緊張を壊す音
予想外の相手の容姿に固まること数舜。
先に動きだしたのは…。
―クゥゥゥ…―
僕のお腹の音だった。
穴があったら入りたい、正にその状態の僕。
せめてもの抵抗に、また丸くなって顔を隠した。
そんな僕の行動を見て、彼はくすくす笑い出す。
「ははは!そんな元気に腹を鳴らすならもう大丈夫だな。」
(…僕は大丈夫じゃないよ、色んな意味で…。)
否定するように鳴いてみた。
だけどその真意が人間に彼に伝わるわけがなくて。
そんな僕の鳴き声に、彼は更に笑う。
「はいはい。そんな催促しなくても大丈夫だって。
今飲めるようにしてやるから。」
ぽん、と僕の頭に手を置いたと思ったら、傍らにある小さなお皿を手繰り寄せた。
そこには白いぷるん、とした何か。
中に何か入っているのか、その何かは艶やかな曲線を描いてて。
僕はついそれを凝視した。
そして気づいた。
ずっとずっとしていた、甘い匂いの正体が、この白い何かだと。
無意識に、スンスン、と鼻が動く。
彼から見ると、そんな行動は餌を楽しみにしてる姿そのもので。
器用に僕の身体をコロン、と変えたと思ったら、もう片手には先ほどの白い何かを持っていた。
いつの間にか進められているその動きに、僕はつい、ぽかんとしてしまう。
そんな僕にお構いなしに、彼はニコニコ笑いながらそれを近づける。
「お前、随分ちっこいしまだ子供みたいだからな。
山羊の乳なら飲めるだろう?」
ほら、とその白い何かを僕の口元に近づける。
確かにお腹は空いている。
だけどそんな白い得体のしれない何かを口に入れるわけにもいかなくて。
警戒して、小さく唸る。
そんな力ない、か細い唸り声を聞いたのか、彼は更に付け加える。
「あぁ、この外側のやつが怖いのか?
大丈夫、これは山羊の腸だよ。チビのお前にはこれのがいいと思ったんだ。
ほら、騙されたと思ってここに吸い付いてみろ、山羊の乳が出てくるから。」
そう言って、更にソレを近づける。
確かに近づけられれば近づけられるほど、あの甘い匂いは強くなる。
だけど信用していいのだろうか。
そんな風に疑心暗鬼になっていると。
―くぅ…―
再度、僕のお腹が鳴る。
そんな僕が可笑しいのか、彼は更に笑う。大変遺憾である。
「ほら、何にそんな警戒してるのか知らんが、素直に甘えとけ、チビ助。
別に元気になったからって取って食いはしねぇから。」
言い切るが早いか、行動が早いか。
僕の口に無理やりそれは押し込まれた。
押し込まれたそれについ無意識に吸い付いた。
吸い付けば、サラサラとほんのりあったかくて、甘い液体が口いっぱいに広がって。
乾いた喉に、先ほどから羞恥心を煽りまくる僕のお腹に染み渡っていく。
気が付けば、僕はその白いのに夢中になって吸い付いた。
ちゅうちゅう、と前足を伸ばして必死に吸い付く。
「よしよし、いい子だな。
まだお代わりはあるから、しっかり食うんだぞ。」
その声は、先ほどまでの少しふざけた様子とは違って。
落ち着いた、そしてどこか安堵したような、不思議なトーンになっていた。
その声が妙に気になって、チラ、と視線を彼に向けた。
そこには、先ほどまでの表情とは違う、少し大人びた表情の、彼がいた。




