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フルフェイス  作者: ジェームズ・リッチマン
1 / コボルト
6/33

0101

「反撃」


 真っ直ぐ突き出された鉄骨が、黒騎士の脇を掠める。

 致命傷を与えるはずの一撃は、僅かな動きによって華麗にかわされた。


 それだけではない。鉄骨の側面には騎士の黒い剣が深々と突き刺さり、貫かれている。

 騎士は、敵の突きを、逆に突き返したのだ。


 直後、狼は想像を絶する力によって、前のめりに倒れ込む。

 鉄骨を振るい続ける狼の壮絶な握力と、黒騎士が剣によって鉄骨を引き込む力がそうさせたのだろう。

 何トンもの巨体は、不意の引力に負けたのだ。


 狼は、自分に何が起こったのかを理解する前に、その顔を地面に衝突させられた。

 軽い廃材は衝撃と風圧によって巻き上げられ、辺りに散って甲高い音が幾重にも響く。


 長い顔は廃材の中にすっぽりと埋まり、尖った地面は狼の皮膚や筋肉を容赦なく切り裂いた。

 だが、それは大した問題ではない。驚異的な再生力と、狼自身の分厚い肉体からすれば、そのような傷は、すぐに治るかすり傷でしかないのだから。


「ハアッ」


 だが、地に伏した狼の無防備な頭部へ与えられた一撃は、決して無視できるものではない。

 長剣による、たった一発の斬撃だ。

 真上に振り上げ、真下に振り下ろす、ただそれだけの一撃。

 それは、鉄骨以上の強度と厚みを誇る頭蓋を切断し、黒い切っ先を脳にまで及ばせていた。


 狼はうつ伏せのまま、吠えた。地面に発せられた咆哮は地響きを生み、一帯を震え上がらせる。

 その叫びが、痛みによるものか、脳をやられたことによるものかは、定かでない。

 四肢はもがき、水に溺れた獣のように無秩序に暴れ狂うが、それが剣を振り下ろした騎士に害を及ぼすことはない。


 その間にも、騎士は剣を突き出し続け、致命傷をより深く刻みつける。


 噴き出す黒い血液。発熱し、何百度にも跳ね上がる体温。

 時が経るにつれ、蒸気と血煙と粉塵が立ち込め、辺りを禍々しく彩ってゆく。


 そして、間もなく、狼は動きを止めた。

 最後に振り上げられた腕は力なく下がり、重力に敗北した。

 全身から立ち込めていた蒸気も、金属の大地に体温を奪われることで、すぐに収まった。


 狼は絶命したのだ。

 騎士の、会心の一太刀によって。


討伐完了(クエストクリア)


 狼の頭部から剣を抜き、振り払う。

 飛沫となった黒い血液は、狼の躯に歪なバツ印をつけた。




『……すごい』


 遠目から、一連の闘いを目撃していたノイドの男が、騎士の姿を見て、そう零した。

 黒い全身鎧。黒い長剣。黒い外套。

 そして、顔すら隠す、フルフェイスの黒兜。


『あっ』


 剣を納めた黒騎士の顔が、今度は男に向けられる。

 だが、騎士が彼に興味を示したのは僅かな間のみで、手を振るでも、声を掛けるでもなく、そのままマントを翻し、もう用は済んだと歩き出してしまった。


『待って……待ってくれ!』


 命の恩人。コロニーの恩人。そして何より、兄の仇を討ってくれた、勇者。

 男は呼び止めなければならない相手であることに気づき、電子音声を張り上げた。


 ところが、騎士は振り向かなかった。

 足場の悪い鉄くずの地面を、一歩一歩と歩き、去ってゆく。


 男はある程度まで追いかけたのだが、騎士の弛まぬ足取りに未熟な自分が追いつけない事に気づくと、すぐに歩くのをやめてしまった。


『……』


 それよりも、彼にはやらなくてはならないことがあった。


 足元に転がるダイオード。

 これを、地下のコロニーへと持ち帰る任務である。


『……兄ちゃん』


 兄は、このために死んだ。自分は、このために死にかけた。

 しかし、これがなくては、コロニーで大勢の人間が死んでしまう。

 逆に、これさえあれば、コロニーは救われ、大勢の人に未来が与えられる。


『……ありがとう』


 ノイドの男は、胸の中にダイオードを抱え、歩き始めた。

 コロニーまでは、また何日も掛かるだろう。今度の道は、一人きりだ。


 しかし、彼はもう、弱音を吐かない。

 寒い道も、険しい道も、男は突き進んでゆくだろう。


 ここに立っているのが兄だとするなれば、きっとそうしていただろうから。


 騎士と男は、それぞれ別の方角を目指し、歩き出した。


 黒い風は、今も尚、吹き続けている。




 かけがえのない社会性を喪失したものの、狩猟において発揮される知性の高さには見どころがある。


 ――ウルボス・ラットマンの手記

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[良い点] 戦闘描写が秀逸 [気になる点] >>噴き出す黒い血液。発熱し、何百とにも跳ね上がる体温。 →何百度?
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