6.師匠と命名と
《守り抜く意志》
翌日、熊を倒して《粒子召喚、操作》のレベルも少しは上がったかなと何気なくスキルを確認したら、そんな名前のスキルを習得していた。
「……」
やはり昨日の決意のおかげだろうか。そもそもどんなスキルなんだろう。と思い、《守り抜く意志》の説明を見る。
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《守り抜く意志》
守るための力をひとつだけ習得できる。
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その短い説明文の下に、スキルがいくつか並んでいる。この中からひとつだけ習得できる。ということなのだろう。
スキルを選ぶというと前世のステータス操作を思い出すが、並んでいるスキルは上級冒険者なら持っているような常識的なスキルだ。流石に前世のように上手くはいかないらしい。
どのスキルをとろうか迷っていると、ひとつ、気になるスキルがあった。
スキル名は《勘》。説明を見ると「勘が鋭くなる」としか書いていない。
普通の人なら、冒険者になるなら必須のスキルの上級版である《剣技 上級》や《身体強化 上級》のスキルをとるのだろう。
しかし、俺はその《勘》というスキルに引かれた。何故かはわからないが、それを選んだ方が良いような気がする。
結局その誘惑に引かれ、俺は役に立つかわからない《勘》というスキルを選択したのだった。
……………
「ミクトさん!」
「ん?ようテスカ!傷はもういいのか?」
「はい。もう大丈夫です」
「そうか、そりゃあよかった」
ミクトさん。村のギルドに所属している冒険者で、まだ若いのにこの村の中で一番強い。
「ミクトさん。お願いがあります」
「うん?どうした、いきなり畏まって」
「俺に戦闘技術を教えてください」
「……理由は?」
「強く、なりたいからです。何にも負けないくらい」
「……そうか」
ミクトさんは、顔を手で覆ってため息をついた。駄目かと思ったが、
「……熊にやられて悔しかった。とかなら突っぱねようかと思ったんだが……」
俺をチラッと見て、
「……そんな目をされたら断れないな」
「と、いうことは……」
「ああ、教えてやるよ」
「ありがとうございます!」
「ま、あの熊を1人で倒した奴に教えることなんざあまり無いと思うがな」
「あ、それなんですが……」
「ん?」
俺は、あの持ち手が勝手に倒してしまったことを話した。
「……それじゃあ、その剣の持ち手みたいのが熊を倒した、と?」
「はい」
「……なんだそりゃあ。聞いたことねえぞ、そんな武器」
「でも、本当に……あ、来た」
「来た?何が?」
「その持ち手です」
「はあ?」
ふわふわ浮きながらこちらに向かってくる。家に置いてきたのに……いったいどうやって出てきたんだ。
「……本当に勝手に動いてやがる」
「ちなみに言葉も通じますよ」
「……マジかよ」
持ち手は俺の横に来て停止した。
「その持ち手……そういえば呼び名とかは無いのか?言葉が通じるなら名前つけたら喜ぶんじゃねえの」
「名前……ですか。確かにいつまでも持ち手じゃ可哀想ですよね」
そう言うと持ち手が嬉しそうに浮きながら跳ねる。横でミクトさんが「うわ、本当に通じてやがる」とか言ってるけど。
「……………………………………………………決めました」
「おう。意外に早かったな」
「今からお前の名前は【アイテール】だ。よろしくな」
名前を聞いた途端持ち手……いや、【アイテール】の動きがピタッと止まったかと思ったら急にすごい勢いで暴れだした。一瞬気に入らなかったのか、と思ったが「Y」の形にしてピースしてきたので、気に入ってくれたのだろう。
そして【アイテール】がこちらに寄ってきていつも刀身を出している部分を俺の胸に当ててきた。
何してんだコイツ。と思って見ていると、急に頭の中に凄い量の知識が入ってきた。
(これは……っ!【アイテール】の使い方か!)
出せる武器の種類、変形の仕方など、大量の【アイテール】に関する知識を頭に叩き込まれた。
「おい……どうした?」
「今……【アイテール】の使い方が頭の中に流れてきました」
「……使い方まで教えてくれんのかよ……便利な武器だな」
「使いこなせなきゃ宝の持ち腐れですけどね……」
「じゃ、腐らせないようにしっかり修行しねえとな」
「はい!」
「もう昼か。じゃあ昼飯食ったらギルドに来い。そこで修行しよう」
「はい!それではまた後で!」
「おう」
「さーて、俺も初弟子のために色々準備すっかな……」
読んでくださってありがとうございます。
ミクトさんは20代前半の爽やか細マッチョのイケメン。
今回、登場人物は神様の名前を借りさせていただいていますが、この小説はフィクションです。実際の神物とは一切関係ありません。