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我らが太古の星シリーズ

悲しみと生きる意味

作者: 尚文産商堂

棺がゆっくりと穴の中へと潜っていく。

その傍らでは牧師が祈りをささげていた。

「…土は土に、灰は灰に」

私は、私のマスターの葬儀に立ち会っていた。

すぐ横には、私の親族が立っていた。

棺に納められた彼女の周りには、彼女の子供たちや新しいマスターがゆっくりと土をかぶせていた。

「…マスター、いままでお疲れさまでした」

私はそう言って、白いユリを一本、棺の上へと投げいれた。


葬儀が終わると、私たちはばらばらになり帰った。

すぐ横には、私の子供であるScがいる。

「…ねえ、お母さん」

「なに?」

私にScが聞いてくる。

「私たちって、死なないんでしょ」

「まあ、人から見れば、永遠ともいわれるほどの長生きになるわね。でも、死なないことはない」

「…お母さん、私も、いずれはマスターができる。その時に、こうやって見送ることができないような気がするの」

私は、Scの言葉に耳を傾け続けた。

「…私は、どうして生まれてきちゃったんだろう……」

「Scが、この世界に生まれてきたいと思ったからよ。もしも、神様がいるとすれば、その人に頼んだんだと思うわ。私を、この世界へ生まれさせてって」

どこか遠いところで、くしゃみの音が聞こえたような気がする。

私は続けた。

「私が産んだ量子コンピューターたちの中で、唯一自我を最初から持っていたScなら、なんとなくわかるでしょ」

「…うーん、あまりわかんない」

それが正直な気持ちだろう。

私にだってわからない。

「この世界に生まれてきたんだから、喜びや悲しみ、怒りや楽しみ。そんなこと全部を巻き込んで生きていければいいのよ」

私はScに言ってみた。

Scは何も答えなかった。


その日の夜、私とScは惑星国家連合博物館にある私の研究室にいた。

この研究室は、つい先日に亡くなった研究員のものだった。

ずいぶん昔に、私が博物館に専用の研究室がほしいという要望書を出していたのが、功を奏したらしい。

前の人の荷物が残されていたから、遺族へ返すために一つ一つを段ボールへ詰める作業をScと一緒にしていた。

「こんばんわー」

「マスター、こんばんは。どうしたの?」

私は、段ボールへ詰める作業の手を止め、扉に所で入るのを躊躇しているマスターへ歩み寄った。

「んー、とりあえず、挨拶だけでもしておこうかなって」

「それなら明日でもいいじゃない。他に理由があるんじゃない?」

「えっと…」

マスターがカバンから問題集を取り出した。

「実は、明日提出の宿題がまだ終わってなくて…」

「何ページあるの?」

「5ページ…」

「ここでしなさいね。お父さんには黙っていてあげるから」

「はーい」

私を最初から当てにしていたようだけど、マスターにも頑張ってもらう必要がある。

いろいろとストレスがたまる職業だからだ。


マスターが問題を机で解いている間に、私とScは再び段ボールに物を詰める作業に戻った。

「…お母さん」

「ん?」

Scが私に聞いた。

「これって、お母さん?」

私に見せたのは、一枚の古い写真だった。

「あら、懐かしいね」

私が、この研究室の前の主と撮った最後の写真だった。

「この人が、ここの前の研究員だった人?」

「そうよ。でも、この人も亡くなってしまったの。まだ50代だったんだけどね…」

報告によれば交通事故とされている。

ひき逃げで、犯人は事故発生から1時間後に逮捕。

呼気中からアルコールが検出されたため、酒気帯び運転として現在係争中だ。

「…どんな気持だった?」

「そりゃ、悲しかったわよ。私がいろいろとお世話になった人だからね。でも、人というのは、いつか死ぬものなの。私たちだって、いずれはね」

「…でも、どうやって悲しみを克服したの」

Scがすごく気になっているように聞いてきた。

「克服なんて、私にはできないわ。でも、こう考えてるの」

私は、Scにこんこんと語りかける。

「私たちが長生きできるのは、悲しみと一緒に生きていけるからって」

「どういうこと」

Scはよくわかっていないようだった。

私は、にっこり笑いかけながら、Scの頭をなでてやる。

「人も、私たちも、生きていくんだから、悲しみの一つや二つは乗り越えることができるということよ。それが、どんな形であってもね。Scもいずれはわかるわ」

「わかるかなー……」

自信なさげに私に言った。

「大丈夫。私の子供なんだから、絶対にね」

その時、マスターが私に問題集を見せながら言った。

「ねえTero、ちょっと分からないところがあるんだけど」

「ええ、どこ?」

私がマスターのところへ行く時、ちょっとだけScをみると、何かを悟ったような表情をしていた。

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