朝市
花火の残骸をバケツの中に突っ込んだ。先程迄集まっていたギャラリーは流れて、新しいお客さんが商品を見に来る。やっと開店効率が上がってきた。
今回の売上がどこまで延びるか楽しみだ。
「これは何ですか?」
いつもは見ない顔の老婦人が商品を見に来て、蝋燭を指差している。
「こちらはアロマキャンドルです。リラックスしたい時に点火すると良い香りがしますよ。」
「ふーん。一つ下さい。」
「ありがとうございます。」
代金をと商品を交換する。
「とても活気のある地区ですね。数年前はあんなに荒れた町だったのに。」
アロマを買ってくれた婦人が驚いて言った。
「最近この地区には来なくて。昨日久々に帰って来たら、朝市があると聞いたの。」
「そうだったのですか。他の店舗も見ましたか?」
「それはまだあまり見ていないの。」
「後ろの坂道に沿ってお店が並んでいます。まあ食べ物屋が多いですが、なかなか面白いお店が並んでいますので宜しければ足を運んでみて下さい。」
私の家の前には緩やかな傾斜がある。その道に沿って商店街が並ぶ。他の道にもお店はあるが、一番大きい通りが目の前にある通り。
「親切にありがとう。」
「いえいえ。このくらいはドってことないです。楽しんで下さい。」
笑顔で言う。
「そうね。」
その老婦人も微笑んで立ち去った。
気持ち良い。
新しい人との出逢いは新鮮で刺激をくれる。接客もなかなか楽しい。
さて、そろそろ商品も残り僅か。売り切りたい。
「毎度ありがとうございました。」
よし。売り切った。これで終わり。
「ではこれで朝市終了です。またのお越しをお待ちしております。」
ちょうどピッタリに拡声器から終わりの合図が出された。お客さんも帰っていく。片付けないといけませんね。
「お疲れ様でした。」
クロウェルとリリに向かって労いの言葉をかける。二人も、
「お疲れ様でした。」
と返事した。
机と空のバスケット、花火の残骸どもを何回かに分けて家に持ち運ぶ。
全て作業が終わり一息つく。自室に戻り化石のクリーニングの続きをする。化石を見ているだけで落ち着く。これが仕事なのは科学好きにとっては極楽としか言いようがない。
コンコンコン
私の仕事(楽しみ)の邪魔をする奴は誰だ。
「お嬢様、カールネスト公爵様がいらっしゃいます。」
クロウェルが扉を叩く。朝市の時に後で伺いますとか言ってしまったので追い出すわけにはいかない。
「今行く。」
「不機嫌ですね。相手に失礼ですので隠して下さい。」
「わかってる。」
案内された部屋には公爵殿がソファーに優雅に腰かけていた。前にも思ったが一つ一つの動作に品を感じる。流石一流の名門貴族。
「それで今日のご用件は?」
「昨日のお詫びをしたくて。それと昨日するはずだった話の用件について、」
話の途中で腰を折るのは無礼だが言わずにはいられない。
「もう結構です。お詫びといっても公爵殿が謝る理由はどこにもありませんので。」
「ワインをかけられた様子だと聞きました。主宰したのは名目上は陛下ですが実際には私ですので、トラブルの責任は私にもあります。弁償としてスーツを仕立てたいと思いますが。」
非常に悩むがその餌には釣られたくはない。
「いりません。」
気後れするだけである。
「そんなに気にしなくて良いですよ。」
公爵殿はそういってくれるが…
「でしたら、こう言えば良いでしょうか。昨日の事をチャラにしてほしいのです。」
頭にきた。勝手に呼びつけて、呼びつけたあげく、私にされた仕打ちは侮辱と侮蔑。それをチャラにしろとおっしゃる。どれだけ人を振り回せば気がすむのだろうか。
「いりません。結構です。もうお帰り下さい。」
静かに言って部屋を出た。
私に話などあるわけがない。メリットはそもそも何だ。仮に私の理論を展開させたところで私よりよく考えている経済界の要人はいくらでもいる。ゲヴォルグ卿とハーシェル卿に聞けば良かったのでは。私が言ったところで耳を貸さないのは明白だ。私の話は学会で聞かれたことがない。
確かに実績はあるが、周りの学者達からは見下されている。そんな人間に用はないと思う。
夜会など行かなければ良かった。
人の悪意程嫌なものはない。
学会でもあまり参加しないのは軽蔑されるのが嫌だからだ。とりあえず論文が提出して紙上で討論できればそれで良い。だから私は基本紙に意見を書いて送る。
私が嫌われる理由は主に普通ならあり得ない年齢で、しかも学校すらいっていないのに博士号を持ち研究しているからだ。
だから私はいつも嫌味を言われるのは当たり前で、馬鹿にされる。どれだけ研究成果を出しても軽蔑されるのは変わらない。いつもたかが小娘が生意気なことを言って、という反応される。まあ評価してくれる人もいるから博士号とれたんだけどね。
でも評価してくださる御仁は私が嫌いな過激派に襲われたくないのか、会ったことも話したこともない。
だから人が集まる場所は得意ではない。それなのにどうして学会よりも人が集まるパーティーに参加してしまったのだろう。後悔しかない。後悔しかないと言うと少し語弊はあるけど。ゲヴォルグ卿とハーシェル卿に会えたのは収穫だった。
が、それだけだ。会えたと言っても余り討論できなかったから非常に残念だった。
とにかく自室に戻って化石のクリーニングをしたい。
この化石がどのような生物か判定できるほど化石は集まっている。あとはクリーニングしてその姿から特徴を分析していくのみ。
客人に対してとても失礼とは理解しているがあの態度は許せない。結局物で釣っているではないか。何だか物で解決するのが悲しいのだ。気持ちがない。もし話をつけるならあのときワインをかけたお嬢様からの謝罪がなければ聞きたくない。
「公爵様はお帰りになりました。」
リリがそっと告げて私の部屋を去った。
私はまた化石に没頭する。
けれども集中できなかった。
…………………………………
それから暫くして一通の手紙がきた。
「今の政治について相談したいことがあります。是非王宮に来てほしいですが貴女は嫌がるでしょう。どうしたら良いですか?」
「ワインをかけたお嬢様からの謝罪とスーツの弁償してください。法律に則って。」
と書いて返事を送った。本来なら法律上、不敬罪として罰金を請求できる。この国は珍しく貴族にも平民にもこの法律が成り立つ。裁判は第三者の機関なので、平等に刑法が下される。貴族だから法を犯したのに罰せられないということはない。
だから貴族が平民を馬鹿にしたり、不愉快にさせたら不敬罪として貴族を訴えることができる。法律上は。
しかし、貴族は権力が強すぎるせいで事実上は訴えることができないのだ。
さて相手は平民を見下すような方。頭を下げにやって来るか。
私の家にやって来て謝る度胸があるなら少しは考えても良い。
来ないならそれまで。
…………………………………
返事を送ってからまた数日がたった。時間がたつのは早い。奴等には来るだけの度胸はないか。
そう思ったら違った。
「お嬢様、カールネスト公爵殿が来ました。」
ほう。
「今行く。」
客室にいたのはなんとあのときのお嬢様と公爵殿。あれ?お嬢様。何だか顔色が悪いですがどうしました?
「ワ、ワインをこぼしてしまって申し訳ご、ございませんでした。」
驚きだ。謝った。
「他人に迷惑をかけないのは基本のことですよ。子どもでもわかります。」
私の言葉にピクリと反応した。
「同じことを二度としないで下さい。」
「わ、わかりました。」
「一段落つきましたね。スーツは私の方で仕立てます。」
公爵殿がそう言った。
「公爵殿ですか?」
思わず聞き返すとはい、と返答してきた。何だかいつもより嬉しそう。
「最初はスーツは仕立てなくて良いとおっしゃっていましたから嬉しいです。」
「仕立ててもらうことが嫌なのではなく、きちんとした謝罪が欲しかったからです。誤解しないでください。」
釘を指しておく。まるで物で釣られたかのような言い様は腹が立つ。
「ええ。貴女は帰って良いですよ。」
公爵殿が隣にいるお嬢様に声かけると彼女は逃げるように部屋を出た。
「えっ、良いのですか?ていうか彼女に何したのですか?」
気になって聞いてみた。
「少し矯正させただけですよ。」
満面の笑みで不気味なことを仰った。黒いですよ。
公爵の一面を見た気がした。
矯正したって貴方は何をなさったのですか。
「では私の家に来てください。仕立て屋が来ていますので。」
もう既にいるってどういうことですか。まるで私がスーツがほしいのを予想していたかのように用意周到ですな。
確かにスーツは欲しいです。でも気が早いと思います。
「では来てください。」
白衣姿で今行くのですか。
「今ですか?」
「善は急げですよ。」
「善ではないと思います。」
「私にとっては善なのですよ。私の屋敷に来てくれますか。」
今思ったが貴方はこんなことをしている暇はないくらい忙しいはず。
「こんなことをしている暇あるんですか。」
「王子とも休みを取りました。今屋敷に王子もいますので、早く来てくださると嬉しいです。」
図ったな。
「わかりました。」
としか言えないではないか。公爵殿はとても嬉しそうに笑っている。
私はクロウェルに伝えて馬車に乗り込んだ。
時間がたつのがとても早いですね…
すみません。
長く書くのに慣れていないです。別の小説サイトでも執筆していますが、規定がなろうさんより短いのでどうしても短めになってしまいます。
遠い目で見てくれると嬉しいです。
上手く書けるよう頑張ります。
主人公は大分ネガティブです。私の性格が映ったと思われし。
アリスは呼ばれているのに、私の話は聞いてくれないとネガ発想を発動させて思い込んでいます。
化石のクリーニングは発掘したままだと岩石が付着しているので研究するにはクリーニングする必要があります。
生物の痕跡が残っている場合や、全部クリーニングすると壊れてしまうくらい脆い化石は片側だけクリーニングすることもあります。羽毛恐竜はその良い例ですね。




