な感じな雰囲気もあってこれはこれでいい。

城下に広がる街並みも相まり、もはや王都自体が一つの城のようにも思える。



「おい、止まれ。どこの者だ」



門を守っている衛兵が近づいてきて門へと近寄るアリスたちを呼び止める。



「私たちは冒険者です」



と、アリスが簡潔に伝えた。

他に伝えることもないので特に間違ってはいないであろう。



「ぼ、冒険者ぁ? 魔術士(マジシャン)の嬢ちゃんの方なら見ただけでわかるんだがなぁ……」



魔術士、つまり後ろでオドオドしているクロネのことだろう。そうなると、アリスには次に出てくる一言の想像は容易であった。



「そっちの嬢ちゃんは冒険者にしちゃ若すぎねえかい」



当然といえば当然の事であろう。


須応は一時期、ゲームの内容について興味が出て調べまくっていた時期があった。

裏設定というわけでもないが、仕事をする冒険者の最低の年齢は16歳程度である。

ALMO(アルモ)におけるキャラメイクの仕様上それ以下の年齢も設定可能ではある。

VRの仕様上、体型は自身のものをコピーする事が推奨されており、こんな子供にするプレイヤーは滅多にいない。

対象年齢にしてもR-15(15歳未満禁止)のため、最年少の冒険者が16歳程度だという事はあながち間違えではない事がわかる。

若くしたとして特にデメリットがあるわけではないが、日常で使う体の感覚がおかしくなるので推奨はされていない。

そう、推奨されていないだけだ。


今回、アリスは見た目の年齢が低すぎた。

元々の中身はんでもなく老いているが、アリス自身は未だに精神年齢が若いことを自負している。



「……そういう事なら、私の力を示せば良いのか?」


「力を示すって言ったってな……」



ドラゴンにも言われていた、小さき器に閉じ込められた強大な魂とはまさにこういう事だろう。

年齢に見合わぬ力(老いた精神)を宿すのは思っていたよりもこういう面でリスキーなものだったらしい。



「それなら、私が攻撃してあなたが倒れなければ通してください」


「そういうのは逆に通したくないんだが……」



返ってくるのは当然の反応だった。

こんな子供に喧嘩を突然ふっかけられて乗る大人気ない奴(バカ)はそうそういない。

だが、魔物とか(頭の切れる奴)はなんとなくだがアリスが醸し出す雰囲気だけでも強いとはわかるのだろう。

ただ、下っ端衛兵としては勝手に謎の人物を通してしまうのは流石に上が黙っていないのだろう。



「むぅ……」



とはいえアリスも所詮人の子。そこまで露骨に嫌な顔をされては傷ついてしまうものだ。

そして、側ではクロネが苦笑を浮かべている事には幸いな事に気がつく様子はない。気が付いたら気が付いたで余計に傷つくのがオチなのだが。



「立ち話もなんだ。そこにある詰所の中で腰を落ち着けて話そう」



衛兵の男は門にくっ付いたように建っている建物を指してそう言う。


アリスたちも長らく歩いてきているので疲れもかなり溜まっている。

アリス自身はそうでもなかったがクロネがきつそうな顔をしていたのでその誘いに乗っておくことにした。


詰所の中は至ってシンプルで、木製の長机二つと丸椅子4つが真ん中にあって端の方に棚が幾つか置いてある。

そんな詰所の丸椅子二つにアリスとクロネがそれぞれ座る。



「そんで、あんたらは何者なんだ。パッと見、只者には見えんくてな」


「いえ、冒険者です」


「えーっと、あんたらは冒険者の証明になるものとかあるか?」



詰所の奥から先ほどの衛兵が戻ってきてアリスたちに尋ねた。

証明になると言ったらギルドカードとかだろうか。

確か、ギルドカードは高度な魔道具(エンチャントメント)の一種で、身分証明書として使えるとか用語集に掲載されていた覚えがある。



「これでいい?」



というわけで早速ギルドカートを提示する。



「ちょっとだけ借りますよ」



衛兵はそう言ってカードを機械、もとい魔道具に通してアリスへと変換する。



「はぁ? Aランクぅ!? 確かに登録されている顔画像とは一致しているが……」



魔導機械に表示されている結果をアリスの顔と見比べている。こんな子供がとんでもなく強いとか突然教えられたら驚きはするであろう。アリスの外見自体が登録できる年齢でもないため、当然の反応でもあるが。

とはいえ、テンプレな反応が観れるとは思っていなかったらしく平原を少しだけ誇らしそうに張って座っている。



「あー、上司に掛け合ってみる。……ただし、そこまで期待はしないでくれよ」



どうやら衛兵は観念したらしく、頭を掻きつつも詰所の脇にある扉から建物の奥へと入って行く。



「クロネ、オフラインでは詰所にこんなイベントってあるの?」


「……は?」



椅子に座って黙って待つのも勿体無いのでオフラインシナリオを進めているであろうクロネに話を伺う。

クロネが疑問符をあげるのも違和感はない。

何を隠そう、須応は最初からオフラインには見向きもせずにオンラインに手をつけた強者(バカ)なのだから……。


流石に言い方が悪いのかもしれない。オブラートに包んで表すならば説明嫌いと言うのだろうか。

要するに家電製品の説明書を読まずに始める面倒臭がりなタイプの人間なのである。

そのためゲームなんか説明書は絶対に読まない上にチュートリアルも極力飛ばす。


一言で言い表すとなると、面倒で且つ小さな物事には猪突猛進な人間であるというべきか。

大きな物事であれば避けるのみなのである。

このゲーム(ALMO)はオフラインが全部チュートリアルという須応にとっては最悪仕様である。

というわけで全てを飛ばしてしまった、というわけなのである。

とはいえ、オフラインのシナリオがこの世界(ALMOもどき)に逆輸入されている可能性も否めないのだ。



「えーと、私がやってきた中ではなかったと思うよ……。まだ一通りクリアできてなかったから、ごめんね」


「いやいや、どうなのかを聴けただけでも十分だよ」



もしかするとサイドストーリーとやらの可能性も否めないし、クロネの知らないメインストーリーの可能性もありえなくはない。

無限に分岐するドラマVRMMOと銘打っていたので今のところは確証が得られない。



「通っても大丈夫だそうだ。但し、条件付きでだ」



男が扉の奥から戻ってきて開口一番にそう言った。



「条件としては王都滞在中に必ずギルド本部に寄ることだそうだ。できれば早く寄って欲しいらしい」



という条件付きでアリス達は王都への通行を許されることになった。



「あー、二人だけのために門を開くのは面倒だから、そっちの扉入って廊下を真っ直ぐ行ってくれ。突き当たりにまた扉があるからそこから王都に出られるはずだ」


「わかりました。ありがとうございます。それではまた次の機会に会えたらいいですね」



アリスは機械的に衛兵へと感謝を述べる。



「俺としちゃ、あんたみたいな常軌を逸してる奴とはもう会いたくないけどな」



アリス達が扉の王へ行ったのを確認すると、衛兵の男は「でなきゃ俺の仕事が増える」と自嘲げに言ったのだった。

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