06.幼馴染はハーフでシスコンの義弟ができたので懐柔中です-03
翠視点
変態 下ネタはいりました。時々、ヤンデレ。
そして、リア充爆発しろ。
「翠とレイの夏休みの間に、二人の引っ越しを終わらそうな。それまでの休みはなるべくこの家で過ごそう。そして、徐々でいいから、家族になっていこう」
父がそうまとめて、今日の顔合わせはお開きになった。お義母さんとレイを車でアパートまで送るというので、駐車場までお見送りとなったのだが。
「翠……」
「うん。わかっている」
「……いざとなったら、止めを刺せ。後は俺がなんとかする」
「警察の人がそんな事を言ってもいいの? っていうか、結構信頼しているくせに」
「俺が信頼しているのは翠だけだ」
「はいはい」
父との会話を不思議そうに眺めていたお義母さんとレイ。
同じ方向に首を傾げて二人が並んでいると、綺麗な対の人形みたいに見える。
「お義姉さん」
「レイ、今日はありがとうね! お菓子すごく美味しかった」
「今度はマドレーヌを作ってきます」
「うん! 楽しみ」
「あ、……お義姉さん……その、いえ、なんでもないです。おやすみなさい」
「そう? おやすみー」
車の後部座席に乗り込むレイを見送ると、背後に衝撃があった。
ギャフッ!
「っ、お義母さん……」
「うふふふふふ。翠ちゃん! 一緒に帰ろう! うちにおいでよ~。泊まりに来てぇ」
「い、いえいえ、明日、学校ですしっ!」
「えぇ~嫌だ~」とグリグリグリグリと、背中に頭を擦り付けられる。
(痛い……地味に痛い)
「ほら、アニエス」と、猫の子みたいに、父に首根っこを捕まえられて、助手席に入れられていた。
「やだー。孝太郎さんーっ、翠ちゃんを連れて帰るの」
ブンブン腕を振っているお義母さん。
「母さん!」
「……はい」
レイにガツンと言われたら、すぐに大人しくなった。
すごいな一発で黙った。それにしても二人してお義母さんの扱い雑だけど、いいのかな?
「じゃ、翠。すぐに戻るから。後始末しとけよ」
「はいはい」
「翠ちゃん。おやすみ」
「おやすみなさい」
「はーい。おやすみなさーい」
車が見えなくなるまで、手を振ってクルリと方向を変える。
――さてと。
「ごめんね?」
ふわりと背中にしがみつく、大きな影に謝る。
ぎゅ―と、しがみついているのに、不思議と痛くない。頭をワシャワシャと撫でてやった。
「瑛?」
「あーちゃん、触られすぎ」
すねた口調で、言葉を落としてくる。
「馬鹿。お義母さんよ?」
「……それでも嫌だ」
グリグリグリグリ。
身体を擦り付けて、マーキングのつもりなのかな。
「バカな子。ずっと待っていたの? 不安だった?」
「……」
「家に、お菓子があるから食べる?」
「……いらない」
「美味しいよ?」
「男が作ったのなんか、食べられるか」
「何言ってんの。全国の男性パティシエに謝れ」
瑛の拘束からなんとか抜け出し、ベシッと頭を引っ叩いて無理やり家に招き入れた。
リビングのソファーに座らせ、さっきのお菓子とお茶を出す。
(あ、お菓子にツーンってしやがった。このやろうめ)
向かいに座って、クッキーを頬張っていると、瑛が立ち上がり、私の隣に座り直して密着してきた。
「なに?」
「誰もいない家にいれて。期待しかないけど」
「ば―か。すぐにお父さんが帰ってくるわよ」
「あー。あーちゃんのお父さん……孝太郎さん、僕の事、気付いていたみたいだよね」
「そうそう。あれでも警部補だからね」
「でも」
グンっと、押し倒される。
「今は、誰もいない」
見慣れている綺麗な顔だけど、猛獣の瞳をギラつかせて紅い舌をべロリと出してきた。猛獣モードに変身。あー。またこの展開か。そろそろ、飽きたな。もぐもぐ。クッキー最高。もぐもぐ。
「あーちゃん」
色気たっぷりの低い声。もぐもぐ。ぱく。もぐもぐ。
「あーちゃん?」
押さえ込まえた手が熱を放って熱い。もぐもぐもぐ。
「も―っ、あーちゃん! ……っ!?」
隙をついて、瑛のネクタイを引っ張り無理やり唇を奪う。この乙女は、こうやって黙らせるのが早いと思う私は大丈夫だろうか。ちょっとだけ現実逃避しつつ、逃さないように後頭部を押さえつけ、舌を絡めとり唇を合わせたまま、上半身を起こしソファーにもたれさせた。その上をまたがる形で覆いかぶさり、両手を瑛の頬に添え直す。
ン……ッチュッ……クハッ……チュパッ
さっきまで、新しい家族と団欒をしていたリビングに、淫らな水音が響く。
(背徳感……ゾクゾクする)
瑛の瞳が熱をおびて潤んで、薄く開いている。
色気を出しすぎ。女として負けた気がするので、更に追い込んで深く深く絡ませる。
グチュ……ンハッ……透明の糸をひいて、お互いの唇が離れ、最後の仕上げに唇を舐めあげてやった。お互いの顔を耳まで真っ赤に染め上げて。ハァハァと、どっちの息遣いかわからない。ドクドクドク。心臓の鼓動が耳のそばでなっているみたいだ。耳がおかしくなりそう。チュバッとラストに大きな音をたてた。
「美味しいでしょ? レイ(おとうと)の手作りだよ?」
「……あーちゃんの、唾液と絡まるとなんでも美味しくなるんだよ」
「うわぁ。出たよ。変態発言」
「濃厚なキスをしてきた人が、そんな事を言う?」
瑛に腰に手をやられ、また、キスが出来るほどの距離で文句を言い合う。
「ハァ。あーちゃん、もう一回。今度は、僕が主導権をにぎるから」
「うーん。お尻に硬いのがあたっているんですけど」
「据え膳食わぬは男の恥ってわかる?」
「私は言い寄っていません」
パチンと、腰の手を叩くと「これで!?」なんて言われる。心外な。
しばらくにらみ合ってから、瑛の頭を抱えるように抱きついた。ちょっとお尻を浮かせて。
「胸が気持ちいい。このまま舐めたり、吸ったりしてもいい?」
「とりあえずセクハラ発言はやめて。話が脱線するから」
「……拷問」
ひと呼吸置いた。静まり返った部屋に、時計のカチカチカチという音が響いている。
「瑛」
「ん?」
「ナイフ、カッター、包丁、拘束用ガムテープ、催眠スプレーなど、お持ちでしたらお出し下さい」
「ぷっ。何、その口調」
「あーきーらー?」
しぶしぶ、ポケットから小さなナイフとカッターを取り出す。
「他は?」
「……鞄の中。あ、ハンマーや、電動ノコギリもいれて重いから置いといて」
「……また、新しいの買ったんだ」
「うん! そうだ!! 聞いて聞いて、あーちゃんの為に鍵もいっぱい買っておいたよ! 僕がこの家から離れるのは不安だったから、友達に買ってきてもらったんだ。後で部屋につけてあげるね」
(友達とは誰だ。外見と外面にまだ騙されている、信者の間違いだろうが!)
ツッコミが追い付かなくて頭をかかえたくなる。
きっと抱えられた胸の中で『こんなに頑張ったんだよ?』と瞳をキラキラさせているに違いない。
自然と抱きしめている手に力が入る。
グググググッ
「……痛っ!! くっ、苦しい。ハァ。あ……ちゃんの、胸圧で、窒息死……最……高……ぐふ」
いかん。幼馴染は変態だった。喜ばせただけだった。時間がない。
さっと、手を瑛の肩に置き直し、瞳を見つめて真剣な声を出した。
「瑛!」
「はぁ。ご褒美をくれるの? あーちゃん」
甘ったるい声と満面の笑みのセットで返ってきた。でも瞳の奥は真っ黒なのを見逃させない。
(ああ、もう。ダメ。瑛、それじゃあダメだよ)
私はできるだけ優しい声を出して
「瑛、別れよう」
本日、三つめの爆弾を投下した。