0010
廃材の砂漠を、黒い甲冑が歩く。
一歩、一歩。風や足場に負けず、しっかりとした足取りで、淀みない速度で進んでゆく。
目指す先はぼやけた瘴気で覆われているが、彼の足に迷いは無い。
己の目指す先が見えているのように、彼はこうして旅を続けているのだった。
言うなれば、古代西洋風の甲冑。
鎧は腕から足まで全身を覆い、隙間なく防護している。
それは頭部も例外ではなく、頑強な造りの黒兜は、彼の顔さえもマスクで覆い隠していた。
『れか……』
不意に、声が聞こえた。
ごうごうと吹く風の中で、ささやくほどの声を、フルフェイスの彼はしっかり耳にした。
鎧騎士の足が一瞬止まり、そしてすぐに方向を変え、歩き出す。
『誰か……』
しばらく歩いた後に、騎士は、機人の上半身が転がっているのを発見した。
騎士はその場に片膝を立てて、しゃがみ込む。
その姿に気付いたのか、腰から上しか残っていない機人は、弱々しく光る眼光のランプを、にわかに強めた。
「何があった」
『あん、たは……いや、それより……』
地面に転がる上半身の機人が、震える手で黒騎士のグリーブに手を添える。
『弟を……助け……』
「弟」
『出たんだ……バケモノ……』
「バケモノ」
『巨大な、体……太い、腕……鼻の曲がるような、酷い、臭い……』
機人の電子音声は、震えていた。
それが自己に死が迫るが故のものなのか、先ほど見た光景の酷さのせいなのかは、わからない。
『頼む……弟を……』
「私に任せろ」
黒騎士は、機人が言い終える前にその手を強く握りしめた。
「貴公の無念、必ずや、私が晴らしてみせる。私が必ず……」
『……』
騎士が言い終える前に、機人の眼光から光が消えた。
「……」
眼光ランプの輝きは、機人の生命の証。
それが消滅したことの意味を、黒騎士はよくわかっている。
握った手を解き、立膝を直し、立ち上がる。
「魔物め」
黒騎士は、怨嗟の篭った声でそうつぶやくと、廃材の丘の遥か向こうを見据えた。
暗い靄が渦巻くその先では、ほんのわずかにではあるが、大きな影らしきものがうごめいているらしい。
「――コボルトを確認」
黒騎士は、走りだす。