表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪の探し人  作者: 刻猫屋
1章 全てのはじまり
8/11

悪い子


「あとは絵具を乾燥させてからだから、ゆっくり遊べるよ。」


 物思いに…今までの事を思い出していると、不意に佐介が告げた。

驚いて見上げれば、ふわ、と笑う佐介。

その表情に、無意識に尻尾が揺れる。

その動きに気づいてか、佐介は更に嬉しそうに顔を綻ばせる。

だけど、僕を撫でる手が止まる。

つい僕はその手を追いかけるような仕草をすると、佐介はくす、と笑う。


「座布団と飲み物を持ってくるだけだよ。

 天気もいいし、一緒にお昼寝しよう。」

(お昼寝!!)


 ぱぁ、と自分でも顔が明るくなるのが解る。

最近、佐介は仕事が忙しい。

そのせいで、構ってもらえない時間が増えた。

仕方ないことだ。

でもその埋め合わせするように、佐介はひと段落すると僕を沢山抱きしめてくれる。


―佐介の匂いは好きだ。


 拾ってくれたあの日から、いつもする、安心する匂い。

だから僕は佐介の匂いも、僕を撫でる優しい手も、とても好き。

寂しくても、その匂いが、手が、ちゃんと僕を大事にしてくれてると解るから。

もう会えない、家族を思い出せるから。


 ―ここに来て間もない頃、一回だけ、佐介を怒らせた。

仕事が忙しくて、ずっと撫でてもらうことも、抱きしめてもらうことも、無かった。

ただ、ぽつん、とご飯とお水が入った小皿を置かれるだけ。

呼び止めようと鳴いても、佐介は「ごめんね」そう言って、すぐ部屋に行く。

危ないから入らないで、と、禁じられた仕事部屋に。

勇介も忙しくて、家に帰ってこない。


そんな生活をずっとして、僕はつい、佐介の言いつけを破った。

寂しくて、独りは嫌で、部屋の端っこなら、許してもらえるんじゃないかと思って。

でもそれは、僕の勝手な我儘で、いけないことだった。

佐介は忍び込んだ僕を見て、驚いたようで。


「入ったら駄目って言っただろう!?」


 普段聞かない少し大きめの声に、僕はびく、と身体を震わせた。

そんな僕を見て、目を見開いた佐介。

ごめんね、と、困ったように僕を見て、佐介は僕に手を伸ばそうとした。

けど僕はその手が、いや、その顔が見るのが辛くて、その手を避けた。


「すず?」


 過去が、蘇る。

あの顔は、あの困った顔は、何度も、何度も何度も見てきた。 

僕のせいで何度も仲間に酷い事を言われた母様と父様が、そして兄の悧玖が見せてた笑顔と重なったのだ。

あんな顔を家族にさせたくなくて逃げたというのに。

僕はまた、僕を拾って守ってくれる人間にそんな顔をさせてしまった。

人間は、困ったり自分に都合が悪いと簡単に飼ってる動物すら捨てる時もあると、聞いたことがあった。

佐介や勇介は優しい、良い人間だ。そんな無責任な事はしないと解ってる。

それでも、あの迫害された記憶が、嫌悪された記憶が蘇って。

ありえないと、大丈夫だと解っていても、その恐怖が、首をもたげる。

そして沢山の自己嫌悪が、恐怖が、一気に僕を支配して。


 僕は佐介の仕事部屋から、走って逃げた。

後ろから僕の名前を呼ぶ声がしたけど、無視した。

無視して走って、佐介の部屋、押し入れに隠れて丸まった。

あんな事をしてしまった自分に自己嫌悪して、ありえない、酷い事を想像して。

カタカタ、と身体が震える。

ありえないのに、そんな事する彼等じゃないのに。

それでも、身体がその『ありえない』未来を予想して、恐怖に震える。


(僕は馬鹿だ…。あんな我儘、したらいけなかったのに。)


 危ないから駄目だと、言われていた。

仕事の時以外はいっぱい遊んであげるから、あの部屋にだけは入っちゃ駄目だと言われていた。

それなのに、我慢できなくて、優しい佐介の言いつけを、破った。

嫌われても不思議じゃない。怒られても不思議じゃない。


―捨てられても、不思議じゃない。―


 ヒュッ、と喉が鳴る。

震えが止まらない。

怖い、怖い。

そんな事するはずない。

でも、でも…。


 そんな時、キシ、と床板を踏む音がした。

びくり、と肩が揺れる。

どうしょう、が頭を占める。

見つかって、もし本当にあの最悪な事を言われたら、そう思って震えていると…。

ガラ、という音と一緒に視界が明るくなる。


「やっぱ此処に居たのか、すず。」


 その声に、顔を上げれば、居たのは佐介じゃなく、勇介だった。

目が合うと、勇介は少し驚いた顔で僕をみつめた。

そして膝をつくと、僕を静かに抱き上げた。

その顔は、少し困ったような顔で。

僕はまた、この人達にそんな顔をさせてしまったと、自己嫌悪してると、勇介は口を開いた。


「ごめんな、不安にさせて。」

(え…?)


 なんで君が謝るの。

謝るのは、悪い事したのは僕なのに。

そう思っていると、勇介は僕を肩口に寄せて、ぽん、ぽん、と背中を叩く。


「いきなり放っておかれるようになったら、飽きられたって不安になるよな。」


 よいしょ、と掛け声を小さくして、勇介は座り込む。

僕は変わらず、肩に前足をかけるような、抱っこするような体制だ。

そして数度、僕の背中をあやすように叩いたかと思うと、佐介と似た優しい手付きで、僕を撫でる。


「…アイツの仕事は絵描きでな、道具の一部が猫のお前に有害なんだ。

 だから、お前になにかあったら、心配で佐介はお前にあの部屋に入るな、って言ってたんだよ。」

「……。」

「丁度、その有害な材料を使おうとしてたら、お前が居た。

 慌てて、つい大声であんな風に言っただけなんだ。

 その証拠にほら。」


 そう勇介が言うのとほぼ同時に、バタバタと走る足音がする。

音の主は解りっている。

だけど正直、信じられなかった。

この予想が正しいなら、音の主はいつも静かに歩く。

廊下を走るようなことしない、穏やかな人なのだから。

むしろ走ったりして騒がしくする僕を抱いてる目の前の人を嗜めるのだから。

 信じられなくて、怖くて、僕はただ静かに出入り口の襖を見つめる。

そんな僕を察してか、僕を抱く男、勇介はぽん、と最後に頭に手を置く。


「…すず、お前がどういう経緯で家に来たか、正直解んねぇ。

 でも、辛い事があったのはお前の様子で解る。

 家を空けがちの俺を信用できないのはいい。

 けど―…。」

(…え?)


 その先の言葉は、確かに聞こえた。

だけどそれを理解しきる前に、スパァン、と勢いよく開いた襖の音で遮られた。

ほんのり暗かった部屋に、一気に光が入る。


「すず!!」


 はぁ、はぁ、と上がった息。

丁寧に束ねてた髪も、来ていた服も少し乱れてて。

いつもと違う、汗を流して、いつもの穏やかな雰囲気が一切ない、切羽詰まった様子で。

いつもと真逆の、佐介が居た。

そんな様子の佐介に、勇介はのんびり返す。


「素が出てるぞー、佐介。

 すずは此処。押し入れに隠れてたから怪我なんてしてねぇよ。」


 そう言って、勇介は僕を佐介に渡す。

僕はまだ、勇介の言葉も理解できなくて、さっきの事をまだ怒られると思って、身体を震わせた。

だけど…。


「よかった…っ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ