3、なぜこんなことになってしまったのでしょう。
私の叫んだ声は静かな森の中に響き渡りました。
こんな大声、私に出せたんですね。自分でびっくりです。
私は額に手を当てながらエリーゼさんが指してくれた方向を見ました。
…やっぱり、何か建物があるようには見えません。
「誰かいませんかぁー??」
そう叫んでみましたが、何の音も聞こえません。
ただ、風がむなしくピューっと吹くだけです。
さ・・・さみしい・・・。
さっきまで明るいエリーゼさんと一緒にいたので、一層さみしく感じます。
仕方ないですね・・・
「とりあえず歩きましょう。何か見つかるかもしれませんし!うん、頑張ろう!」
自分を勇気づけるように呟くと、私はエリーゼさんの指してくれた方向へ歩き始めました。
・・・のはいいのですが、
「薔薇ですか・・・まさかの棘ですね・・・」
エリーゼさんが指してくれた方向には、薔薇があったのです。
うっ!痛い痛い!!棘が手と足に!
チクチク感じる痛みに思わず回れ右をしたくなりましたが、ここで挫けてはダメですね。
頑張れ!私!
自分を励ましながら、どうにか薔薇の所を抜けましたが、私の服はあちこちが切れてしまいました。
足も手も血が出ています。ちょっとグロテスクです・・・
「はぁ・・・なんで私はこんな事をしているのでしょうか・・・」
大きく1つため息をつき、思わずぼやきました。
なんか本当に疲れてしまいました。
ただ純粋に本を読もうとしただけなのに、どうしてこんな事になってしまったんでしょう・・・。
前にいた場所(世界?)を思うだけで、悲しさがどんどん溢れてしまいました。
お母さん、お父さん、千帆姉、梨帆・・・。
大切な家族を思うだけで涙が溢れてきました。
も、もう、帰れないのでしょうか。だったら、せめてお別れを言いたかったです・・・。
「ふ・・ふぇっ・・ふぇっひっくひっく・・・うわーん!」
恥ずかしい事ですが、私はしばらくの間ずっと声を出して泣いていました。
「んん・・・も、もう泣きません。これで泣くのは終わりです。まだ帰れないと決まったわけではないのですから」
涙を拭って、自分の決意を言葉にして、気持ちを改めました。
とりあえず、進んでみよう。まだ道は閉ざされていないのですから。
せめて、精一杯足掻いてみよう。簡単に諦めてはいけないですから!
最後ににっこりと笑顔で笑い、さて進もうと、足を1歩踏み出した時でした。
「誰だ、そこにいるのは」
「えっ?」
突然、後ろから声が聞こえました。思わず反応して後ろを振り返ってしまいます。
すると見えたのは、少し赤色が混じった、白色の髪の男の人が立っています。
うわっ!とっても綺麗な顔立ち!鼻が高くて、瞳も綺麗な青色です。
きっと100人中100人が綺麗な顔立ちだと思う位綺麗な顔立ちでした。
あれ?けれど、なんかこの顔立ちに見覚えのあるような・・・
私がじっと顔を見ている間、男の人も私を見ていました。
そして、しばらく私の顔を見ると突然、私を抱きかかえました。
横向きに。
「えぇっ!?」
私は恥ずかしくて顔が一気に赤くなってしまったのがわかりました。
これがいわゆる『お姫様抱っこ』というものですかっ!?
「良かったエリーゼ。今までどこに行ってたんだい?」
「えっ・・・えっと・・・」
「まぁ良い。後でその話を聞かせてもらうとしようか。私にしがみついて」
「うっ・・・はい・・・」
私は男の人に思いっきりしがみつきました。
それを見た男の人は一瞬驚いた顔になり、すぐにスピードをあげました。
そのスピードはとても速くて、周りの景色が見えなくなってしまいます。
速いのは良いのですが、ちょっと速すぎです・・・っ!!
私は恐怖を感じてしまいました。
「いぃやぁぁぁっっ!!!」
こんな叫び声も出してしまいます。
もう無理もう無理ですっ!
こう思ったのを最後に、私は気絶してしまいました・・・。
*
「・・・リーゼ、エリーゼ大丈夫かい?」
「んん・・・ここは・・・」
私が目を開けた時に見えたのは、青い目をしたあの男の人でした。
やっぱり・・・とってもかっこいいです。
そんな人が見てるなんて・・・と思わず頬を赤らめてしまいます。
そんな顔を見られるのが恥ずかしくて、私は顔を背けました。
私の様子を見た男の人は苦笑をすると、私をそっとおろしました。
「ここは私たちの家だよ。大丈夫?具合はどうだい?」
「あの・・・大丈夫です。ありがとうございます」
おずおずと私がお礼を言うと、男の人は難しい顔になりました。
何か、いけない事をしてしまったのでしょうか・・・。
私の心は不安でいっぱいです。
しかし男の人はニッコリと笑って、
「君の名前は?」
と尋ねてきました。
思わず『鈴鐘真帆』です。と答えそうになりましたが、
私とそっくりなエリーゼさんを思い、こう答えました。
「私はエリーゼです」
「そうか・・・自分の名前は覚えているらしい。では、どうしたものか・・・」
「?」
「あ、いや何でもない。それではエリーゼ、この家で少し休んで行かないか?」
「え・・えっと、はい。よ、喜んで」
私は男の人の笑顔に裏があるのを感じて、貴族っぽく答えてしまいました。
・・・多分違うと思いますけど。
私は、妙にニコニコ笑う男の人に手を取られ、家・・・というには大きすぎな場所に入って行きました。
*
「ただいま戻りました。母上」
「お帰りなさい、アラン。・・・エリーゼ?」
入ってきた私たちを出迎えてくれたのは、これまた綺麗な女の人でした。
・・・なぜでしょう。この世界に来てから綺麗な人しか見ていないような気がします。
まぁ、眼福なので良いのですがね!
それはともかく、この綺麗な女の人が私を呼んでいたような気がしたので、
私は声を発しました。
「え?えっとはい。エリーゼです」
「エリーゼ!エリーゼなのっ!?帰って来てくれたのね!」
「は・・はい。帰ってきましグハァっ!?」
最後に若干、女の子らしくない声が出ましたが、気のせいですね。
気のせい・・・って誤魔化せませんね。恥ずかしいです・・・。
けれど、最後に私が女の子らしくない声を出してしまったのは、突然女の人が私を抱きしめてきたからなのです!
ちゃ、ちゃんと理由がありますからね!ですから、しょうがありません!!
若干開き直った後、私は現在自分がどうなっているのかを再認識しました。
私は、女の人に、抱きしめられている。
しかも、結構強い力で。
「母上!エリーゼが気絶してしまいます!」
「えぇっ!?ご、ごめんなさい!エリーゼ、大丈夫!?」
「はひ・・・大丈夫れす・・・」
強い力で抱きしめられた私は、本日2度目の気絶をしてしまいました・・・。