01.幼馴染はイケメンでヤンデレで変態なので調教中です
変態注意。 下品注意。
ヤンデレ<変態注意。
勢いで書いた変態です。
「一緒に登校するのは当たり前でしょ? 休み時間も毎回逢いに行くのもね。昼休みももちろん一緒にお弁当を食べようか。あーちゃんが作って来てくれたら凄く嬉しいけれど、一緒に作るのもいいね。帰りにでも一緒にスーパーで食材を買って帰ろうね。へへ、新婚さんみたい。早く結婚したいなぁ~。一緒にご飯を食べて、お風呂も一緒で、トイレも一緒。それから一緒のベッドで寝ようね? うん。これだ。これで許してあげる」
と、矢継ぎ早に言い切った後に、コテンと首を傾げてこちらの様子を伺う姿は、小リスのように愛らしい。
目の前の幼馴染、葛城 瑛は、容姿端麗、文武両道、風流才子、眉目秀麗、知勇兼備……etc
その素晴らしさを讃えた四文字熟語が次々とでてくるような人間だ。
艶やかな黒髪と流行りの無造作ヘアー。瞳も吸い込まれそうなくらい綺麗で、見つめられたら大抵の人は失神するか言い成りになるんじゃないかと思う。女優が嫉妬しそうな肌に、凛とした佇まい。そして、外見を裏切らない賢さと強さも備えている。
そんな彼に欠点があるとすれば……
私、織田翠に対して―ヤンデレで変態な事である。
「瑛? バカなの? 変態なの? 変態だよね? あ、変態だったわ」
ため息と共にでた言葉に幼馴染が動じるわけもなく。
「あーちゃん、変態、変態って。もう! 興奮する!」
なんて、鼻息荒くまくしたてるものだから、
〈ガシッ〉
脳に信号を送るよりも速く、脚が勝手にかかと落としをしちゃった。
「イタタタタ。へへへ」
「避けなさいよ」
「え~嫌だよ~」
避ける事もできるくせに、瑛は私からの攻撃は避けない。小学生の頃、不思議に思って聞いてみると「勿体無いよ。あーちゃんからの僕への愛撫でしょ? 僕、刺されてもイケるかも」と言うのだ。「こらあかんわ」と、おもわず関西弁になり、身の危険を感じた私は、すぐさま行動に移した。他府県に住む祖母宅に一時的でも隠れよう。誰にも言わずに荷造りをしていたら、玄関前で旅行バックを持った幼馴染に「へへへ。婚前旅行だね?」と照れながら手を繋いでこられたので、思わず腕ひしぎ十字固めをお見舞いしたのも想い出。その後「太ももの感触が堪らないね。あ、出そう」と大変喜ばれたのも黒歴史だ。
そして今現在、目の前の幼馴染は、瞳をキラキラさせて「もう終わり? おかわりは? ハァハァ」という、餌を待つ飼い犬状態の後「あ、パンツみられなかった」と、気付いて蒼白になっている。
「……しね」
「も―。あーちゃんが、いけないんだぞ! 僕というものがありながら、他の奴と仲良くしちゃってさ! あーちゃんが止めなかったら、そいつ等を殺そうかと思っていたよ! あ、あーちゃんは殺さないよ? もう、僕のそばから離れられないように鎖で繋いであげるからね! 足の骨を折って歩けなくするのもいいかな?」
笑顔である。笑顔でのこの内容。通報ものである。悲しいことに私は幼馴染の対応に、慣れ過ぎた。今では寒気も恐怖も感じない。
「殺さないし鎖もいらないし邪魔。足の骨を折ったら、もう一生口を聞かないし、足技もかけてあげられないよ?」
「それは嫌だ」
口を聞いてもらえない事よりも、足技をかけてもらえない事にショックを受けている幼馴染は通常運転。
さて、こんなヘヴィーな会話(私達にとっては日常会話)をしている場所は、私の家の玄関前である。ついでに、部屋まで上がり込もうとするので、玄関先での攻防を繰り返している。送り狼より危険な猛獣を、家の中に入れる程、私はボンヤリしていないつもりだ。玄関のドアを強引に閉めながら、今日はこれで終わりとばかりに「じゃあね!」と言ったら靴を差し込んできた。
チッ。
「あーちゃんっ! まだ、終わっていない!」
「あーもう。今日は女の子と会っていただけでしょ? 女の子と一緒にいる所まで、あんたにとやかく言われたくない」
そう、事の発端は放課後の話である。
『なんで、あんたみたいなのが、瑛様のそばに居るのよ!』と、他校生の女子三人組にテンプレな待ち伏せを受けたので、軽くアキレス腱固めや顔面ウオッシュやドラゴンスリーパーを決めただけなのである。プロレス技が華麗に決まった瞬間、幼馴染が血相を変えてやって来た。
『あーちゃん!! なんでそんな奴らに、技をかけているんだよ! あーちゃんの技は、全部僕のものでしょ! 全部僕にかけて! 僕のもあーちゃんの顔面にかけてあげ……ゴフッ!!』言い切る前に、アックスボンバーをかけてしまったのは条件反射である。鼻血を出しながらの『へへへ、この感触……最高』これも、通常運転である。
呼び出しをしてきた女子三人もドン引きした後『瑛様に技をかけるお姿が素敵です』『お姉様!』と瞳をきらめかせてきた。案の定、瑛が黒いオーラを出しはじめたので慌てて、引っ張って連れて帰ったのだけど。
「呼び出しや待ち伏せ関連も、全部あんたのせいでしょう? 無駄に外見と外面……いや、外面は良くないか。興味のない人には愛想も態度も悪いし。あれ? なんで変態なのにモテるの? 外見? 見た目でモテるの? 中身は変態なのに? 最大の謎だわ」
世間では私がこの幼馴染の隣にいるのが大変不服らしく、待ち伏せか呼び出しが日常茶飯事だった。その後の幼馴染の乱入で収集がつかなくなり、殆どの人が“百年の恋も冷めました”という死んだ目をする。
今では同情的な目でみられる事も増えたけど。それでも時々、幼馴染の実態を知らない他校生に待ち伏せをされてしまう。やってて良かった父との格闘技ごっこ。
「呼び出した奴ら……最後には、あーちゃんの虜になっているんだよ」
瑛はボソリと呟くように言い捨てた。
そういえば、中学生の時に絡んで来た男子校生二人を、ラリアット、デンバレーボムなど、張り切っちゃったら、次の日、『友達にして下さい!』『お鞄、持ちましょうか!』と言われるようになった。その後の瑛の暴れっぷりには手を焼いたけど……あの二人、就職決まったかな。元気にしているかな。
ゴンッ
玄関ドアを殴る音。
「今、他の男の事、考えているよな?」
地を這うような低い声が響いた。
ああ、こうなると私のバカで変態だけど心が純粋な幼馴染は、コントロールがきかなくなる。ドス黒い深い闇の中にいるような瞳は狂気を滲ませていて。でも、その瞳はとても綺麗なのだ。
「あーちゃんは、俺だけのものなの! 俺だけをみてくれていたらいいの! ねえ! 俺だけじゃだめ? 俺だけでいいよね? 俺はそうじゃないと嫌なんだ! あーちゃんが、他のものを見て。笑う。話す。怒る。ねぇ、全部の感情を俺に向けてよ。俺だけを視界にいれて。他のものはいれないで。ねえ! ねえ! ねえ! 俺、あーちゃんの事が好きだよ。大好きだよ。愛しているんだ。何千万回言っても足りない。こんな俺のことウザい? 嫌い? 憎い? 捨てる? ……嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!! あーちゃん、お願いっ! 俺の事を否定しないで! 抱きしめて! でないと俺、殺してしまう! 殺しちゃう! 大事にしたいのに、抑えられなくなる。……ねえ、俺はなんなの? あーちゃんにとってただの幼馴染なの?」
もう一度言う、ここは私の家の玄関先である。
しかも、この幼馴染は外で、外で! こんな事を喚いている。ああもう、隣近所の奥様方は「あきらちゃん、愛されているわね!」と温かい目で見てくれるけど、幼児や小学生もいるんだぞ。こんな物騒な事を聞かせて幼馴染みたいなのが増殖したらどうする。
ほんとうに、バカで変態で子どものような、幼馴染は……。
「はぁ―」
私の大きなため息に、肩を震わせ不安に揺れる瞳。瑛の左腕を強引に引っ張り、家の中にいれた。
(……あーあ。猛獣を家の中にいれちゃったよ)
外に誰も居ない事を確認して、玄関ドアを閉め、そのまま押しやった。
ドンッ
玄関ドアを背にした瑛は今の状況がよくわかっていない。だって女の私に『壁ドン』ならぬ『玄関ドアドン』をされているから。右手で胸ぐらを掴んで顔をひきつけ寄せてやる。瑛の綺麗な瞳に私の凶悪な笑顔が映っている。ほんと憎らしい程、肌が綺麗だな変態のくせに。
「好きだよ」
「え?」
「好きだよ」
「え? 俺、 僕を?」
「何? 好きだよ。ちゃんと異性として。安心した?」
ニンマリ笑ってやった。あーあ“俺”から“僕”に戻った。残念。
いつもの人を惹きつけてならない瞳が無防備にクルリンとして、唖然とした顔。こういう表情をさせられるのも、私だけなんだなぁと思うと、ジンジンとお腹に温かいものが流れて優越感と共に愛おしいと思う……同時にちょっと、この幼馴染が滑稽に思えた私は結構なドSだ。
瑛から手を離し、背伸びをして頭を撫でてやる。
瞳を細めて気持ちよさそう。愛い奴め。
「で、最初の答えなんだけどね。ま―学校は良いわ。いつもの事だし。お弁当は当番制にしよう。交互で作ってくるの、いい? で、お風呂もトイレも寝るのも一緒には無理。お互いに親と一緒に暮らしているんだから、普通に無理。結婚は、お互いに就職をして稼げるようになってから。わかった? あ、トイレに一緒は生涯絶対ないから」
「ええ~」
「ええ~じゃない。うちは男寡なの。私が居ないとお父さんが餓死するから。だーめ」
「―わかった。『好き』って言ってくれたら我慢するよ。一回言ってくれる度に一日我慢する。忘れたら、すぐに拉致監禁だからね!!」
「はーい。好き好き好き。これで、三日分?」
「て、適当!!」
ショックを受けながらも、嬉しそうな幼馴染。上目遣いで「これで、僕たち恋人同士だよね?」とモジモジと照れながら聞いてきた。ここで乙女になるのか! お前は! ムカついたので、手の平を上にして差し出す。
「お手」
「わんっ!」
「おかわり」
「わんっ!」
「伏せ」
「わんっ!」
あ、本当にやった。バカだ。バカ犬だ。しかも期待を込めた瞳でこっちを見てくるから、たまらなくなって
「うふふふふ」
自然に笑顔になっていた。あ、やばい幼馴染の前でこんなふうに笑ったら……
「〜っ!!」
あー、真っ赤になっちゃって悶えている。これはヤバイわ。犬から猛獣になる五秒前だわ。捕食されるわ。
「あ―ちゃんって、ほんと可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いっ! あーもう! 萌え死ぬかと思った。ねぇ、舐めてもいい? 全身を舐め尽くして僕の体液をすり込んでそんでもってイレて……ゴブフゥっ!!」
鳩尾に一発。完璧にきまったはずなのに、ニヤニヤ気持ち悪い笑顔をして全く効いていない様子。幼馴染の前で普通に笑わないようにしなきゃ。マジでヤられる。
「あーちゃん」
「なによ」
「好きだよ。結婚しようね」
「……出来る時に、お互い好きだったらね」
「へへへ。大丈夫! あーちゃんに万が一でも僕以外に好きな人が出来たらその相手を殺してあげる」
蕩けるような甘い甘い笑みを浮かべて、息が出来なくなるくらい抱きしめてきた。
はぁ。幼馴染が犯罪者にならないように頑張らなきゃ。
この後、部屋に入ろうとする瑛との攻防戦は、お父さんが帰ってくるまで続けられたんだけど、これが私と幼馴染の日常生活とだけ記しておく。