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妖怪の探し人  作者: 悧緒
序章 狐猫
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2.異質な子

 血塗れで、ボロボロの身体を引きずって、僕は歩く。

森に住む動物も、妖怪も、誰も近寄らない。

ただ遠巻きに、僕を見つめ、ひそり、ひそり、と話す。


「白子だ。」

「ボロボロだな。あの傷跡、鬼あたりにやられたか。」

「鬼にやられて生きてるのか、悪運が強いんだな。」

「いや、どっちかというと…あの毛皮のせいだろ。」

「あぁ…。」


 ひそり、ひそり。

声は止まない。行く先々で、囁かれる。

それは傷をつけたのが誰なのか。

どうして僕はまだ生きてるのか。

不躾な視線と共に、そんな事ばかり繰り返される。

そして最後にいきつくのは。


『白子だから。』


 だから仕方ない。

だから生き残れたのだろう。

そんな答えにいきついて、また、ひそり、ひそりと囁きながら、不躾な視線を送ってくる。


(…そんなの、僕が一番解ってる。)


 きゅ、と口元を噛み締めて、言葉を飲み込む。

一歩進む度、足が悲鳴をあげる。

あげそうになる悲鳴も呑み込んで、ひたすら歩く。

一歩、また一歩。進む度にカサ、と落ち葉の枯れた音が鳴るのもいとわずに、ひたすら進む。


(…あと、少し。)


 早く、隠れなければ。

また純血種に見つかり、嬲られれば、今度こそ、死ぬ。

それだけじゃない。

血の匂いを嗅ぎつけて、狼や野犬、下手したら熊までやってくる。

毛皮の為じゃない。食事として見られている彼等にも、見つかるわけにはいかないのだ。


(…血…流し、すぎた、かも…。)


 クラリ、と視界が揺れる。

このまま座り込んでしまいたい。

けれどそれをしたら、もう二度と目を開けることは出来なくなる。

本能が、そう告げる。

解っているのに、身体は言うことを聞かなくなってきていた。

動物の声も、妖怪の声も、どこか遠くにあるようで。

何か言っているのに、理解が追い付かない。

前に進みたいのに、足が動かない。

一層、視界が歪む。


(…あ、まずい。)


 そう思った時にはもう、遅かった。

ドサッ、と身体が横に倒れる。倒れた拍子に落ち葉が舞い、僕の目の前にひらひらと落ちてくる。

美しい、深紅の葉。

落ちて来た葉と一緒に視界に入るのは、所々、血が滲んだ自分の手。

兄に、両親に、綺麗だと褒められた、その毛皮は今は見る影もない。

泥に汚れ、血に汚れ、くすんだ灰色になってしまった、自分の手。


(…せめて、綺麗な姿で死にたかったなぁ。)


 薄れる意識の中で、そんな事を考える。

夜のような美しい黒の毛皮を纏って生まれる狐猫。

そんな中で、雪のように真っ白な毛皮を纏った、僕。

妖怪にとって、忌み嫌う忌々しい白を纏ってしまった、僕。

そんな異質な僕を、可愛いと、大事だと愛してくれた大事な家族。

だけど、そんな僕のせいで、沢山迷惑をかけた。

だから、僕は家族の前から姿を消した。


(…最期に、謝りたかった、な)


 意識が遠のく。

視界がどんどん暗くなる。

これが、家族を傷つけた僕の最期だというのなら、お似合いだ。

そんな風に思っていると、またひそり、声がする。

先ほどまで聞こえなくなっていたのに、また鮮明に。


「おい、動かなくなったぞ。」

「あんなに血を流してたんだ、仕方ない。」

「どうする、毛皮貰うか?」

「やめとけ、白なんて縁起の悪い。」

「なら僕等が貰う。寝床に敷いたらあったかそうだ。」


 ひそひそ、こそこそ。

妖怪からしたら、当たり前の反応。

誰も、助けてなんてくれない。

ぼんやりとそんな声を聴いていると、突然声が騒がしくなる。


「隠れろ、隠れろ。」

「人間だ、人間が来たぞ。」

「急げ急げ。あんな白子なんかに構ってたら見つかるぞ。」

「急げ急げ。」


(…にん、げん…。)


 僕も隠れないと。

そう思うのに、身体が動かない。

ガサガサと、大きな物音が近づいてくる。


「確かこの辺りにあったはず…。

 …ん?」


 そんな人間の独り言を聞きながら、僕の意識は完全に闇にのまれていった。



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