表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

11.幼馴染は神さまで女王様で最強なので一人勝ちです-08

『義弟編』最終回。


下品、下ネタは、デフォです。

…サブタイトルが思いつかない。



「葛城、なんだその真っ黄色い弁当は……」

 命知らずのクラスメート後藤佑樹が、いつものように昼休みにちょっかいをかけに来た。

 いつもならここで瑛の辛辣な返しがあるのだが……今日は違った。

「へへへへ。後藤くん。羨ましいよね」

「……葛城……え? 『後藤くん』!? (ゾワワワワ)なんかごめんなさい。すいません。申し訳ございませんでした」

 後藤は緩み切った顔をした目の前のイケメンに恐怖し、翠に助けを求める。翠は欠伸を堪えながらも、瑛と同じ“のりたま弁当”を黙々と食べていた。この空気をなんとかしたい後藤は、目の前に置かれているお菓子の話題に移す。

「このマフィン、手作り? 織田さんが作ったの? 珍しいね。お菓子を持ってくるなんて」

 お菓子の話題に、翠は瞳を輝かせ食いつく。

「義弟が朝に焼きたてを持ってきてくれたの!! お菓子作りが得意で、本当にいい子なんだよ! はい! 後藤くんも、おひとつどうぞ」

「……へぇ。あ、ありがとう」

 後藤は笑顔の翠からマフィンを受け取りつつ(おいおい、そんなに嬉々として義弟(他の男)を褒め称えたら、目の前の大魔王(イケメン)様の嫉妬が爆発しちゃうよ〜。火の粉がかからない内に退散しておくか。あ! やべ、織田さんに笑顔を向けられた! 殺される)と、内心は冷や汗ダラダラで、瑛の方を盗み見る。瑛は朗らかな笑顔でマフィンを見ていた。

「レイくん、ほんとお菓子作りが得意だよね。今度、僕にクッキーを作ってもらおうかな?」

(葛城瑛が織田翠の前で、他の男を褒めている!!)

 周囲はざわめく。後藤は顔面蒼白で(触らぬ神に祟りなし)と、そそくさとその場を後にした。

「僕も、ひとつもらうよ」

 瑛がマフィンを手にした時に強調される、左手に巻かれた包帯が痛々しい。翠は顔を顰めて瑛の左手を見つめた。

「瑛、もう痛くない?」

「大丈夫」

 慈愛に満ちた笑顔で返した。まだ心配そうな翠の耳元に顔を寄せ、翠にだけに聞こえるように妖しく色香をのせた声で囁く。

「だって僕の愛しい人が一晩中慰めてくれたから」



 ―金曜日。

 レイが家にいる事で、下校後、家の中にいれてもらえる事が増えた瑛は想定外の幸運にほんの少しだけだがレイに感謝をした。そしてあからさまにレイを威嚇する事もない瑛に翠は内心ほっと胸をなでおろしていた。

 レイ手作りのお菓子に舌鼓を打ち、まったりとした時間。翠が席を外し、レイと二人きりになった時、瑛は話を切り出した。

「レイくん、お願いがあるんだけど。明日の土曜日から一晩、あーちゃんと二人っきりになりたいな。いい?」

「え!? 一晩!? えっと、その……」

『一晩』『二人っきり』の言葉から、思春期でもあるレイは、顔を真っ赤にする。レイとの対決が、終わった後に翠から直接謝罪の電話がきた。でも瑛はそれで許すつもりはなかったのだ。

「葛城先輩!! 義姉が嫌がるようなことは!」

「馬鹿だな。別に無理矢理セックスに持ち込まないよ?」

「せ、せっく」とますます顔を赤らめ慌てるレイに、瑛は追い打ちをかけた。

「うーん“約束”が違うんじゃないかな? 協力してくれるんでしょ?」

「えっ、で……一晩?」

「……レイくんって、絵が上手だね? サイトをみたよ」

「!!」

 瑛はポケットからスマホを取り出し“お気に入り”にいれていたホームページのイラストを見せた。

「あ……これは」

 足をガクガクと震わせレイの顔色は真っ青になる。

「この子って、あーちゃんだよね? レイくん、本当に絵が上手だよねー。ふふ。……凄いよね? あーちゃんが登場する漫画を描けるなんて」

 悪魔のような微笑みを浮かべて、弧をえがいた瞳がレイを直視し、目を逸らす事を許さない。そして一冊の薄い本をレイにみせた。


 あの晩、瑛はレイのスマホをパソコンに繋げた時に、一緒に色々なデーターもパソコンに落としていた。SNSやメール履歴からの交友関係は勿論のこと、ブラウザの履歴やブックマークから、レイの趣向を探り見つけたのがコレだった。

 あの日出会った翠は、レイにとって“恩人”でもあり“神さま”だった。翠の絵を沢山描くようになり、彼女を活躍させる物語にまで想像力を育んだ。“彼女の素晴らしさを世間にひろめたい”―布教活動にも近い気持ちで彼女を主人公とした物語を描き始めた。オリジナルの作品として、ホームページに載せてみる。すると、ネットを通して人との交流の輪が拡がり、人と接するようになったレイは、私生活でも活発になった。

 記念としてほんの出来心で作った一冊。

 同人誌と呼ばれるソレはレイがコピー本として、友達のイベントと一緒に出すために数冊作ったものだったのだ。

 魔法少女扮する翠とよく似たキャラが、地球の平和を守る為に戦う作品だったが、翠に似せたキャラは


 ――『幼女』だった。


 汗をダラダラとかいたレイに止めを刺す。

「お菓子作りが得意で、義姉を大事に想っている“いい子”のレイくんがぁ〜まさかこんな漫画を描いているって、あーちゃんは知っているのかな? 僕、優しいから教えてあげようかなぁ?」

 レイは縋るように瑛の手を掴み、プルプルと首を振って「時間を作らせて頂きます」と言う。その様子は小動物のようで、翠が見ていたら萌えていただろう。

 瑛は無情にもコピー本をパラパラとめくる。

 目の前でのその行動は拷問に等しい。

「サイトの……あーちゃんのキャラが載っている箇所は削除して、この本も回収してね。変なシーンがなかったからよかったものの……これでズリネタでもあったら、ほんと……どうしていた事やら。はぁ……君にとって、本当にあーちゃんは“神さま”なんだね」

 瑛は、ほんの少しだけ優しい笑顔になって、未来の義弟にもう一度お願いをした。

「明日、一晩あーちゃんと二人っきりの件よろしくね」

「……はい」

「なーに? 二人して何話しているの?」

 レイにとって地獄の時間は、翠の明るい声によって終止符を打つ。

「どうなることかと思ったけど、二人が仲良くなっていて、嬉しい」と二人に笑顔を向けると、案の定、瑛に「あーちゃん、可愛すぎ!」と抱きつかれて技をかけられる姿をレイはため息を呑み込みながら見つめていた。

 この後、レイは孝太郎とアニエスをお祝いと称してホテルのディナーに招待した。そしてそのまま、ホテルへ宿泊してほしいと言葉を添える。孝太郎のいぶかしげな表情と天真爛漫に喜ぶアニエスにレイの胃はキリキリと痛み出した。翠には二人がホテルに泊まるので、今夜は家に二人だと伝えておき、ギリギリの所で友達から誘われたと言って家を出た事により最高潮に胃が荒れた。

 月曜日には、義姉(神さま)を売ってしまい、罪悪感に苛まれて目の下に濃いクマを作ったレイが玄関先に立ち、手作りのマフィンを手渡して走り去ったのを逆に申し訳なく思った翠は、意気揚々と迎えに来た瑛の鳩尾に深いこぶしを刻んだ。

(―素直で気が弱いけど、まぁ、あーちゃんのそばにいるのを許してあげるか)

 マフィンを齧りつつ、真っ赤になった翠を満足そうに見つめる瑛であった。



 ―おまけ―土曜日の夜―


 翠と瑛とレイの三人は、和やかに夕食を作っていた。

 翠が料理を作るのを瑛は並んで手伝い、レイは気を遣ってサポートにまわる。いつもより豪華に出来た料理に満足しているとレイのスマホが鳴った。

 レイがスマホを手にして、目を見開く。そして、申し訳なさそうに「すいません。友達の家に泊まる約束を忘れていました」と言い残し、翠が止める暇もなくレイが家を出て行ってしまった。

 翠は瑛との二人っきりの夕食に、警戒色を顕にするが、終始ニコニコ顔の瑛に押されて納得はいかないものの、夕食を食べ、後片付けも一緒にした。

 その後、リビングに移動しレイが持ってきたマドレーヌでお茶をする事になる。

 ソファーに腰掛けて横に座っても、まだニコニコしている幼馴染に、翠はずっと気になっていた事を切り出した。

「瑛、それ痛い? 自分でやったんでしょ?」

「心の方が痛いよ。あーちゃん、慰めてくれるよね?」

 包帯の巻かれた左手を翠に差し出し、首をコテンと傾げる。そして、器用に上目遣いで翠を見つめてくる幼馴染に脱力感を感じた翠は、手にしていたカップを机に置き、瑛の方へと身体を向けた。

「はぁ。瑛は馬鹿だよ。自分で自分を傷つけるなんて」

 翠は、両手で優しく瑛の左手を包み込む。

 甘い空気に瑛は満足し、瞳は獲物を捕える猛獣のようにギラギラとさせていた。

「あーちゃん……イデッ!!」

 包み込まれた左手に、翠の爪がくいこみ包帯に血が滲む。塞がりかけた傷が再び開いて、血が噴き出した。

「瑛を傷付けていいのは、私だけでしょ? ……バカ犬」

「あ、あーちゃん」

 情けない声を出す瑛を無視し、翠は包帯を剥ぎ取る。そして、左手に滲んでいる血を舐めとった。「不味い。鉄臭い」と文句を言いながら。舐める姿と、左手から伝わる快感に元々緩い翠に対する理性が切れかけた。

「あーちゃん。今日は僕が主導権を握ってもいいよね?」

 瑛は翠の唇に手をやり親指を口内に入れる。自分の血で赤く染め上がった唇と舌が官能的で、ますます瑛の理性は追い詰められた。あの晩の続きを促し誘惑するが、翠は不敵な笑みを浮かべ、瑛をソファーに押し倒し、馬乗りになった。

(また騎乗位!?)

「ったく、レイを利用してこの時間を作ったんでしょ? 義弟と仲良くなってくれるのは、嬉しいけどね。……利用するなんて気に入らないな。それに瑛が自分で怪我を作るのも、私から主導権を握ろうとするのも、もっとも―っと、気に入らない。瑛は私のものなんだから。わかった?」

 血で汚れた包帯を瑛の両手に巻き、拘束しながら、翠は瑛の瞳から目をそらさない。

 瑛は、自分の血の匂いと翠の匂いに酔って翠を見上げている。その瞳は熱を帯びて心酔しきっていた。

「神さまというよりは、女王様?」

「ハァ?」

 ギュッと瑛の鼻を摘む。

「ふががっが……もう! あーちゃん、また鼻を噛むのはなしだよ。違うところにして?」

「……」

 翠は瑛の顔を撫で、綺麗な瞳の下にくっきりと浮かんでいるクマを、少し痩けた頬をなぞる。

「眠れてない? また吐いている? ……あの日から?」

「……」

「ごめんね。酷い言葉を言って。私は、瑛が一番大事だよ。瑛だけが一番大事」

 頭を撫でながら、ゆっくりと体を瑛に重ね、頭を抱き込む。

「瑛が大事だよ」

 呪文のように言葉を重ねながら。ずっと、ずっと、撫で続けて瑛を安心させる。

「あーちゃんの、バカ」

 いつの間にか、眠りに落ちた瑛の頬に唇を落とした翠の瞳は優しかった。



 この晩、翠はすっかり瑛にたべられてしまうのだけど。

 それは、別の話。


*翠の義弟


織田 レイ


実は、母アニエスは、アニメおたく。

なので、息子に某有名ゲリオン的な少女の名前を付けたのを、レイに根に持たれている。

ちなみに、母とは好きなジャンルが違うので、趣味が合わない。


小学生時代に出逢った、翠を「神さま」扱い。

義姉を神聖なものとして見ている。


瑛は、苦手。怖い。

弱みを握られて、更に苦手に。

瑛に自分を売り出すために、協力を約束したが、義姉を“売る”ような行為に罪悪感が半端ないので、罪滅ぼしにお菓子をせっせと翠に作る。


中学校でも、男女問わずに好かれるが、義姉にしか興味がないので基本スルー。



翠と瑛の初体験話はお月さまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ