第三話『振興宗派爆誕の影響』
再び勢いです。
大放出です。
昨日の宗教勧誘の所為か、妙に二人がアリスに対して畏まった態度に見えるが、本人であるアリスは気のせいだと信じている。
「三人共に変な影響与えてしまったか……?」
アリスは肩を大きく落とし、しっかりと教祖的な存在になってしまったことを少し後悔する。
「どうかしましたか? アリスちゃん」
クロネは敬語とタメが混じっているが、敢えて突っ込まないことにする。
「アリスさん、抗争をどう回避するんですか?」
「言葉で諭す、かな?」
「さすがは僕らのアリスさん、僕では考え付きもしませんでした……」
とレンダートが言うが、これはこれで違和感は少ないのでスルー。
それでも遜り過ぎているのには違和感しかないのだが……。
と言うか、状況を知らぬ人が見れば変な性癖を持った集団に見られるからやめてほしい、というのが本意ではあるが本人達が好きでやっているので放っておこうと心に決めるアリス。
実際は心地も良いからも言う理由もあるのだが、それはどうでも良い話だ。
「それで、アリス様はどちらへ向かわれるので?」
アルフレッドがなかなかはまった感じのセリフを言う。
しかも外見と合わさって、非常に格好良い。
まあ役が決まっているので文句はない、とアリスは感じた。
「まあ、まずは周囲のフィールドに赴いてみようと思う。まずはこの世界が変わりないか試すべきだろう? 魔法の使い勝手とか、技能の使い勝手とか」
「ほう、さすがアリスちゃんですね!」
クロネには良い加減黙って欲しいと思うアリス。
そしてなんとなくだが調子に乗っているような感じも見て取れる。
「はい、無駄話をせずにアリスさんの目指す目的地へ向かいましょう」
「そうね」
「全くだ」
「は、はは……」
アリスはもはや別人と化した知り合いの会話を聞きつつ引きつった笑顔で笑う。
「あまり外受けの良くない表情は控えるべきです」
笑顔がぎこちなさすぎて、アルフレッドが小言を言ってくる。
アリスは、お前そんなキャラじゃなかっただろ、と言いかけるが、発端は自分である。
そのためその叫びをぐっと堪える。
「はぁ……」
大きな溜息を付くものの、アリスはこれをイメチェンと思うことにすれば違和感が無いと思った。
「アリスさん、溜息ばかりつくと幸せが逃げて行ってしまいますよ?」
「う、うるさいッ!」
小言を言ったレンダートについに怒鳴ってしまうアリスであった。
それからと言うものの、抗争へ赴き、それを持ち前の話術で除けるとアルフレッド達から尊敬の眼差しを受けて狼狽えてしまった。
「そろそろ、元に戻って……。お願いします……」
流石にアリスの心も耐えきれなくなったのか、レンダート達に頭を下げる。
「頭を御揚げください。アリス様は我々の心の支えなのです。こんなところで折れてしまえば我々の信じたアリス様は嘘になってしまいます。ですから、どうか御気を確かに」
それはお前らだろう、と言いたいところだが、ここでもグッとこらえる。
この日、アリスは彼らの教祖となった以上、責任を持つしかないと己の立場を自覚した瞬間であった。
自由な時間が欲しいアリスにとってそんな立場に立ち続けるのは御免なのだが。
それから言うものの、フィールドにて大量の魔物を倒した結果、魔物はフィールドに存在する魔力溜まりと言うものから、生まれるこ言うことがNPCの冒険者の話から分かった。
また、魔力の一種である瘴気から生まれ、その瘴気と通常の魔力の割合によって性格が変わると言うことを、街のNPCから聞いた。
NPCから巧みに情報を聞き出した際、毎度お馴染みのアルフレッド達からの尊敬の眼差しが強くなるのを感じるのであった。
・
そして日も暮れて、夜になった。
そしてアリスは溜息を吐き、嘆く。
「どうしたらこうなったのだろうか……」
普通ならアリスはもう寝るのだが、何故か、一般の街の民に教えを説くことになった。
どうしてこうなったのかはよく知らないが、アリスは粗方の予想は付いた。
恐らくアルフ達がアリスのことを過大評価していて、街の民に対して自慢していたのだろう。
それで、彼らがアリスの元へ押し寄せ、教えを説いてもらおう、と言うことなのだろう。
アリスは再び盛大に溜息を吐くが、こうなったら教えを説いておかないと、この街の民達は去っていかないと言うことを悟る。
それを悟った彼女はアルフ達に言ったこと其の儘を説いて見る。
「そ、そう言うことだったのか……!」
「これは改宗するべきだ!」
などと街の民が意味不明なことを言い出し、たちまちアリス教が信仰され始める。
アリスはそんな変な事態にまたまた溜息を吐くと、部屋へ戻って寝ることにしたのだった。
また、後にこの宿も聖女アリスが始めて教えを説いた地として巡礼地となる。
それを今のアリスは知る由もない。
次の日、目を開く。
心地の良い朝日が窓から差し込んでおり、快適な起床だ。
「さて、と?」
アリスは目を疑った。
宿の人がアリスの食事を持ってきているのだ。
「ささ、聖女様、詰まらない料理ですが御食べください」
「べ、別に詰まらない料理では無いと思うんだけど……」
アリスは困惑の笑みを浮かべる。
すると横からアルフレッドが言葉を発した。
「アリス様は小さきことを気にしない寛大なお方だ。皆のもの、安心したまえ」
アリスは宿の食事を摂りながら、うるせえ黙れこのバカフレッドが、と強く思ったが、食事をすることで怒りをなんとか抑える。
ストレスが溜まるものの、それは真夜中に馬鹿でかい魔術を行使することで解消している。
それはやってみると思いのほか楽しく、いつも夜が楽しみになる程だ。
「ご馳走様、とても美味しかったです」
取り敢えずトゲのない優しい言葉で褒めておく。
「おお! 有難うございます!!」
聖者として見られてるっぽいから、取り敢えず木のお皿に火属性の魔術で刻印を入れてみる。
アリスはちょっと良さげに彫ることが出来たので少し機嫌がよくなる。
「おおっ! この皿は一生大事に致します!!」
しかし、アリスは飛んで喜ぶ宿の主人を見て再び困惑した。
どうすればこの連鎖となりうる状況を抜け出せるのであろうか。
そう思うアリスではあるものの、良い案は思いつかず、取り敢えずアルフレッドに任せて見ることにして見た。
「アルフ、そろそろ出発したいんだけど……」
「……わかりました」
アルフレッドは静かに肯定する。
その仕草に妙な不安を感じるアリス。
「皆のもの、聴けぃ!! アリス様がそろそろ出発従っていらっしゃる! 道に立っているものはどかぬかぁ!」
「……」
どうやら言い知れぬ悪寒は正しかった様ではあるが、想像以上だった。
人は信じれるものを見つけるとここまで変わるものなのか、アリスはただただ驚きを隠せないのであった。
・
聖女爆誕騒動から大体一時間程が過ぎた。
アリスは溜息を吐きながら街を歩き回る。
アリスを聖女と崇めんとする者もいれば、そうでないものもいる。
そして、認識の違いからか、両者のいがみ合いが発生する。
それをアリスが自ら止めに入る。
一日を使い果たし宿にチェックインする。
すると教えを乞う者が現れるので、適当な教えを説く。
そして気が付けば信者が増えるサイクルだ。
要するに前から危惧していた嫌な連鎖である。
それが三日続き、ようやく信者の波も静まり、宿の一室で一息ついているところだった。
そこにふらっと謎の刺客が現れた。
「巷で噂の聖女だとお見受けする! お命頂戴いたす!」
「な!?」
突然忍者のような奴が現れたかと思うと短刀をアリスに突き立てる。
恐らくアリス教が広まっていることに危機を覚えた何者かが暗殺者を送り込んで来たのであろう。
しかし、職が『全能士』である彼女は現在使える技能を『格闘家』という格闘特化の職業にして有るので素手と言うものが十分な武器になる。
その所為か、気がつくと忍者もどきはぐちゃぐちゃに屠られていた。
結構造形がエグいので職業を変えて、火属性の魔術で燃やすと言う証拠隠滅を行う。
一応周囲が燃えるといけないので周囲を湿らせて対策を取る。
「あー、やっちゃった感が半端ないな……」
「何があられたのですか!?」
遅れて現れるアルフレッド。
もう遅いよ、と言いたいところだが、彼も所詮は人間。
同じ人間であるアリスが言えたことでは無いのだが。
アルフレッドは寝ていたのだ。
それは仕方が無いことだろう。
しかも聖騎士である彼は槍がなければ十分に戦えない。
武器の準備も必要である。
「一人で暗殺者を片付けたよ。怪我は無いから安心して。まあ、怪我しても速攻で治せるんだけどね」
「そうですか、流石はアリス様ですな。それでも、自分の力をあまり過信すると痛い目に会うのでお気をつけください。それでは」
アルフレッドはアリスが分かり切っていることを言い残して去って行った。
そういえば、アルフレッド以外はどこへ行ったのかが気になるのだが、アルフレッドは全く教えてくれない。
そのため自分で捜索して見ることにした。
インベントリより適当に探索者の指輪と呼ばれるイベントの報酬装備を取り出す。
この指輪は敵は疎か味方すら判別できる超絶優れものだ。
世界に一つしか無いと言ってもいい。
「さて、どこかな?」
興味本位でアリスは二人の行方を調べると、意外な場所を示した。
なんと、隣の部屋である。
アルフレッドも一緒の様だ。
とにかく思い立ったが吉日、と言うわけで乗り込む。
「たのもーッ!」
「キャッ!」
「ぬわっ!」
「なんだ!?」
三者三様の驚き方をしてくれるので非常面白く思うアリスに対して、クロネが、
「アリス様どうかされたので?」
「……」
クロネの問いに絶句した。
なんとタメと敬語が混じったしゃべりが、敬語だけになっていたのである。
「クロネとレンダートのアリス様に対する敬意が薄かったため、少々教育いたいました」
と、アルフレッドが言う。
それは調教なのでは?
と思うアリスであるが、ぐっと言葉を飲み込む。
「ふ、ふーん、良いんじゃ無いカナ?」
多少片言になっしてしまったが、すぐさま自室に戻る。
「……。はは、は……」
アリスは一人の部屋で、乾いた笑いを溢すのであった。
・
アリスは朝日に呼び起こされて再び目を開く。
起きるのは良いのだが、アルフレッドがどんどんと他の連中に布教している様なので、注意するが、恐らく聞いていない。
「アリス様の素晴らしいご活躍を広め、アリス様の考えを広めているのです!」
「はぁーっ……」
「溜息は良く無いと言っているでは無いですか。幸せが逃げてしまいます」
本人自体が悪いことだとは思っていないらしく、悔しいがこれ以上何を言っても無駄だろう。
アリス的には不本意な結果ではあるが、もう慣れるしか無いのであろう。
「ね、ねえ。朝ごはんは「今すぐ用意させますので」
アルフレッドはアリスに対して誠意的にしているのは悪く無いが、どれも度が過ぎる。
元一般人である老人の心には耐えられない物だ。
「私自身が食べに行くから問題無いよ」
「……ですが!」
この後に及んでまだ反論する気なのだろうか。
そうか思うアリスは、アルフレッドをそれっぽく諭してみる。
「私はただの冒険者の様なものなの。別に偉くもなければ特別な存在でもない。それなのにさ、宿の人達とか一般の人に無理強いをして困らせたく無いの」
「あぁ……。申し訳ありません。ついアリス様を大事にするあまり、ついついこのアルフレッド、過保護になっていました」
アルフレッドは素直に謝る。
アリスはまるで自分が子供の様な物言いに少し苛立ちを感じる。
「分かっていただけたのなら良いんだけどね」
なんだか調子が狂った感じのアリスは、取り敢えずへの字口で宿の食堂へと歩みを進めるのであった。
食堂に着くとそこにいる人達から熱烈な歓迎を受けた。
なんだかそれこそこそばゆい何かを感じるものの、アリスは別に自分を特別に扱う必要は無いと言うことを彼らに諭してみる。
彼らは自分たちで望んでやっていると言う旨の話をしてアリスを言いくるめた。
「そ、それなら仕方ないですね」
「それでは当宿の自慢の料理をお運び致しますね!」
言いくるめられたアリスは多少思うところがあったのだが、これは好意からしてくれていることなので素直に受け取ることにする。
次々と運ばれてくる料理はアリスの体格に合わせ量が少なく、たくさんの種類の料理を食べれた。
全て美味しくいただき、いつも通りお皿に火属性の魔術で何時もとは少し違う紋様を彫る。
適当に掘ったのだが、何故か土下座をする程感謝されるのに違和感がある。
慣れなければならない。
再びそう感じる。
「さて、これで私はチェックアウトしますね。お世話になりました」
こちらの世界に来る前の話ではあるが、18歳の時に興味本位で調べて覚えた女性の貴族風の挨拶をして、アリスはお供を連れて宿を去って行った。
そして、更にアリス教の規模は拡大して行くのであった……。
次回は明後日の午後七時に更新します。