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フルフェイス  作者: ジェームズ・リッチマン
6 / デーモン
31/33

0111


 クロムは地上付近に位置する警備所へと赴き、アークトル廃材丘陵で起きた出来事を報告していた。

 詰所は常に何人かのノイド達が屯留しており、地上で起きた非常事態に備えている他、デブリが出没するエリアの警戒網作成などもここで行われ、パーツハンター達の仕事に活かされている。

 当然、“地上に強大かつ未知の敵性存在が確認された”という重大報告は、真っ先にここへ通達されるべきであったし、クロムがその報告のために警備所に立ち寄ったのは、何ら不手際ではなかったのだ。


『魔獣……信じられんな、と突っぱねたいんだが?』

『いや、しかし本当なんだろう。クロムがこれほど毅然として言うのだから……』

『ま、事実だからな』


 クロムの報告は簡潔であった。

 魔獣と思われる未確認生物と遭遇し、現地で戦っていたノイドと共闘し撃退した。

 彼は、見た事実と行った事実を淡々と説明し、極力主観を挟まないように努めたのである。


 彼らソンデイユの民は、魔獣というものを伝説上の存在だと認識している。

 そんな人々に突然“魔獣が現れた”と叫んでも、真っ先に疑われるのは正気の方に決っているからだ。

 魔獣は危険極まりない生物であることをクロムは直に戦って知っているが、その時の興奮や恐怖、そしてこれからの不安を全面に押し出すわけにはいかない。

 なのであくまで平静に、じっくりと伝えることにしたのである。

 その甲斐あってか、警備所にいたノイド達はクロムの言葉をとりあえずの事実として、スムーズに受け止めることができていた。


『ひとまず緊急の対策としては、物見を増やすことだな。奴の発見が遅れたらまずい。あとは……久しくやってねえ隔壁の緊急開閉訓練を再実施すべきだと考えてる』

『またその、リザードマン? ってやつが来るのか。ソンデイユにまで……』

『わからん。だが実際、廃材丘陵には居たし、逃げられた。知性もあるようだった。……戻ってきても可笑しくはねえと思う』

『……嘘だって言ってくれるか?』

『俺もその方が気楽で良いんだがよ。備えを怠るわけにもいかねえだろ』

『その通りだな』


 未知なる敵の出現。

 それは、孤立したコロニーにとって死活問題であった。

 時折現れる巨大デブリに手を焼いているのが現状なのだ。加えて、優秀なパーツハンターであるクロムにさえ仕留めきれなかった大型の新生物をも警戒しなくてはならない。

 今のところ実害は発生していないが、後々になれば相応の備えによって、備蓄や資材が消耗することだろう。

 コロニーとして軌道に乗りつつあるソンデイユが足踏みする。それは非常に頭の痛くなる問題であった。


『……俺たちだけじゃ、話をまとめることはできんだろうな』

『ソンデイユの運営会議で一番に上げる必要があるだろう。それと、クロムが保護したという黒い騎士風のノイドから、詳しい話を聞かなければならん』

『念のために、会議に出す前ではあるが哨戒と斥候の頻度を上げておこう。不安を煽るようではあるが、通達は出すべきだ』

『了解。各ノイド施設に出しておくよ』


 警備所はパーツハンター達による、パーツハンター達のための施設であり、組織でもある。

 その上には更に高次元な指示系統もあるのだが、緊急を要する案件が手元にある場合は、現場の人間だけで動いたほうが良いこともある。

 実際、現場の仕事に精通した彼らだけの話し合いは、非常に円滑に進むのであった。




 話も纏まり、大部分の方向性が決まった。


 そんな時である。


 警備所の古いスピーカーから、耳慣れない警報音が響き渡ったのは。


『な、なんだ』

『警報!』

『警報だ! 緊急……! コロニーの緊急警報!』

『なんだと!?』


 詰所にいたノイド達が立ち上がり、戦慄する。

 先程まで、物騒な魔獣の話が飛び交っていたのだ。それに丁度聞きなれない緊急警報が重なれば、落ち着けるはずもない。仮に、心の中で準備ができていたとしても。


『な、マジ……なんでだ……!』


 特に慌てたのは、クロムであった。

 直にリザードマンと戦っている彼の脳裏には、既にあの肌色をした巨体が浮かんでいる。

 それとソンデイユの市街地を重ねれば、すぐにでも最悪の絵図は出来上がってしまう。


 けたたましい警報音。

 ビリビリと割れたような轟音を響かせる壊れかけのスピーカー。


『……いくぞ! 武器を持て!』

『立て! 隊列を組め!』

『全部だ! あらゆる武装を持ち込むんだ!』


 何が起こっているのかは、誰にもわからない。

 それでも、誰もが巨大な魔獣の姿を想像し、立ち上がり、武器を取り出し、戦いに備えていた。


 コロニーで死闘が始まる。

 コロニーの命運を賭けた闘いが始まる。


 だが、そこで待ち構える敵の真の姿を、誰もが正しく認識できていなかった。


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