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妖怪の探し人  作者: 刻猫屋
1章 全てのはじまり
7/11

鈴の音


 あの魅力的なお誘いを受けて数ヵ月。

僕は今日も平和を噛みしめる。

 ふわふわの僕の為の、真っ白なお布団こと、長座布団。

硝子窓が閉められた縁側に置かれたそれに、僕はコロリ、とあおむけになって空を眺める。

 ころん。寝返りをひとつ。

 ―ちりん。

 僕の動きにすら反応して、小さな鈴が鳴る。

そして動きに合わせて鈴を通した青いりぼん、というものも揺れる。


(…ようやく慣れてきたわ、この首のやつ。)


 野生だったら致命的なこの音や邪魔くさいこのふわふわした紐は、この家の住民が僕を認識するためのもの。

というのも、この家に住む事になった数日後、僕は見事に勇介に吹っ飛ばされて死にかけた。

僕の為に、と住民の佐介がくれたふわふわの真っ白な長座布団。

そこで僕はお腹いっぱいの山羊乳を飲んでお昼寝していた。

そう、お昼寝していたのだ。真っ白な座布団に埋もれるように。

そんな昼下がり、同じく眠気に負けそうなもう一人の住民、勇介が長座布団が置かれている縁側に来た。

ぽかぽかと、太陽の光が当たって最高の日当たり。

人間にとっても最高のお昼寝スポット。

そこに使ってくださいと言わんばかり(勇介談)長座布団。

最高の場所で昼寝するべく、バサッ、と長座布団を振ったのだ。


…ここまで書けば、もうお分かりだろう。

勢いよく振った長座布団。

そこに乗ってお昼寝していた僕は見事に宙を舞い、外に吹っ飛ばされた。

寝ていて上手く受け身を取れなかった僕は見事、甲高い鳴き声と目いっぱい叫びながら、庭に植えられてる垣根に落っこちた。

あの感覚は、今思い出してもゾッとするものだった。


(あの時は流石に死んだと思ったわ…。)


 思い出すのは、綺麗な青空。響く野太い悲鳴。

そして土下座する勇介と般若のような顔で僕を抱っこする佐介。

そう、悲鳴をあげたのは僕ではなく、僕を吹っ飛ばした張本人、勇介。

成人した男の野太い悲鳴が、響いた。

その悲鳴にすっ飛んできた佐介と、近くに住んでる人間達。

なんだ、なんだ、と騒ぎになった。

垣根の枝に引っ掛かり、傷が開いた僕。

なんなら枝のせいで傷が増え、見た目が大変よろしくないものになったのだ。

そのせいで、傍から見たら勇介が僕を殺しかけたという誤解を生んでしまったのだ。


(…まぁ実際あれは垣根のおかげで生きてたもんだしね。)


 そこからの詳細は、思い出したくもない。

ただ一言、あれを地獄絵図と言わずしてなんというのだろうか。

誤解が誤解を生みある意味、地獄絵図だった。

そんな地獄絵図の再来を防ぐため、僕の首には勇介が商いで最近扱い始めた異国の装飾品、りぼんをつけることになった。

そして音でもわかるように、小さな鈴も。

とて、とて、と歩く度、ちりん、ちりん、と音が鳴る。

最初は違和感を感じていたこの音。

嫌で嫌でたまらなくて、敵に見つかったら、という恐怖も抜けなくて、何度も首から取った。

けどその度、佐介が悲しそうな、心配そうな顔をするもんで、僕の小さな良心が痛んだ。

仕方なく、僕は折れた。

消えない違和感と恐怖心を無理やり呑み込もうと、ここは安全だと思いたくて、僕より身体の大きな佐介にべったりくっついた。

何か察したのか、はたまた僕を拾った本人だからか、佐介はそんな僕をいつもお膝に乗せて撫でてくれた。

そうやって、無理やり色んな感情を上書きしながらひと月、ふた月と重ねて、ようやく僕は音が鳴っても安全だと、表面的には慣れることは出来た。

その上書きが出来てからは比較的早くて、そこからすぐに鈴の音を気にせずに歩けるようになった。


(…そう、慣れたといえばもう一つ…。)

「すず。」


 そんな事を考えていると、佐介が僕を呼ぶ。

みぃ、と応えるように鳴くと、僕がいる縁側に面した部屋の襖が開く。

絵具、という佐介の仕事に使う道具の匂いが強くなる。

ここ数日、ずっと部屋に引きこもっていた佐介。

その顔はどこか憑き物が落ちたような顔で、引きこもっていた理由が解決したのが伺える。


(お疲れ様。)


 そう伝えたくて、もう一度、みぃ、と鳴いた。

そんな僕を見てうれしそうに佐介は笑う。

そしてあの日のように、僕の頭を優しく撫でてくれる。


「良い子で居てくれてありがとう、すず。」


 『すず』佐介と勇介が考えてくれた、僕の名前。

母様と父様がつけてくれた本当の名前とは違う、だけど、とても大事な名前。

白い小さな花を咲かせる鈴蘭からとって、すず。

可愛くて、自慢のもう一つの名前。

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