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ただの1日。

作者: そへ
掲載日:2026/02/09

初短編なので情報超過多はお許しください

登場人物は

米陸軍兵 バーク・モロトフ・アンダーソン

ジョークマシン。

"或る国"と戦うためバークのいる部隊は北欧へ派遣される。

スウェーデンの森でナターシャと出会う。傷だらけのナターシャを原隊へ連れ帰り野戦病院で看病。ナターシャの強さと、バークにはない真っ直ぐな物言いに惹かれ、恋に落ちる。


元ロシア陸軍兵 ナタリア・カラシニコフ(ナターシャ)

"或る国"とロシアとの戦争で、カレリア方面へ展開した部隊の一人。

前線で負傷し、北欧の後方司令部へ移送する途中に輸送隊が襲撃を受け、命からがら森へ隠れる。1年間のサバイバル生活を送る。バークと出会いアメリカの野戦病院で看病される。

ジョークの中に込められた優しさと自分の心の穴を埋めてくれるような存在のバークに惹かれていく。

2032年 2月4日


____はあ。

北欧は暖かい。シベリアの寒気に比べたら。

北欧の獣は可愛い。シベリアの熊に比べたら。

孤独には慣れない。シベリアには仲間がいた。

Просто день(ただの1日)を過ごせることがどれだけ幸せだったか……

私はいつからここに居るのだろうか。仲間は皆死んでしまった。 精鋭第4突撃歩兵連隊。今は何人残っているだろうか。

聞こえるのは鳥のさえずり、動物の鳴き声、雪を踏み分ける音……英語の悪態……

……誰か来る。

エイリアンは捕虜から英語を学んだのか?

20Mといったところか。名乗らせたところで首を掻っ切ってやる。


『Shiiit, I can't stand this training ... Major Jason is such a bitch!! ……what? oh, shit(はあ…こんな訓練やってらんねーよ……ジェイソン少佐のクソヤローー!!………ッ!!?)』

ナイフを突きつける。

「Я Наталья, из четвёртого штурмового пехотного полка Сухопутных войск РФ. Живо доложи свою принадлежность! Из какого ты подразделения? Из какой страны? Кто ты — враг или союзник.(私はロシア陸軍第4突撃歩兵連隊のナタリアだ。貴様の名前と所属と身分を言え)」

『……?What a fuck……? shit!(な、なんだよ……?クソッ!) 』

無言でナイフを近づける。

『Ладно, ладно! Скажу! Всё скажу!(分かった!分かった!全部言うから!)』

「!」なんだ、ロシア語いけるのか。

『Берк. Берк Андерсон. Седьмой пехотный полк армии США. Я американец. Слушай, отпусти уже!(バーク。バーク・アンダーソン。アメリカ陸軍第7歩兵連隊所属。アメリカ人だ。ほら、離してくれよ)』

「……да(分かった)」

……「What are you doing?(何をしているんだ?)」ロシア語なまりの拙い英語で話す。

『…Oh,Thank you Honey, I'm breaking now.(あー、ありがとう、嬢さんよ。今休憩しようとしててな……)』

ブレイク?壊す?いや、"休憩"か。

『Whoa, you're covered in shit! Why not join my unit? You're all on your own, aren't you? I can cleaning you!!!(うわ、あんた泥まみれだな!傷あるし!うちの隊に来ないか?一人なんだろ?体も綺麗にできるぜ)』

……敵ではないなら、良いのか。

原隊では、バークの手によって手厚く看病された……




2033年 2月4日


サウス・メイン・ストリートのサンドイッチ屋は、今日も繁盛している。

ロサンゼルスにも、雪が降った。

ストリートはモノクロで染まり、人混みだけが色を扱う。

いつも通りのサンドイッチを買ったあとも、バークはなんだか静かだ。

まあ、これだけ冷えれば当然か。祖国で戦死扱いになり、アメリカへ来てからか、シベリアの寒気を忘れてしまいそうになる。

LAでの雪は本当に稀らしい。


『なあ、家に帰ったらでもいいか』

「……?何がだ?」

私の言葉は雑踏の音に消えた。兵卒時代のクセが抜けず、頷くことだけはしてしまった。


家ではサンドイッチを食べながらロサンゼルス・ドジャースの試合の録画を見た。3-6でリードしている。

……『なあ』

いつもバークの声は大きいが、このときはなぜか驚いた。

『……あ………ッ……ナッ……ナターシャ!!』

「バーク?」

『……く………結婚…結婚、しよう』

テーブルにいつの間にか置かれた黒い箱から、雪のように光るリングが見えた。

「!」

ドラマのなかだけかと思っていた。

地下壕で見た、イギリスのロマンスドラマ。当時見るのは違法だったが、あの時のドキドキは忘れない。

まさか、またと体感する日が来るとは。

この時だけは、ショウヘイ・オオタニのホームランの歓声を恨んだ。

私に選べる選択肢は一つだけだった。それは、バークの直接的な言葉に対する感謝であり、祝福であり、歓喜であり、肯定でなければならない。

「……ありがとう」

自分の語彙を呪うことはなかった。これが今の最大限の返答だ。

『………っ……愛、してる』

「私も」

バークの目からは涙が溢れた。私はどうだっただろうか。


『結婚しよう』確か俺はそういった。いや、確実に。

あいつはいつも気丈だった。

なんでも一人でやるし、汚れ仕事もやるし、セックスの時も向こう主導だ。

俺はなんとか主導権を握ってやりたかった。この人生で何回と無い、"プロポーズ"の場で。

サンドイッチ屋の前は?いや、人がいすぎるし、何よりロマンチックじゃない。

サウス・メイン・ストリートは激混みで、指輪を開けるために膝まづく場所もない。

考えてる間に、もう家だ。

サンドイッチ屋から家までの会話は覚えていない。らしくもなくアガってたんだと思う。

ドジャースの試合の録画を見始めてから、俺はチャンスをうかがっていた。

ショウヘイ・オオタニが三振を取ったところで切り出すか?いや、ナターシャは試合に夢中だろう。

ならば、どうする……


考えてる内に、ショウヘイの打席だ。ああ、俺はいつもこうだ。

本心をジョークに隠して、自分の気持ちに蓋してた。

でも、それも今日で終わりだ。終わらせなければならない。

今しかない。


今しかないだろう。


今しか……


『なあ』

ナターシャはこちらを向いた。

言葉に詰まる。俺は何言おうとしていた?何を伝えたかった?

『……あ………ッ……ナッ……ナターシャ!!』

再度呼ぶ。どもってしまった自分を恨む。

ナターシャの名前を呼ぶ度に、自分の幸せさを痛感する。

「バーク?」

ナターシャは困った顔でこちらを見ている。

『……く………結婚…』

軽口は流暢に出るのに、なんだこのザマは。

『結婚、しよう』

言えた。自分の気持ち。

受け止めてくれるだろうか。


沈黙は続いた。

続いたと言っても5秒ぐらいだろう。俺には長く感じた。そう、これまでのナターシャと過ごした記憶が詰められたひと言だから……

「……ありがとう」

ナターシャはよそ見をすることなく、その大きな、吸い込まれそうになる瞳で俺を見て言った。

『……愛してる』

当然、涙が溢れる。

ああ、良かった。

ユーラシアを走るシベリア鉄道か、或いは新大陸を駆ける大陸横断鉄道か。俺の心の中の車輪が、また一つ回りだした気がした。


「いつもの軽口はどこへいった?」

『今は重い腰を動かさねばならんだろう』

「健在じゃないか……ほら」

愛し合うには十分なベッドの広さ。

彼/彼女の心のようだった。


夜が更ける。この部屋でも、一つの夜が生まれる。

Просто день(ただの1日)。されど1日。

2032年から2033年へいきなり飛んじゃうので分かりにくかったとは思いますが、最後まで読んでくれてありがとうございます!

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