当たり前の日常風景 -crummy
──そう、これは当たり前の日常風景なのだ。
少なくとも、彼らにとっては。私は、暇潰しの相手でしかない。
いつも通りの教室。
友達と喋っていたり、朝から急いで宿題やってたり。そう言うのが、当たり前の光景なのだろう。
私達のクラスは、違う。
「おい、ゴミ!」
またクラスの皆が、
「何学校来てんだよ。超キモイんだけどー!」
私に向かって罵声を浴びせてくる。
このいじめにリーダーは居ない。皆が皆同じように私に嫌悪感を持っているから、一斉にいじめてくる。皆が私を嫌っている。
誰が最初に私の悪口を言い始めたのかなんて知らない。
「おいブス! 聞いてんのかよ!」
クラスの女子の罵声を無視していると、突然髪を掴まれた。
「痛い……っ」
「キャハハハ! 痛いだってぇー! 超ウケる!」
逃れようと必死に女子の腕を掴む。
暴れていると、顔面に雑巾を投げつけられた。きちんとしぼれてないびしょびしょのもの。
「あはははは! くっさぁーい!」
恐らくこれはわざとしぼっていないのだろう。惨めで腹が立つが、これ以上いじめを拡大されてしまうと思うと……怖い。だから、今の今まで反抗出来ずにいた。
「やべっ、先生きたぞ!」
皆はバラバラに散って、各自の席についた。
先生が居る間はまだ安心だ。皆気付かれないように目立つ事はしない。
……先生がいじめの事を知っても、知らない振りをするに決まっている。この先生は生徒に厳しい人でもなければ、教育熱心な人でもない。気が弱くて、生徒によくいじられる感じの人だ。
私は自分の席につくと、机の隅に書かれた落書きを消した。
両親にもこんな事は言えないでいた。
心配かけたくないし、私がもっとしっかりすれば良いだけの話だ。
目から涙がこぼれそうになるが、ぐっと堪える。
早く中学生になって皆と離れたい。そう思いながら、落書きだらけのノートや教科書を綺麗にした。
「……沢、胡桃沢璃音」
「は、はい!」
しまった。落書きを消すのに必死で呼ばれている事に気がつかなかった。
「プッ、バーカ」
「マヌケじゃん」
周囲から嘲笑う声が聞こえてくる。ただでさえ惨めなのに、たまらなく恥ずかしかった。
やっと落書きを消し終えた時には、もう朝の会は終わっていた。あまり教室には居たくなかったので、急いで教室を出てみると……。
「せんせー! さーせん、寝坊しましたっ」
「……九か。お前、今何時だと思ってる?」
「九時前!」
「……お前なぁ……」
廊下を挟んで教室の扉の前の階段から、一人の男子が急いで駆け上がってきた。
彼の名前は九七星。サッカーが大好きで、クラスの人気者。この人だけは、私をいじめてこない(と言うか、授業中は勉強に集中しているか寝てるかのどっちかだし、休み時間は校庭でサッカーしてる)。陰湿ないじめが行われている事に気付いていない。
「よっ、胡桃沢! 何処行くんだ?」
気さくに話しかけてくれる。皆に人気な理由が、少しだけ分かる気がした。
「……ちょっと、トイレ」
「そっかー、校庭行くならサッカーしようかと思ったんだけどなぁ」
「あー、璃音ー」
クラスの女子が私の名前を呼んだ。
まずい。
いつもは苗字ですら呼ばれないのに、名前で呼ばれた。これは九君の前では良い子で居ようと猫を被る女子のやり方だ。九君は顔も良いので、女子の中では人気であるらしい。
「一緒にトイレ行こうよ」
無言で立ち去ろうと足を動かした時、ぞろぞろと他の女子まで廊下に出てきた。
「七星、おはよっ!」
「ん、はよ」
女子達は九君に明るく挨拶を済ませると、強引に私の腕を引っ張って階段を降り始めた。向かう先は、校内のトイレのどれかだろう。
「……アンタ、マジムカつく。もう頭来た」
ぼそりと、一番初めに私の名前を呼んだ女子が呟いた。
何されるんだろう。……怖い。
逃げようと腕に力を込めてみても、私の腕を掴んでいる力には適わなかった。この子、この間の運動会で活躍してた子だ。
一階の女子トイレまで来ると、突然個室に突き飛ばされた。
「っ……」
「アンタ、何フツーに九くんと話しちゃってるワケ? ありえない。喧嘩でも売ってるの?」
違う。九君の言葉を無視する理由が無かっただけ!
心の中ではそう思ってても、言い返せばまた暴力を振るわれてしまうかもしれない。それが怖かった。
「まぁ、一緒に校庭についていかなかったのは身をわきまえてるらしいけど。あーあ、ほんっと死ねば良いのに!」
他の女子もクスクスと笑いながら、何やら掃除用のモップを構えている。……まさか!
「薄汚い奴を綺麗にしてあげなきゃ」
皆が一斉に、モップを振り上げてくる。逃げる隙もなく、私は二、三本のモップを押し付けられた。
ほこりやゴミがついていて汚い。所々には虫の死骸も付着している。早くにげないと!
「ふふふ、良い気味。皆良いよ良いよー、私もやろー」
モップにぐいぐい押されて、和式便所の便器に腰がはまってしまう。出たくても押しが強くて出られない。それでもなんとか逃れようと、私は精一杯モップを押しのけた。
「やめて……っ、きたな……」
バシャッ
突然、水を被せられた。
「あははは! 超頑張ってるんだけど! うけるー!」
一人が水の入ったバケツを持っている。沢山の嘲笑う声とモップの押しに、とうとう我慢が出来なくなった。
「……やめてよ!」
モップを二本両手で掴むと、それを支えに力を振り絞って便器から抜け出す。
それでもモップで押さえつけられ、水はどんどん被せられた。
死にたい。
何でこんな目に合わなくちゃいけないの。
「……ああああああああああああああああああ!!」
がむしゃらにその場で暴れてやった。
面白がられて嘲笑われたり、涙もこぼしていたと思う。それでも暴れずにはいられなかった。
無理矢理女子達を押しのけてトイレを出る。その瞬間に、丁度チャイムが鳴った。
嫌だ。授業に出たくない。こんなに濡れた姿で教室に入っても、皆に笑われるだけだ。
私は女子達がトイレから出てくる前に校庭へと急いだ。
広い校庭を走って走って、ブランコまでたどり着くと傍の手すりに腰を降ろす。
「……う」
視界が涙で滲む。季節が秋だからか、少し寒さを感じる。風邪を引いてしまいそうだ。
そもそも、私はなんでいじめられているの?
何も悪い事をした覚えはない。全く分からない……。
……ああ、理由なんかどうでもいい。
ふと、授業を邪魔してやりたい衝動に駆られる。思い切り暴れて、椅子でも投げつけて、今まで私をいじめてきた奴らに復讐がしたい。
本当にやってしまおうか。そんな事を考えていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「どうしたんだ?」
はっとなって後ろを振り返ると、そこには息を荒くして汗を拭っている……九君の姿が、そこにあった。
「……九君こそ。今授業中じゃないの?」
九君の状態はどう見ても体を動かした後だ。私は目尻の涙をさっと拭うと、出来るだけ目が赤いのがバレないように俯いた。
「いや、それこっちのセリフ! オレの席窓際だから、暇だなーって思って外見てみたら胡桃沢が居て……泣いてたし、なんかあったのかと思って抜けてきちまった」
授業中に抜けてくる?ろくに話した事もない私の為に?
「それにさ、その服。びしょびしょじゃん」
……そうだった。トイレで水を被せられたんだった。
「おい! 九! ……って、胡桃沢?」
突然授業中に抜け出した九君を捕まえるべく、先生が息を切らして走ってくる。
「やべぇ、先生来たし!……胡桃沢、行くぞ!」
九君はそう言うといきなり私の手を掴み、先生の方へと走り出した。
「……九君っ?」
「保健室行く。そこで服乾かして、何があったのか詳しく教えてもらうから!」
そして突然左折すると、わざわざ靴を脱いでいる暇はないらしく、校庭から保健室に繋がる廊下を土足で踏み上がり走る。私は上履きのまま外に出ていたので大丈夫だった。
私は今、何故この人と走っているの?
えっと、私がブランコで泣いてたら九君が来て……。
そんな事を考えていると、既に保健室に居た。流石、普段運動している彼のスピードについていける訳もなく、私の息は上がっていた。
「大丈夫か?」
私が小さく頷くと、九君は保健室に置かれてある大きな棚へ近づいた。
「ここに、体操服あるからさ。オレ見えないようにするから、着替えた方が良いぞっ」
私は着替えている最中に先生が此処まで来てしまったら危ないと思い、一応保健室の鍵を閉めておいた。今の内にさっと着替えておこう。
「……で。何があったんだよ」
着替え終わった私は、九君に事情を問われていた。
クラスの皆は決して彼にはいじめの話が伝わらないように最善を尽くしている。……何故かは分からないけど。
でも、本当に気づいていないならクラスの皆の無駄な団結力はすごいと思う。私を覗いて。
だが、私は全て包み隠さず話そうと決めた。
もう先生がどうだとか、自分が強くならなくちゃだのそんな事を言っているほど、余裕ではない。
「……実は」
私は、彼に全てを話した。
「やっぱりな」
「え?」
長い間話している中、何も言わずに頷いていてくれた九君が発した言葉はそれだった。
やっぱりって……?
「知ってたの? ……いじめの事」
「うん。……まだやってたのかよ」
どう言う意味だ?
私には、彼が何を言っているのか分からない。まだやってたって、何を?
もしかして……。
「気付かなくてごめん。影で隠れてコソコソやってるなんて……知らなかった」
「ねえ、いじめは前からあったの? そんな話は聞かなかったけど」
そこで少し間を置くと、九君はゆっくり頷いて言った。
「一年の頃から、この学校にいじめはあった。幼稚園から上がってきた、学年の中心的存在な奴らが始めたらしい。あいつらは、いじめの事をゲームだって言ってた」
そんな昔からあいつらはいじめなんかしてたの?それに……ゲーム?人をいじめて楽しんでるって言うの?信じられない。
「いじめは相手が転校したり居なくなったりするまで、たった一人に対して行われるらしい。いじめのリーダーの両親はこの学校に膨大な援助をしている奴で、逆らえばどうなるか分からない。だから皆逆らってないんだ。……二年前には、そんな馬鹿げた事終わったと思ってたのに」
リーダーは存在した。
逆らわなくて正解だったのか、それは分からない。ただ、一つ分かる事は……。
私は、今大変な状況に置かれていると言う事だ。
クラスの事にあまりにも無関心だったから、そんな事全然分からなかった。
何故二年前に一度いじめが止んだのか気になるが、問題はそこではない。
「……オレ、クラスの皆に言ってくる。こんなの、絶対おかしいよ」
九君は立ち上がってそう言った。
駄目だ。巻き込む訳にはいかない。
「いい、自分で何とかするから」
「……」
自分で何とかするとは言っても、何をすれば良いのか全く分からない。
「じゃあ何すんだよ?」
「分からない。でも九君を巻き込みたくない……」
「こう言う時は、そうやってカッコつけてちゃ駄目だ。人を頼らないと手遅れになる」
正論が返ってきた。確かに頼った方が良いのかもしれない。私の言う事が間違っているのかはよく分からない。迷惑をかけてしまうのに、わざわざ頼らせてくれる彼が理解出来なかった。
いじめに気がつかなかったなんて有り得ないと疑っていたけど、どうやら本当のようだ。
「……九君は何するの?」ふと疑問を投げかけてみると、九君は考える様子も見せずに平然とした表情で答えてみせた。
「オレら、何歳だと思う?」
「十二歳……って、それがどうかし」
「遠慮する必要はない。やられたらやり返せ。大丈夫、もし取っ組み合いになったらオレが助ける。きっと、いじめられてるヤツが反抗しないと何の意味もないから」
私が言い終わる前に、あっさりと言った。
「まだ子供なんだ。騒ぎを起こしても何ら周囲に影響なんてないさ。大人だとそんな事出来ないけど」
普通の小学生らしい意見だった。まるで親に迷惑がかかると言う事なんて頭にない。……私も小学生だけど。それに、私にそんな勇気があると思っているのだろうか。
「それ、本気?」
「本気」
確かに、アイツらに仕返ししてやる事が出来たならどんなに幸せだろう。
水までかけられて、トイレも水浸しになっている。流石に職員も気付くに決まっている。
やるしか、ない?
やるしかないに決まってる。
この時の私は、どこか狂っていたのかもしれない。
「まぁ無理強いはしないけどさ! 胡桃沢そう言うの好きじゃなさそうだし、もしもの事があったらアレだし……。やっぱり──」
「やるよ」
私は、決めた。アイツらを見返してやるのだと。
九君は私がそう言ったのを聞いて、目を丸くしていた。本当は冗談だったのだろうか?まぁ、そんな事どうでもいい。
これは私の決断だ。九君は関係ない。
私は彼を置き去りにして、保健室を飛び出した。
階段を上る。私の勉強する教室、六年一組はもう少し。
一段一段上る。今は給食の時間だろうか。少し開いた扉の隙間から良い香りが漂ってくる。
六年一組の扉の前に立つと、私は今までされた事を全て思い出した。
散々傷つけられ、いじめられ、罵声を浴びせられてきた。小学校ではあり得ないいじめ。
この後どうなろうがどうでも良い。ただ、ヤツらに今までの仕返しをしたい。この衝動だけが、私を動かしていた。
教室の扉を開くと、皆は給食の配膳をしていた。
「うわ! 胡桃沢じゃん」
「給食がまずくなるんだけどー。何で今頃来たの?」
すぐにざわつく教室。
始まりだ。
私は配膳係からさっと熱いスープの入った大きな容器をひったくると、ついさっき私に水をかけてきた女子に頭から被せてやった。
「!? な……熱ッ! 何す……何すんのよ!」
そいつに胸倉を掴まれる。私は睨み返し、勢いよくそいつの頬を殴った。
「ぎゃあっ!?」
私が受けた痛みはまだまだこんなものじゃない。
許さない。
「胡桃沢が暴れだしたぞ!」
楽しそうに私が女子を殴る様子を楽しむ男子。笑いながらこちらを指差している。
他のヤツらも楽しそうに笑う。
何が楽しいの?
私は椅子を掴み、いつの間にか出来ていた人だかりに向かって投げつけた。
ガシャンッ
「うわあ!」
「あぶなっ」
うざい。うざい。うざい。うざいうざいうざい……。
皆、死ねば良い。
既に給食を受け取っていたヤツの給食は全てひっくり返した。
止めようと近寄るヤツには殴って蹴って追い返した。
先生を呼びに行くヤツはどうでもいい。
腕を押さえつけられるとそいつには噛み付いた。
自分でも信じられないほど、暴れていた。
「っ!」
背後をとられる。まだ潰してないヤツが羽交い絞めにしてきた。……鬱陶しい。
振りほどこうとするけど、背の高いヤツだからか中々身動きがとれない。
「……離れろ! 死ね! うざい! ×××! ××以下! ……××!×××××!」
頭突きを食らわせると相手は少しよろめいた。その隙に逃れる。
「皆敵だ……皆、皆いじめる。私が何をしたって言うのよ」
少し疲れた。暴れすぎたせいだろうか。
九君や先生が、今頃こっちへ向かってるだろうな。
もうちょっと滅茶苦茶にしておこうか。
そう思い、足を動かした瞬間。
「……え……」
私の体が軽くなっていた。だけど、自由に身動きがとれない。
何で?
ふわりと、空気に体が持ち上げられた。
どうやら、私は突き落とされたらしい。あまりにも突然の事で気付かなかった。
そうだ……後ろは窓だったんだ。暴れすぎたね。
最後に突き落としてくれた人には感謝しよう。何せ、この小さくて苦しい世界から消える事が出来るのだから。
もう何が何だか分からないよ。
意識が、飛んだ。
「……ん」
ぼやけた視界が鮮明になっていく。どうやら眠っていたらしい。
……眠っていた?
私、死んだはずじゃ──
身体を起こすと、ガサリと手に何かが触れた。音と釣り合わない、ふわふわした感触。
見てみると、それはとても不思議な色をした……草、だった。何やら紫とピンクの入り混じったような色をしている。
ふと空を見上げてみると、空の色も薄い紫と水色が混ざったような感じ。こんな色をした世界、見た事がない。ここは死後の世界なのか。
見た事の無い世界の様子に戸惑っていると、背後から聞き覚えのない声がした。
「お嬢さん、死んだんだ」
……誰?
後ろを振り返ると、そこには小さいシルクハットを頭に乗せた、タキシードを着ている男の人が居た。
この変な色の世界に、変な格好をした人。
やっぱり此処は、私の居た世界じゃない。
「学校の窓から落ちて君は死んだ。突き落としたのが誰かは知らないけど、君が死んだのに変わりはない。この世界が何処なのか君は分かるかい?」
分かる訳ない。そう言おうと口を動かすが、何故か声を出す事が出来ない。
私が何も言わなくても、男の人は一人で話し続ける。
「この世界は人間が普通に来れる世界じゃない。まぁ君みたいに稀にやって来る人間も居るんだけど、その人達は間違いなく自分の居るべき場所に戻る。彼らから見て『ありえない』世界だからね」
この人が何を言っているのか分からない。確かに此処は私から見てもありえない世界だ。
「言い忘れてたね。ボクの名前はジョーカー・ビビット。君の名前はもう知っている。だから早速聞かせてもらうよ」
この人は私の全てを知っているような顔をして、私に問いかけてきた。
「胡桃沢璃音。この世界は君にとってただの通過点かもしれないが、一つ答えを教えてもらおう。この世界ではなく、もっと遠くの世界……そうだね、君たち人間が言う、『あの世』とやらに行きたいかい?そこでは何でも手に入る代わりに、来世……次の命に、選べない姿と環境へ転生しなければならない。逆に、この世界では永遠の楽園に住む事が出来る代わりに、二度と次の命に生まれ変わる事は出来ない。さぁ、どっちを選ぶ?」
あの世……それは人間の誰もが崇める世界。だけどその代償も支払わなければならない世界なのか。
所詮、人間の妄想の限界なんてその程度のもので、都合の良い事ばかりを考えようとするんだ。
私を散々苦しめた下らない世界に、また転生する? ……生まれ変わる?
私に悩む時間など要らなかった。
……この世界に留まる。あの世なんか、行かない。
私の居た世界に対する恨みの衝動だけが、私を突き動かした。
「ふ……そうか。その選択も間違いではないんだろう。その体はこの世界に適応していないから、今すぐに新しい体を与えてあげよう。君の今までの記憶も、全て消してあげる。君はこの世界で、これからずっと……死ぬ事なく過ごしていくんだからね」
私の心の中の意思を汲み取ったのか、男の人優しく微笑みかけてくれた。
「君が居た世界に、君は初めから居なかった事になる」
ああ、私の今までの姿が消えていく。
彼が最後に言った言葉が何を表していたのか。
そんな事も、どうでも良かった。