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退陣と朝市

「ハアハア」

普段運動していないから直ぐに息が切れる。疲れた。少し運動をしないといけないな、これは。運動不足というレベルの体力ではない。


けれども足を止めてはいけない。

私の地区は治安がいいが、その他の地区は治安が悪い。今もなるべく人通りの多い所を選んではいるものの、安心できない。


ましてやこんな夜に女が歩いていたら、襲われる可能性が高い。さっきは馬車で帰ると目立つかと思って必要ないと判断したけど、やはりそちらの方が良かったのだろうか。


暗い夜道。それほど寒くはないのに、背筋が若干強張る。そして感じる視線。


「姉ちゃん、一人かい?」

ほら、早速だ。四人ほどがたいの良い男が私の周りを取り囲んだ。ほら、もう早速だ。邪魔でしかない。

「そこを退いて下さいな。」

「おいおい、つれないなあ。」

男Aが近寄って来た。アセトアルデヒド臭い。こいつ酔っぱらいだ。酔っぱらいは嫌い。生理的に受け付けない。


遠くから蹄の音が聞こえてくる。


「退いてくれますか。」

「まあまあ。俺らと遊ばない?」

男Bが私の腕を掴んだ。気持ち悪い。

その時、

「アリス殿!」

はっきり言って一番会いたくない奴の声がする。


仕方ない。奥の手を使うとしよう。


裏ポケットにある小瓶を出して、中の液体をかけた。

「ぎゃぁあああ!」

中身は薄い水酸化ナトリウム。服は溶けて穴ができる。皮膚に触ると皮膚も溶ける。薄いからそこまでは酷くならないだろう。実際に服が溶けるのも少し時間がかかるし。


アンモニア水でも良かったけど、とにかくこの囲まれた状況では身動き取れないのですよ。だから水酸化ナトリウム。とても劇薬で人にはかけてはいけないことくらいはわかる。人にかけるなど言語道断。科学者として失格だ。でも包囲網を突破するには崩れてもらわないと困る。私には武芸もないし、魔法も使えない。相手からどいてもらうしかないのだ。


服が溶ければまずいとわかるだろう。流石に後遺症が残る程濃度の高い液体ではない。

実際に私も慣れない時は間違えて水酸化ナトリウムのビーカーをひっくり返してかかったことがある。まあとても濃度が薄かったから火傷はしていない。


「そこの井戸ですすいだ方が良いよ。」


家の側にある井戸を指差すと男は慌てて井戸から水を汲んだ。他の男たちもその男についていった。井戸から水を汲み上げて、外ですすいでいるから問題はないだろう。彼等は洗い終わったのか、桶を置いた。このタイミングを見計らって隙間から逃げる。


「アリス殿、」

また声が聞こえるがお前なんかに頼りたくない。もう惨めな思いをしたくない。私のプライドが許さない。


一気に道を駆け抜けた。





「ただいまぁ!」

家の中に入ると、玄関にリリがいた。彼女は私の格好を見て驚いた表情をした。

「その格好はどうされました!」


赤紫の染みがスーツ、ワイシャツ、パンツまで広がっている。

「まあいろいろ、いろいろ。とりあえず風呂に入りたい。」

アルコール臭い。

「先程クロウェルさんが入れていましたのでもう少しお待ち下さい。」

いつの間にお湯を準備をしたのだろう。不思議だ。


少しして準備ができたらしい。クロウェルが声をかけた。私は自室に戻り、風呂に入る。とてもあっという間のことだった。今日のことは。



よくよく思うと腹立たしい。何故私がこんな目に会わなければならんのだ。

「染みが落ちると良いんだけど…」


もうクタクタ。精神的にも肉体的にも疲れた。何もする気になれない。風呂から上がり、パジャマに着替えてベッドにダイブした。


* * *



「お嬢様、起きて下さい。」

リリの声が聞こえる。

「んん、お早う。」

むくりと起きる。が朝は滅法弱いので、頭がぼけている。

「お早うございます。昨日のスーツは洗いまして染みを落としたのですけど、生地が傷んでしまって申し訳ございません。」


やっぱり着れないか。少ないお金を貯めて買ったのに。

「しょうがないよ。洗ってくれてありがとう。」

「ごめんなさい。」

リリが落ち込んだ。

「そんな顔しないの。ああいう服を着ないといけないような所に行かなければ良いんだもの。大丈夫。」


うん。もう二度とないだろう。そもそも行きたくないし。昨日みたいな思いはしたくない。


「今日の予定は?」

話を反らす。

「あぁ、そうですよお嬢様。今日は朝市がありますから急いで支度してください。」

そうだった。急いで朝食を食べて、紅茶を飲みながら新聞を読む。


朝市とは朝にそれぞれのお店が屋台で普段出さない変わった商品を販売する。月に二回。朝市をしているのはこの地区だけだから珍しいと観光客や他の地区から人が流れる。地域活性化だけではなく、お客さんも満足するからウィンウィンの関係だ。


因みにこの朝市を提案したのは私。


新聞を読み終えて、着替えた後に外に机を出して商品を並べる。私の家からは薔薇ジャムのパンとスコーン。薔薇ジャムは私が作ったがパンとスコーンはクロウェルお手製。


私はその他にアロマと冷却水の販売をする。冷却水は筋肉を使った時に筋肉の患部に霧吹きでかけると筋肉痛を和らげる効果がある。冷たいから暑いときにもオススメ。

最近湿布バージョンも開発したからそれも売るつもりだ。


「皆様、お早うございます。それでは朝市の開店~」

魔法による拡声器からの合図で朝市の開店だ。


「いらっしゃいませ!」

笑顔笑顔。昨日のことは考えないようにしよう。








アセトアルデヒドは酔っぱらいの臭いがする原因の物質です。液体です。



執筆の時にアンモニア水にするかはかなり迷いましたが、かなり薄い水酸化ナトリウムをチョイスしました。

私も実験でやらかしたことがありますが薄かったので大丈夫かなと思います。薄いと溶けるというよりてがぬるぬるする感覚でしたので。すぐに流水で流しましたけど。(濃度が濃いと勿論火傷するのは承知です。私がやらかした、と言うよりも班の人がビーカーを倒して中の液体が少しかかった程度ですが。)


ご指摘ありがとうございます。

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