始まりⅢ
家の事情と言うのは私はこの町に住む子どもにも勉強を教えている。
小さい子が一五人、一二歳以上が十人。数年前は二十歳くらいの人にも教えたが今は王宮で文官として働いている。文官になるためには試験を突破しなければいけないが、最初文字が読めなかった人が試験を一位で受かった。
その時の喜びは言い尽くせない。学校に行くにはお金がかかる。でもお金が無くても勉強したい子どもは大勢いる。
そんな子どものために教鞭を取りたいと思ったから、大学では非常勤講師をしている。安月給だけど。
私の家族は貧しくとも私が勉強するのを邪魔したりしなかった。職につくことを強制しなかった。
だからおもいっきりやりたいことができた。
だから私もそうありたい。
だから私は私塾を始めた。月謝も高くない金額だから近所の子どもたちが集まってくる。
そして今日は塾の日。子どもたちはそろそろ来るだろう。
私は女性が着るドレスではなくパンツをはく。
私の家の当主は私しかいないから、女性の格好をするわけにはいかない。これ以上嘗められたくはないから男の格好をして完全戦闘モードにする。だからいつもパンツに白衣を着ている。
動きやすいし、楽だということもあるけど。
あー、何年コルセットだのドレスだの着ていないだろうか。最後に着たのは両親の葬式の時だったような気がする。あれは窮屈でおまけに締めすぎると内臓の位置が歪んでしまうため体には良くない。そういうこともあり、元から好きではない。
男性は良いなと何度思ったことか…
今日も同じような格好をして玄関に出ると、
「おはようございます!!」
元気一杯の笑顔がずらりと並んでいた。
「お早う。早速授業始めますか。」
クロウェルがそっと出てきて門扉を開ける。玄関のドアにはリリがいた。
私は子どもたちを中へ連れて行く。
「今日は化学の実験と数学、公民をやりますよ。」
と言うと
「やったー実験見れる!」
歓声が上がった。
「早く着席してね。」
部屋のドアを開けると皆小走りで中へ入る。
席について私は教卓代わりの大きいテーブルに実験道具をのせた。
「今日は電池の実験をやります。」
レモンの輪切りの間に極板を挟んで導線で繋ぐと、導線に繋がれた豆電球が光る。
「レモンの間に極板を挟むと電球が光りました。この反応の説明できる人は挙手。この前酸と塩基の話をしたからわかるはず。」