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出陣

そろそろ時間だ。スーツを着て、長い黒髪をポニーテールにする。派手な格好はしたくない。


夕方になると迎えの馬車が来た。

「行ってきます。」

「行ってらっしゃいませ。」

クロウェルとリリが玄関でお辞儀する。気分は戦場に赴く感覚がする。今回のパーティーは経済界の重人が来るらしい。だが王子の伴侶になるべく貴族の姫様方も来るとか。


公爵殿から聞いたが貴方もその一人ではと思う。私のような者がいることを好まない人もいるでしょう。

少し緊張する。







馬車に乗ってから暫くすると王宮に着いた。真っ白な王宮。なんだか威圧感というか、それの類いに近いものを感じる。


王宮は国の要ともあり、そこそこ美しい造りになっているが、要塞としての役割もあるため、防衛できるような建築になっているからだろう。


「アリス.ホルス様、ようこそ御越しくださいました。案内いたします。」

馬車から降りるとメイドに連れて行かれた。


そして中へ入ったものの。どれだけ大きい所なんだか、控え室までの道のりが長い長い。とある部屋に案内されて中へ入ると、ルーエがいた。


「先生?!嘘。ホントに?何故に。」

とても動揺している。こんなことでいちいち動揺していて大丈夫かいな、と思うが口にはしない。


「久し振りね。カールネスト公爵に参加するよう言われたから。元気にしている?」

クスリと笑う。

「最近、公爵の仕事の手伝いもしている。ぶっちゃけ貴族の方々は気に入らないみたいですけど。」

溜め息をつきながらも楽しそうな表情をしていた。


「そっか。良かったね。」

「はい。ところで先生、今日はその格好で出席されるのですか。」

「まあね。仕方ないじゃん。ドレスはないから。あっても着るつもりはさらさらないけど。」


私は女性にあるまじき格好だ。一方ルーエは正装をしていた。

「ルーエも出席するの?」

と聞いてみると、

「ゲヴォルク殿とか、ハーシェル殿がいらっしゃるらしいです。だから勉強になるから出ろって公爵に言われました。」


あの二人は経済界の要人。凄い面子だ。

「これまた凄い方々を呼んだのね。そんな所に呼ばれるなんてルーエはそのうち国の要になったりして。」


そうでなければこんな所に庶民を呼んだりしない。

「そんなことはないですよ。勉強しに来ているものですから。」

ルーエは苦笑いした。


コンコンコン

ドアをノックして入って来たのはカールネスト公爵殿。

「こんばんは。来ていましたか。」

「ああ、はい。」

私の格好を見て顔を少し歪めた。

「ドレスではないのですね。」

残念そうな顔するなと言いたい。そんな立派なものは庶民が持っているわけないでしょうが。


「私は一般庶民ですからそんなものは持ち合わせておりません。」

少し刺々しいかな。皮肉を込めて言った。一般庶民の所にアクセントをつけて。


「そうですか。もうそろそろなので会場の方へお越しください。」

と言い、退室した。


「珍しい。公爵が来るなんて。」

ぼそっとルーエが言った。

「私と話したいらしいよ。」

こんな所は疲れるだけなのに話をせんならんのだ。


「まぁまぁ。行きましょうか。」

「そうね。」


まるで戦争に駆り出されてるみたい。戦場に赴く覚悟を決めた。




会場はとても広いホール。シャンデリアやら金色の装飾で豪華な部屋。中の人々は麗しい方々とイケメン貴族が集まっている。ただ単に学者だけ呼んだだけではないらしい。私が場違いな所にいるのは重々承知の上だ。平民に等しい私がこのような華やかな場所にいるなんて気まずい。


そういうことで冒頭部分に戻るわけだがが、帰りたい。研究、開発しなければいけないことは沢山ある。


「眩しすぎるわ。帰りたい。」

内心ではずっと帰りたいと叫んでいる。ルーエが隣にいるが、暫く自分の思考に走る。

「先生、本音を隠して下さい。先生も経験が無いわけではないでしょう。」

速攻にルーエがツッコミを入れた。なかなか言うようになったものだと母親的心境だったのは秘密だ。


「でも当の昔の話だし。何年前の話だと思っているのよ。おまけに小さい頃だったから流石に行き慣れるほど来ていないわ。」

私の両親が亡くなってから一度もパーティーには参加していない。仕方ないじゃないか。あのときはいろいろ精神的にも肉体的にも忙しかったんだから。


まあお金がない時点で行く気はなかったが。



そろそろ過去に浸るのも止めておこう。

と思って会場を見渡してみる。

ん?あの隅で話しているのはゲヴォルク.バーミット教授ではありませんか。彼は私と違う大学の教授をしている。同業者と言うこともあり、学会に余り出席しなくても面識はあった。


「ゲヴォルク卿、こんばんは。」

私は彼に近づいた。

「おお、これはこれは。珍しいですな、アリス殿。貴女の論文はとても参考になるから論議をしたいところだが、貴女はなかなか会に出席なさらないから残念でなりませんよ。」

「いや、私はまだまだですから卿と論議など展開できませんよ。ゲヴォルク卿の学説はとても分かりやすいし、面白い発想で興味深いですから。私は全然です。」

「そんなことはありませんよ。次の学会には出てきてほしいものです。」

初老の男が笑った。私の論文をそのように評価して下さるのは非常に光栄なことだ。

「ゲヴォルク卿、此方の方は?」


もう一人ゲヴォルク卿と同じくらいの年齢の男が寄ってきた。

「あのアリス.ホルス殿だよ。アリス殿、こちらがハーシェル卿だ。」


さっきルーエが言っていた人だ。


「君がアリス殿か。私はハーシェル.フォルスタイン。宜しく。」

握手を求めた。

「すみません。顔はあまり知られたくないので学術会の方には行っていません。アリス.ホルスです。お見知りおきを。」

私も手を差し出して握手する。



こんな方々にお会いできるなんて嬉しい。少しは来たかいがあった。




パンパンパン


手を叩く音が聞こえて静まり返る。国王がいた。

「この夜会に来てくださり、たいへん嬉しく思います。今日は存分に楽しんで下さい。」

国王が敬語なのは少し違和感を感じるが、他国からも貴人が来ているからか。



国王が短い挨拶を終えると、また会話する声が聞こえる。ざっと見て女性と男性が半分ずつくらいでどちらも四十人ほどはいる。


そろそろ王子も結婚適齢期。お見合いパーティーかな。


「アリス殿は今おいくつですか。」

ハーシェル殿が聞いてきた。

「一九です。」

と言うと二人は驚いた。

「こんなにお若いのに化学、物理、地学、経済学、歴史の論文を書くなんて凄いですね。」

ハーシェル卿が言った。経済だけではなく私が書くジャンルをご存知なんて、驚きと嬉しさが半分ずつ

「いいえ。私みたいな若輩者はまだまだです。何かと自分の趣味を書いているだけなので大したことはありませんよ。」

粗相のないようにっこり微笑む。実際、息抜き程度にやっているだけだ。あくまで私の本業は地学である。


だから、こんなところに呼んで大丈夫かなと思う。


「アリス殿は下手で私の孫とは正反対だな。今結婚適齢期ではないですか。」

ゲヴォルク卿が言った。

「私は没落していますから結婚とか、言う感じではないのですよ。」


この国の結婚適齢期は女性は一八歳から二三歳くらいまで。多少の前後はある。庶民でも大体同じ。この年を過ぎると嫁遅れになる。


でも私は婚活とか結婚そういう場合ではない。いつも家計は火の車なので余裕はない。まあ金持ちに嫁げば良いかもしれないが大抵変態が多いに違いない。


「本当、先生にも幸せになってほしいものです。」

いつの間にかルーエがいた。

「おや。こちらは最近あの宰相の補佐をしているルーエ殿か。」

「お初にお目にかかります、ルーエ.アルトです。」

胸に手を当てて頭を下げた。


「奴からなかなか優秀で助かると聞いておりますぞ。」

ハーシェルが笑った。

「先生のお陰ですよ。」

ルーエも笑った。

「先生とはアリス殿か。」

ゲヴォルク卿が聞いた。

「貴族でなくても勉強はできます。だから庶民にもと思い私塾を開いていますので。」

と言うと二人は感嘆していた。


「子どもにも教育はさせるべきだ。私も大学以外でも教育ができるように計画していたが先逹者がおりましたか。」

「アリス殿は立派な方ですな。」


「本当に大したことはありませんよ。現に余り多くの生徒を呼べないし、時間も少ししかやっていませんし。」


私達は談笑していたから気がつかなかった。


お嬢様方の反応に。


だって私は無縁の方たちだし。


花婿選びだか、花嫁選びとか私にとってはどうでもいい。私には関係ない。


なのに、巻き込まれるなんて想定外。

ただえさえ疲れに来るようなものなのに、さらに睨まれるなんて…

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