「夏まっさかりのこの島で」
あなたがそらの向こうに行ってしまってから、もう二年と七週間になります。
今更ですが、最近になって、わたしもあなたと一緒にいけば良かったと後悔することが増えました。望遠鏡で星空を眺めて、あなたはどこにいるのかしらと眺める時間が増えてきました。
……本当に、今更ですよね。あなたは何度も一緒に行こうと誘ってくれたのに。
こちらはそれなりに、うまくやっています。慣れたくはありませんでしたが、あなたがいない生活に少し慣れてしまった気がします。
そちらでは、うまくやっているのでしょうか。ちゃんとご飯は食べていますか?
こちらからは手紙くらいしか送ることが出来ないのが残念でなりません。
そらとだいちをつなぐ天の架け橋のあるこの島にも、三度目の夏がやって来ました。
そちらには四季はあるのでしょうか。今はこちらと同じように夏なのでしょうか。こちらは随分と暑くなりました。薄着になった夏服の人を見て、鼻の下を伸ばしたりしてないでしょうか?
……心配なので、わたしの写真を同封します。わたしの顔を忘れたり、してませんよね?
この手紙があなたの元に届くのは、いったい何年先になるのでしょう。
いちばん最初に送った手紙が、そろそろあなたに届く頃でしょうか。
夏まっさかりのこの島で。
あなたの無事を祈っています。
あなたの帰りを、待っています。
織姫より、彦星へ。
愛をこめて。
☆★☆
この手紙は西暦2549年に起こった軌道エレベーター「天の架け橋(Heaven Bridge)」の倒壊事故現場跡で発見された物である。この手紙の織姫(Vega)と彦星(Altair)が無事に再会出来たかどうかは、今となっては調べるすべもないが、そうであって欲しいと切に願うものである。
2645/07/07 Mars.Museum
【夏まっさかり】【橋】【夏服の人】のお題で書かれました。
ちょっとホロリ系目指してみましたが……だめっぽい? 初期案では☆★☆以降がなくて、「織姫より彦星へ。」じゃなくて「彦星より織姫へ。」だったり。こっちの方がよかったかなぁ……。