4.油断と未練と
さて、まず現状思いつく作戦は目潰しくらいだろうか。とりあえずやってみるしかない。
《粒子操作》!からの……
「目潰し!」
「ギャッ!?」
よし!うまくいった!これで時間は稼げるはず!
と、思った次の瞬間、熊がこちらを向いた。
「え」
「ギャアッ!」
油断していた俺は突っ込んできた熊をかわせず、タックルをまともにくらってしまう。
「かはっ……!?」
痛い。身体中がバラバラになりそうなくらい痛い。
前世ではこんな経験しなかった。勝てない奴なんて滅多にいなかった。そのせいで油断していた。
思い上がってたんだ。全てスキルの力であって、俺自身の力では無いのに。
死にたくない。まだ、自分が思い描いたような英雄に、ヒーローに、俺はまだなってない。
まだ小説で読んだような恋愛だってしてない。ケモミミ娘にだって会ってない。18禁な経験もまだだ。
死ねない。死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない!!!!!
「こんなところじゃ……死ねない……!」
その声に気づいた熊がこちらを見、そしてまた突進してくる。
「俺は『主人公』になりたいんだ……!」
熊が残り10mまで接近し、もう駄目なのかと思った次の瞬間。
ガイィン!という音がした。続いて熊の「ギャアアッ!?」という声。
何が起きたんだ、と前を見ると
壁が、あった。
よく見るとそれは巨大な盾の形をしている。熊のほうに面が向いているため、こちらには持ち手が見える。
その持ち手には、見覚えがあった。
(あれは……シルトと一緒に出てきた……?)
そう、シルトと一緒に卵から出てきた剣の持ち手のような、あの棒だったのである。
(あれは盾の持ち手だったのか……?でも盾本体はいったいどこから……?)
と思ったら盾が消え、持ち手だけが残った。
「……え」
もしかして一回限りだったのかあの盾、と思っていると棒の先端が輝き、そこから剣の刀身が現れた。
「……はあ?」
その剣は宙を舞い、熊を切り刻んだ。
どおん、と倒れる熊。そして残った剣と俺。
「……」
剣の刀身はシュッという音をたてて消え、浮いた持ち手だけが残った。なんだこれ、と思っていたら、持ち手が突然刀身を「Y」の形のように、二本出した。もしかして俺も切られるのかと思ったらそのまま停止した。
「……?」
何してるんだこれ。
何だ?刀身二本出して何がしたかったんだこれは。
暫く俺が固まっていると、今度はそのままピョンピョン跳ね始めた。そして刃をハサミのように開閉している。
(……もしかして)
「ピースしてるのかそれ」
そう言うと、刃を引っ込めて嬉しそうにふわふわし始めた。正解かよ。しかも言葉通じるのか。
ていうか今さらだけど刃、二本も出るのか。
ふよふよと浮きながらこちらに近づき、倒れている俺の上に乗って動かなくなった。
「誰か俺に説明してくれ……」
遠くにシルトと大人の声を聞きながら、俺は気を失った。
読んでくださってありがとうございます。
持ち手可愛いよ持ち手(錯乱)
もう持ち手がヒロインでいいんじゃないかな。