「桃太郎」
桃から生まれた人間と、忌み嫌われる鬼との間にどれほどの違いがあるのだろうか、とふと思う。いや、桃から生まれたモノが本当に人間なのかどうかということを考慮するならば、どちらも共に人外という二文字でくくられる同じ存在であるに違いあるまい。
であるならば、人外が人外を虐殺するというのは人間にとってみれば、敵が勝手に同士討ちをするようなものだろうか。自分のやっていることが人間のためになっているという自負はあったものの、利用されていると考えることはあまり愉快ではなかった。
逃げようとした鬼を脳天から唐竹割りにして、刀を引き抜きながらあたりを見回す。
既に大勢は決していた。逃げようとしている女子供の鬼を、犬が逃げ道を封じ、雉が目をつき、猿が首を絞める。
「そのくらいでよい」
刀でとどめをさしてやりながら部下に告げる。
既に敵側に戦う力を持つものは無く、立ちふさがる者もいない。これ以上無駄に死体を増やすこともあるまい。刀の血糊をぬぐって、鞘に収めた時、何かが風を切る音がして、咄嗟に避けると、子供の鬼が石を握り締めてこちらを睨んでいた。
「この、鬼! おまえこそ、本物の鬼だっ!」
「俺は鬼太郎じゃねぇ。桃太郎だ」
一瞬で踏み込み、子鬼に当身を食らわせる。担ぎ上げると、柔らかいものが背に触れた。
子鬼の股座に手を伸ばして確認すると、まだ毛も生えてはいないが子作りに支障ない程度には成熟しているようだった。痩せてはいるが、生きがよさそうだ。戦利品代わりにもらっていくとしよう。
「許せとはいわん。いつかお前に仇を討たせてやる」
子鬼の尻をなでながら言う俺を、三匹の部下が下卑た笑みで迎えた。
本文中に一切説明がありませんが、背景として、鬼=漂着した外国人説を下敷きにしています。
生きるために、鬼だぞーと、近隣の村を襲っていた外国人の隠れ家を、桃太郎さんが踏み込んで大虐殺という場面です。
伝奇っぽいの書いてみようと文章こねくりまわしてみましたが、尻すぼみというかオチがないというか。
いつか長編書いて見たいネタではあります。