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妖怪の探し人  作者: 刻猫屋
1章 全てのはじまり
3/11

微睡

 ふわり、と甘い匂いがして、僕の意識は浮上する。

意識ははっきりするのに、目を開けるまでは出来なくて。

そこで自分が気絶する直前の有様を、思い出す。

血塗れで、ボロボロになった自分の身体。

そして聞こえた、人間の声。

その全てをつなぎ合わせれば、答えなんて簡単で。


(…あぁ、そうか。僕、死んじゃったんだ。)


 妖怪にとっては、忌み嫌う僕の毛並み。

人間にとっては、好かれる僕の毛並み。

そんな毛皮を持った小動物が死にかけていた。

なら、やることはたった一つ。

それは仲間と、同じ末路。

ただ、所有者が妖怪ではなく、人間になっただけ。

ただ、それだけ。


(痛い思い、しなくてよかった…。)


 もう、あんな思いなんてしたくない。

痛くて、苦しい、あんな思いなんて。

死んでしまえば、こんなにもふわふわして、あったかくて、幸せなのか。

枯草の、かさついた肌触りも、吹き付ける冷たい風も、何もない。

ただあるのは、ふわふわで、あったっかくて、安心する匂い。


(…地獄って、もっと怖い所だと思ってた。)


 生きる為とはいえ、沢山の殺生をした僕が、極楽浄土に行ける筈がない。

逝く先は、地獄だ。

沢山の罰を受ける、痛くて、怖くて、苦しい場所。

そう思っていたのに、今感じるのは、真逆な事で。


 甘くて、あったかくて、美味しそうな匂い。

家族といた時のような、懐かしい、優しい匂い。


『周りがなんて言おうと、貴女は自慢の娘よ。』


 そう言って、ふわふわの尻尾で僕を包んでくれた、母様を思い出す。


(…母様…。)


 みぃ、と無意識に声が出た。

声が出てしまえば、家族を思い出しまえば、もう駄目だった。


(母様…。父様…。悧玖…。)


 堰を切ったように、ぽろぽろと涙が出てきた。

会いたいと、みぃみぃと声が出る。

だけど身体は動かなくて。

そもそも僕は死んでいる。

もう会えない。


(会いたい、会いたい…。)


 なんて馬鹿な選択をしたんだろう。

ずっと、ずっと大好きだと、可愛い大事な家族と言ってくれてたのに。

仲間から軽蔑の目で見られる僕を、守って、愛してくれてたのに。

だけど、そのせいで皆も傷つけられて。

それが嫌で、苦しくて、逃げだして。

泣きそうな声で、心配そうな声で、僕の名前を呼んで、探し続けてくれた。

知ってたのに、知らないフリして、逃げだした。

ぐるぐると、後悔が、懺悔が、渇望が、僕のなかで渦巻く。


(ごめんなさい。ごめんなさい…。)


 みぃ、みぃ、と声が出る。

寂しい、苦しい、会いたい。

ぐるぐると感情が、回る、廻る。

そんな時、ふわりと、浮遊感。

そして暖かい何かが、頭を撫でる。


「…大丈夫、大丈夫。

 もう寂しくないよ。」


 優しい、低い声。

何度も、頭を、背中を、往復する、何か。

警戒しないとけないのに、その優しい手付きが、母様とそっくりで。

何度も響かせる、優しい声は父様のようで。

気が付けば、僕の意識はまた、闇に落ちていた。

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