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「勉強はどんなところでもやろうと思えばどこでもできるものだ。自分の努力次第で自分の可能性が広がるからね。だから自分のために励みなさい。」


「今日も図書館に行っていたの?どんな本を読んだの?」


私はこの二人が好きだった。貧乏だけど私に勉強はさせてもらえる。私が今いるのは両親のお陰だ。


けれども今はもういない。


教会の厳かな鐘のみが鳴り響く。鐘が打つ度に心臓の音が激しく鼓動する。しかし頭のなかは真っ白のキャンバスそのものだ。


空は快晴。澄みわたった青だけがひろがっていた。その中に雲がゆっくり流れては消えていく。


気が付くと私は両親の骨壺を持っていた。隣にリリとクロウェルしかいなかった。その時には既に使用人はほとんどいなかった。


両親は優しく親切だから皆から慕われていた。けれど給料が払えないようでは辞めるしかない。


私は視界が濁っていたが、濡れた感触がなかった。肺にいっぱいの乾いた空気を吸い込む。肌寒い風が時折駆け抜ける。


そして教会の近くの小高い丘に上った。丘の上から先は森が広がっている。一度教会の方を振り返ると、黒い集団がたむろっていた。その中に一つの集団が目立っていた。護衛と思わしき人々を連れているデップリ太った人間。何故あいつが来ているのかは不明だが、あいつのせいで両親は死んだかもしれないというのに。いや、両親の死因はこいつのせいだろう。


もう振り返っても何も誰も戻らない。時間だけが進んでいく。そして過去は時間と供に記憶の中に埋没するだけ。


後ろはもう振り返らない。

教会を背にして正面を見上げる。


目の前に広がるのは両親が好きだった森。魔物の類いも出没する森だが神秘的な場所が幾つもある。

その大好きだった森に穴を掘って骨壺を埋めた。手を合わせて祈りを捧げる。あの世では二人で平穏に暮らしてほしいと。あの世がもしあるなら。


非科学的な妄想だ。


今まで無知で平穏に暮らしていてごめんなさい。過労死するほど切りつめていたなんて知らなかった。親不孝な娘でごめんなさい。


そして何が起こっていたのか無知でいてごめんなさい。


この仇は必ず打つ。



「お嬢様、お嬢様。起きてください。」

リリの声がする。目を開けるとリリがいた。

「お早う。」

「お早うございます。大丈夫ですか?顔色が優れない見たいですが…」


あの夢だ。

「夢を見ただけだから大丈夫。」

「夢ってどんなものですか?」

「両親が死んだ時の。」


たまに見る。葬式の時も泣けない私は親不孝だと思う。私は一番楽をしていた。貧乏だけどどうにかなると思っていた。けれど私の領地は飢餓による借金で苦しんでいたことを知らなかった。死ぬ直前に返済は終わったらしいがその時には後戻りできなかった。


働き過ぎて働き過ぎて、二人とも身体を壊していた。


私は無知だった。


心が重く感じる。


「不躾なことを聞いてしまい申し訳ありませんでした。」

「気にしてないよ。」

それでもリリは心配そうに私を見る。


大丈夫。


「今日、パーティーが夕方からありますが行きますか?」

「ええ。」


体調が悪くはない。ただ勝手に責任を感じているだけなのだから。私が楽をしていたことに対する責任。


今さらだ。死人にくちなし。謝ってもどうしょうもないことは理性の部分では理解している。感情的になっているだけだ。


まだまだ駄目な人間だな、私は。科学者としても、大人としても足りないものがいろいろある。私は未熟だ。


「情けないな。」

リリに聞こえないように呟いた。一応私がこの家の当主なのにクロウェルとリリに心配かけている挙げ句給料も払えていない。貴族ではなくなったが私がこの家の主ということにはかわりはない。


机の上に置いてある箱からネックレスを取り出す。我が家で唯一の宝石のペンダント。これは母の遺品でサファイアの宝石が嵌め込まれている。縁には銀で小さく装飾がされているが宝石自体も小さいので派手な物ではない。


青は私が一番好きな色。


あのときのような青空の色は私の生活が激動することを告知してきた。


澄みきったあの空は残酷にも別れを告げた。




あの日を忘れないように。



私はいつもこれを首から下げている。


過去のことは考えてもどうしようもないことは理解している。けれど罪悪感が拭えきれない。


そして不明な点が多いのにも関わらず私は疑うことをしなかった。


何一つ両親には出来なかった。その事を今も悔いている。



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