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フルフェイス  作者: ジェームズ・リッチマン
2 / トレント
9/33

0011


 一歩一歩と近づくにつれ、巨大な塔のようなものは霧を抜けたように、その全貌を明らかなものにしていった。


 天高く聳えるそれは、巨大な樹木。

 樹高は、二百メートルはあろうか。

 塔のような幹の上部では無数の枝が散開し、曇天を覆い、真下の世界をより深い闇に落としているらしい。


『我々のコロニーは、ここの真下だ』


 シスに案内された黒騎士は、巨大樹木からおよそ三百メートルほどの地点にやってきた。

 コロニー上部の地上であるためか、付近の地面はよく整備され、なだらかだ。

 地下都市への入り口であろう大きな構造物のようなものがいくつか存在しており、それぞれには空気を遮断するための幕が下ろされている。


『……お前、本当に寄って行かなくても良いのか』


 入り口の隣で、シスが黒騎士に訊ねた。


「魔物が目の前にいるというのに、悠長に休んでなどいられない」

『そうか』


 途中、何度か同じような問答が行われたのだが、黒騎士はシスの誘いの尽くに首を縦に振らなかった。

 黒騎士の答えは一点張り。ただ、魔物を倒す。それのみである。


 そんなやり取りを繰り返すうちに、責任者であるシスも彼の保護には拘らなくなっていった。

 コロニーは共同体。人は貴重な存在であるが、異常なよそ者を受け入れるほど、彼らの懐は広くない。

 それが生産性に乏しいノイドであれば、尚更のことだ。


 その上、シスらのコロニーは現在、厄介な問題を抱えていた。


『……あの塔は、元々は我らの希望の象徴だったのだ』

「……」


 鉄板建造物に背を預け、シスは語る。


『かつて地上を埋め尽くしていたという、巨大な樹木……瘴気と風で全て滅び去ったであろうそれが存在している……我々の祖先はその傍らにコロニーを置くことで、皆の希望としたのだろう』

「あのような魔物が、希望?」


 黒騎士はまるで少しの同情もしていないかのように首を傾げる。

 正直な彼の態度に、シスは笑った。


『今となっては、地中に根を広げ、コロニーの隔壁に穴を穿つ厄介者だが……元はといえば、我々が悪かったのさ。あの樹木が何者かも知らずに、コロニーを作ってしまった、我々がな』


 シスの眼光ランプが、遠くの巨大樹を見据える。


『……あれがどのような樹木なのかは、未だにわからない。何十年と歳月を重ねても……わかっているのは、鋼のように硬質なもので出来ている、成長するモノ……それだけだ』


 葉も、花も、実もつけない、巨大な漆黒の巨大樹。

 それは身の丈に似合わない速度で成長し、今もなお巨大化を続けている。

 硬質な根はコロニーの堅牢な隔壁を突き破り、地下都市の一部区画に深刻な汚染すらもたらした。


『我々は、コロニーの移転を計画している』

「移転」

『ああ。樹木が根を伸ばし続ける以上、この地に安息はない。……汚染されていない種が多く残る今が、唯一の機会なんだ』


 砂鉄混じりの強風の中、コロニーから這い出たノイド達が荷物を抱えながら歩いてゆく。

 ある者は金属瓶を。ある者は工具を。ある者は古びたダイオードを。


『……地下の人を、どこか別のコロニーへ避難させる。それが、私の生涯をかけた仕事だ』


 抱えるものは様々だが、彼らの目指す先は同じ。

 樹木とは反対の、どこか遠くなのだろう。


「その必要はない」

『……何?』


 樹木と真逆を行くノイドたちを見送っていたシスが、黒騎士の言葉に顔を向けた。

 黒騎士は佩びていた長剣を取り出し、それを右手に握っている。


 彼のフルフェイスが見据える先は、黒き巨大樹。


「私が倒す」


 黒騎士は誰の制止も聞かず、遠くの巨塔に向けて歩を進め始めた。



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[気になる点] >>途中、何度か同じような問答が行われたのだが、黒騎士はシスの誘いの尽くを首を縦に振らなかった。 →尽くに
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