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妖怪の探し人  作者: 刻猫屋
1章 全てのはじまり
4/11

夢か現か

 ふわり、ゆらり、と水面に浮いているような、不思議な浮遊感。

さっきまでの、夢心地が続いているような、あっかくて、心地が良い感覚。


(…池に落とされた時と違って、あったかい。)


 ぼんやりとした意識の中で、仲間だった彼等にされた仕打ちを思い出す。

忌み嫌う白を纏う僕。

美しい黒の中に居る、異質。

そんな存在が、迫害され、虐められるのは、きっと集団の中では、自然な流れだった。

最初はただ、陰口だった。

『白子』、『化け物』、『呪い子』、『忌子』。

全て、仲間が僕を呼ぶ呼称として、蔑みの象徴して、使われた。

実際間違っていないし、僕自身もこんな姿で生まれて、呪いだろうと思った。

だから、彼等からそう呼ばれても、僕は言い返すことも反論することも無かった。

だって、それは全て真実だから。

けれど、一度だけそんな彼らを、嘲るように嗤ったことがある。

『化け物』。彼らが、僕をそう呼んだ時だ。

人間は愚かで、脆くて、短命だ。

自分達と比べて、何もかも劣っている。

そうやって、彼等は人間をよく笑っていた。

それなのに、彼らは僕に言ったのだ。

人間が僕等妖怪を見た時に言う言葉を。

まるで彼等の真似事のように『化け物』という言葉を使ったのだ。

それを一度だけ、嗤って指摘した。


 だけどそれがいけなかった。

狐猫はプライドが高い奴が多い。

忌子と、自分より下と見下してた相手に指摘されたのが、よほど気に入らなかったんだろう。

僕はその翌日、仲間たちに長い長い時間、殴られ、蹴られ、嬲られた。

足は折れ、咥内は切れ、身体中痣だらけ。

雪のようだと言われていた僕の毛皮は、泥で汚れ、血で汚れ、まさにぼろ雑巾のようになっていた。

まさに虫の息。

そんな僕を…。


「消毒だ。」


 そう言って、池に投げ捨てた。

真冬の冷たい池。

ボロボロの僕には、藻掻く力なんて、残ってなかった。

ふわふわの冬毛が、水を吸ってどんどん枷になっていった。

息が出来なくて、冷たくて、苦しくて。

そんな中で聞こえるのは、笑い声。

水の中で、籠って聞こえる筈なのに、その多くの笑い声は、鮮明に、聞こえた。


(…これで、死ぬんだ。)


 そう思っていた。

―…結果として、その時は異変に気付いて僕を探していた悧玖のおかげで、死ぬことはなかった。


(…本当、あの時と違う。

 死んだからかなぁ、あの時と違って息も出来る。)


 ふわふわと、あったかい。

気持ちよくて、ずっとこうしていたい。

もう、あんな思いなんてしたくない。

ぼんやりと昔の事を思い出しそんな風に思っていた。

そんな時。妙に耳に馴染みがあるのに、聞きなれない声が響いた。


「…やっぱり、真っ白で綺麗な毛並みだね。」

(…だ、れ?)


 聞きなれないのに、知ってる声。

そんな声と一緒に、あったかい何かが、僕の身体を撫でる。

その撫でる何かが、僕の顔をぬぐうように撫でる。

その何かから、ツン、と独特で、だけど嗅ぎ慣れた薬草の匂いがして、驚いた。


(…地獄でも、薬草があるのね。)


 止血効果のある、薬草の香りに、そんな事を考える。

ふわふわとした気持ちのなか、薬草の匂いがずっとする。

ツンとした、強い匂い。

鼻の利く僕にとっては、とても辛くて。

夢心地だった気持ちは一気に冷めて、匂いの元から離れたくて、手を動かした。

くるん、と丸くなっていた身体を、ぐぐ、と伸ばして匂いを遠ざけようと、ふに、ふに、とソレを押す。


「おっと…。目が覚めたのか?」


 また、声がする。

幻聴もこう何度もされると流石にしつこい。

もう幻聴は十分。

そんな幻聴を聞くなら、母様や父様、悧玖の声がいい。

そう思って、またくるん、と丸くなる。


「こーら、そろそろ起きてくれ。

 ご飯食べないと治るもんも治らないだろ?」


 ぽん、ぽん、と尻尾の付け根、お尻のあたりを小突くように軽く叩かれる。

その痛くはない、けれど確実にくる衝撃に、僕はハタ、と気づく。


(…そういえば、なんで僕、感覚があるんだ?)


 死んだ筈だ。身体はもう無い筈だ。

なのになんで撫でられる感覚がある?

なんで小突かれるような感覚がある?

いや、そもそもどうして身体を動かせる?

その矛盾に気づいて、ぽやぽやと霞がかった思考がクリアになっていく。

微睡んで、開ける事が億劫だと、開ける事が出来ないと思い込んでいた目を開ける。


(…まぶし)


 ずっと閉じていた目。

暗闇が当たり前だと思っていた視界が、一気に色づく。

色づいて、光を一気に感じ、目の奥が痛い。

あまりの痛みに、また無意識にみぃ、と声が漏れた。


「おっと、大丈夫か?」

(大丈夫じゃない。)


 かけられた少し慌てた声に、僕は答えるが、その音は先ほどと同じ、か細い鳴き声だけだ。

そんな僕の考えを知ってか知らずか、はたまた様子で察したのか、何かが僕の顔を覆う。

ツン、と薬草の匂いが強くなる。


「ゆっくりだ、ゆっくり目を慣らすんだよ。

 大丈夫、お前の天敵は居ないから、ゆっくり、ゆーっくり、目を慣らすんだ。」


 そう言って、僕の身体を何かが撫でる。

その手付きは、声と同じでゆっくりと、だけど一定のリズムで僕を撫でる。


―どのくらい、時間が経ったんだろうか。


 目の痛みも消えて、思考もはっきりクリアになった。

はっきりした意識で、僕は少しずつ、ずっと状況と、何かの正体を理解する。

日の光を遮ってくれていたのは、ずっと声をかけてきた男の手。

少しかさついた、タコができた無骨だけど、優しい手。

ちら、とそんな手の隙間から見える僕自身の身体には、至る所にあの独特な薬草の匂いと、白い布。

ずっと匂いがしてたのも、この人間の手に匂いが強かったのも、全部、僕の為。


(…馬鹿な人間。助けないで毛皮を剥げばよかったのに。)


 そんな風に思いながら、僕は一つ、好奇心が顔を出す。

それが本当に好奇心か、はたまた感謝なのか、興味なのか、なんなのか、解らない。

ただ、ふと思ったのだ。


(こんなお人よし、どんな顔をしてるのかしら。)


 顔が見てみたくて、僕の顔を覆う手に、じゃれついてみる。

ぺろ、と手の平を舐めてみたり、じゃれるように前足で男の手に抱き着いてみる。

そんな僕の反応に気を良くしたのか、男はくすり、と笑う。


「はいはい。ご飯だな。

 …ゆっくり手を離すからな、無理するんじゃないぞ。」


 思惑とは違う事を思ったが、良しとしよう。

目的の、手を退ける事には成功したんだから。

視界を遮る手が離れていく。

少しずつ見える視界に映るのは、雲一つない青空。

そして濡羽色の、綺麗な髪。

太陽の光で、きらきらして綺麗だな、なんて思っていた。

そしてついに、手が完全にどかされた。

視界に入るのは、綺麗な琥珀の瞳を持った、まさかの美青年。

もっと歳のいったおじ様を想像していたから、驚いて固まってしまった。

彼もそれは同じようで、僕の顔を見て、目を見開く。


「…驚いた。

 綺麗な白猫だと思ってたが、金銀眼だったんだな。」


 琥珀のような綺麗な瞳が、僕を見つめた。

金銀眼

オッドアイの別の呼び方。

特に猫のオッドアイに使われる言葉でもある。

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