4、修羅場ですか?
気絶した私が起きた時最初に見えたのは、綺麗な女の人の心配そうな顔でした。
??どうしたのでしょう・・・。
一瞬、訳が分からなくて混乱してしまいましたが、すぐに気付きました。
私はこの女の人に抱きしめられて気絶してしまった事を。
だからこの女の人は、心配そうな顔をしていたのでしょう。
私は心配しないで下さい。という感じで、笑って見せました。
すると、この女の人は目を見開き、慌てました。
綺麗な人はどんな事をしてもやっぱり綺麗ですね・・・。
「アラン!エリーゼが目を覚ましたわっ!」
「本当ですか!?母上」
「ええっ!・・・エリーゼ、大丈夫?」
「はい・・・大丈夫です」
「そう・・・良かった」
私が小さい声ながらも、はっきりと言った事で安心したのか、
女の人はホッとしたような笑顔を見せました。
そして、男の人もこちらに来ると、2人で話を始めました。
私は聞き取ろうとしましたが、小さい声だったので聞こえません。
何の話をしているのでしょうか・・・。
とっても気になりますが、内緒話を聞いてはいけないと思い、そっと起き上がりました。
そこで気付きましたが、どうやら私はベットに横たわっていたようです。
そのベットは、私が一生働いても買えないようなほど高そうな物でした。
・・・私、まだ働いてないんですけどね。
そんな事を考えている間に2人は話を終えたのか、私の方を向きました。
そして、深刻そうな声で言います。
「あの・・・エリーゼ?」
「はい、なんでしょうか」
「あなたは、私たちが誰だかわかる?」
「え、えっと・・・その、わかりません・・・」
「そうか・・・」
嘘を吐こうかとも考えましたが、知ったかぶりをするのが嫌だったので、私は正直に答えました。
けれど、2人は困り顔です。どうしましょう・・・。
私は何か良い物がないかとポケットを探りました。
すると、私の指が、硬い物に触れます。こ、これは・・・っ!
「どうぞっ!」
「「へ(は)?」」
突然私が大きな声を出したのに驚いたのか、2人は同時に私を見ました。
私は2人に見せるようにある物___エリーゼさんからの手紙を差し出しました。
そうです!私はエリーゼさんからの手紙を預かっていたのです!
輝かんばかりの笑顔で手紙を差し出す私を見て2人は驚きました。
そして、おそるおそる手紙を受け取り読み始めました。
エリーゼさん、どんな事を書いたのでしょう・・・。
私はワクワクしながら、2人の言葉を待っていました。
しかし2人は手紙を読み終わると、怖いくらいの笑顔を浮かべて、
「これはどういう事かしら?」
と言いました。
「え?その、何が書いてあったかはわかりませんが、書いてある事は全て事実です!」
「どうしたら私たちがこんな嘘を信じると思ったの?」
「え?え?その、本当に事実です!信じてください!」
慌てて言う私に、2人から冷ややかな視線を感じます。
「今ここにいるあなたが、エリーゼでないわけないじゃない」
「君の白銀の髪も、海のように澄んだ青い目も、私の知っているエリーゼなんだよ」
「それに私とエリーゼとアランは家族よ。そんな私たちがエリーゼと間違うなんてありえないわ」
か・家族?そんなの初耳です!
でも確かに、家族であるなら間違えないし、間違えられないですよね。
でも、私はエリーゼさんではなく真帆です。
どうしたら納得してくれるのでしょうか・・・。
しばらく私は悩んだ後、ちょっとした賭けにでました。
「あの、私がエリーゼだと信じられないのなら、エリーゼさんと皆さんの思い出話を聞かせて下さい」
「もしわからなかったとしても、記憶喪失という事もあるだろう」
「はい、その可能性もあります。ですが、それしか皆さんの誤解を解く事が出来ないと思うのです」
私のちょっとした賭け、それは『思い出話をさせる事』でした。
私は本当に何一つわからないので、きっと納得してくれると思ったのです。
変な考えですが、私にはこれしか方法がありません。
私は思いつめた表情を浮かべて、2人の顔を見ました。
「ふふふ・・・あっははははっ!!!」
「クスクス・・・まさかそんな事を考えるなんてっ!」
しかし、急に2人は笑い出しました。
なぜ笑うのでしょう。私の頭に?が浮かびます。
「大丈夫よ。安心なさって?スズ様」
「あ・・・あの、その、私の話を信じてくださるのですか?」
「もちろんよ。だって、あのエリーゼがこんな丁寧な子になるなんてありえないもの」
女の人は茶目っ気たっぷりに笑いながら言います。
「エリーゼはいつもお転婆で、勉強もしてくれなくて、男の子たちに交じって剣を振るうような子だったのよ?今でもしょっちゅう家を抜け出そうとするし・・・。間違ってもあなたみたいな子になるとは思えないわ」
「そうなんですか・・・」
「・・・そうだ、エリーゼから届いた手紙を読んでみて。ちょっと気になる事もあるし」
そう言って渡された手紙には綺麗な字が並んでいました。
えっと、なになに・・・?
『お父様・お母様・お兄様へ
私は家を出ます。だって、あんな人との結婚なんて何を考えているの?
向こうもこっちを嫌ってるし、こっちも向こうの事が大嫌いです。
嫌だって何度も言ったのにどうして聞き入れてくれないわけ?
・・・まぁいろいろ理由があるんだろうけど、私には関係ないわ。
なので、私は家を出ます。
お母様たちに会えなくなるのは嫌だけど、あんな人との結婚はもっと嫌。
私とそっくりなスズが見つかったから渡します。
なんか、別の世界から来た?らしいわ。
私と一緒にいてもスズが可哀想だもの。だから渡します。
可哀想だと思ったから渡すのよ?だから、絶対幸せにしてあげて。
そうしないと私はお母様たちを許さないわ!
私がこんな事をするなんて・・・と思ってるかもしれないけど、
・・・1回しか会った事ないのに、なぜか親近感がわいたのよ。
とにかく!そんなわけだから!さよなら。
エリーゼ・ナタルシア』
「エリーゼさん・・・」
エリーゼさん、とても優しいです。
こんな私のためにこんな事をして下さって・・・!!
ありがとうございます!!
私は嬉しくて嬉しくてたまらなくなりました。
私は今までこんなに優しくしてもらった事がありません。
思わず頬が緩みそうになってしまいました。
ひどい顔になりそうだったので、止めましたが。
でも、笑顔になります。
その笑顔のまま手紙を女の人に返しました。
「その、スズ様。手紙に書いてある『別の世界から来た』っていうのは本当?」
「は、はい。本当です」
「じゃあ、その話を聞かせてくれないかしら。あなたは私の家族という風にするつもりなの。・・・はっきり言うと、エリーゼのかわりを務めてもらいたいのよ。そのためにあなたの事を知る必要があるから・・お願いできる?」
「エリーゼさんのかわり?ですか・・・あ、私の話ですね?わかりました!」
私はエリーゼさんにしたような説明を2人にしようと口を開きました。
そして一生懸命説明します。
とある部屋の中に、私の声だけが響き渡りました。