「少女の嘘と少年の真実」
「今から嘘をつくよ」と前置きしてから、少女は僕の目の前に立った。
「もう会えないけれど、君のこと好きだった」そう言って少女は僕の頬に冷たいキスをした。そしてそのまま崩れ落ちた。文字通り、粉々になって、僕の目の前で崩れ落ちた。
僕の肩にわずかに残った彼女の欠片が、日の光を受けてきらきらと輝き、すぐに溶けて僕のシャツに染み込んでいった。
僕はそこで初めて自分の愚かしさに気がついて、救いを求めたけれど誰も応えてはくれなかった。僕は彼女の欠片をかき集めるようにして泣いた。見る見るうちに、かつて彼女だったものは日の光に溶けて失われ、僕の手のひらには一片の埃さえも残らなかった。
真実はいつもひとつだなんてメガネの少年探偵は言うけれど、それは少し違うと思う。
客観的な事実というものは複数存在することはありえないけれど、その事実から導き出される真実は必ずしもひとつではない。
だから、少女がついた小さな嘘は僕にとって希望であり、救いでははあったが、きっと彼女にとっての真実ではなかったのだろう。
雪が夏の日差しに溶けてしまうことなど、考えもしなかった幼いころの苦い思い出だ。
僕がひまわりを彼女に見せようなどと思いつかなかったら、彼女はきっと今でも僕の側で笑っていたに違いない。それが幸せなのかは別として。
【少女】【嘘】【真実】のお題で書かれました。
書く方は楽しいけれど読むほうはなんじゃこりゃなお話。わけのわからないお話ですみません。簡単に状況を書くと、冷蔵庫にしまっていた雪の精のようなものに、ひまわりを見せようと、夏の日差しの下に引っ張り出したら溶けてしまったというお話。
少女の言葉の何がウソなのかで意味合いが変わります。
「もう会えない」がウソなのか「君のこと好きだった」がウソなのか。
それとも「もう会えないけれど、君のこと好きだった」が全部ウソなのか。
「今から嘘をつくよ」がウソだったりして。
少年は少女の嘘を希望と信じ、「また会える」と思っているけれど、少女にとって発言の真意は何だったのか。書いた本人すらわかりません。