祖父の砂集め
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
……というわけで、砂というのは礫が細かく砕かれていったものになるわけだ。細かくなればなるほど遠くへ運ばれるようになる。
やはり、自然はいろいろなことを教えてくれるな。人間も自然の一部ゆえ、学ぶことが大きい。肥え太った状態ならばひとつところにとどまりやすいが、細かくなればなるほどまだ行ったことのないところへ行くことができる。
元から小さいうちなら気にならないが、大人になっていろいろなものが積み重なってくると、機敏に動くことが難しくなるからな。みんなも身も心も楽なうちに動くことをおすすめするぞ。
とはいっても、砂はもともと大きいものでも、砕けば仲間入りを果たせる。功績とかプライドとかにとらわれず、放り出すことができるなら、いつでもそこへ戻れるのだと分かっていても難しい。
でも、それをひょっとしたら実践できたものがいるんじゃないかなあ……なんて、先生は思った経験がある。
ちょっとそのときの話、聞いてみないか?
先生の祖父は、砂時計のコレクターだった。
数を集めて自分の部屋に置いていたけれど、いずれも自分で器を作ったのか。ものによってサイズがまちまちだったり、明らかにゆがんだつくりになっていたりするものもある。
当初はさほど気にしてはいなかったのだけど、市販の砂時計と比べるといささか不器用なつくりであることは否定できない。
――おそらく、祖父は砂時計を集めているんじゃない。砂そのものを集めて、自分の手製の器に入れているんだ。
実際、祖父が外へ出かけて帰ってくると、出ていくときに持っていった空のビニール袋がぽんぽこりんに膨れていることが、ときたまある。しかも、その中からは小さいシャベルの取っ手がのぞいていることもあった。
あるとき、祖父にそのことを言及すると、よく気づいたなってうなずいてくれたよ。
「だが、それももうじき終わる。次の砂集めでな。よかったら、お前も付き合わんか? ことによると、少し手伝ってもらうことになるかもな」
そういわれて、次の休みに祖父と一緒に出掛けた先生は、橋を三つも越えた遠くの河辺へおもむいた。当時の先生の歳だとすさまじい遠出で、祖父がいなかったらひとりで帰ることもおぼつかない場所だったな。
じいちゃんにとっては、勝手知ったる庭といった感じで、川辺を歩いてはちょくちょく足を止めて、ここの砂を集めてくれと指示を出す。
確かにそこの砂は、祖父の部屋の時計たちに使われているのと同じ、真っ黄色をしていた。
何か所にもあるそれらを祖父は歩きまわりながら少しずつ回収して、袋の中を満たしていく。
「この砂たちはな、じいちゃんたちの思い出なんだ」
もうじき袋いっぱいになるかというところで、祖父がぽつりともらした。
「大昔、お前ほどの子供のときに、友達と秘密にしようと約束していたんだがな。いまや、その約束を交わした相手はもうみんな残っていない。守る相手がいなくなっているのなら、破ったとはいえまい。
もしじいちゃんまでいなくなったら、『こいつ』もずっとこのままだろうしな」
「こいつ」のことは、祖父と家に戻ってから判明したよ。
回収した時は黄色かった砂たち。それが家へ帰ったときには、うっすらとこげ茶色になっていたんだ。水に濡れたりなど、していないにもかかわらず。
それを見て祖父も「どうやら向こうも待っていたらしい」と漏らし、いったん部屋へ戻って飾っていた砂時計たちを抱えてくる。
その砂たちもまた、普段見る時の色合いを失い、袋の中の砂と同じようなものになっている。
祖父は袋の砂の中へ、その砂時計たちを放り込んでいく。地面において、開いたままの口へどんどんと投げつけるかっこうでさ。これまで、大事に飾ってあったのがウソのような乱暴さだった。
砂時計たちはいったん砂の山へめり込み、中へ落ち込んで隠れてしまうけれど、遅れてパパリンと、ガラスが割れていく音がくぐもって響く。
何かがこの中にいる……! と思ったけれど、砂拾いで生き物が入ることがないよう、細心の注意を払っていたはず。ならば、自然にガラスが割れているのか?
「戻るんだよ」
先生の疑問の色を感じ取ったか、また祖父がぽつりといった。
やがて砂時計たちは余さず袋の砂の中へ。いまだかすかに音がするそれを、祖父は近所の公園へ持っていくと、人けのない砂場へいっぺんにぶちまけた。
元から同化しても違和感のない色合いだったが、それを見守る先生は土たちがいっぺんに寝そべって、「大の字」に広がったように思えたよ。まるで四肢を広げるようなかっこうで。
砂たちはそこから、砂場たちへ溶けるように沈んでいった。先ほどの様子といい、生き物かと思うような動きで。
祖父の集めていた砂たち。それがあの生き物らしいものの断片として、ああも残り続けていたのかもな。




