時は戻り
ふわふわなお布団に寝転がり、目を閉じて、そんな過去を思い出す。
随分と前のように、感じる。
だけど…。
(…まだ二年くらいしか、経ってないのよねぇ)
ほんの少しだけ、大きくなった自分の手を見る。
成猫サイズになった、自分の手。
けれど、まだ自分の種族のサイズを考えると、まだまだ小さく、赤子同然の自分の手。
だけど…。
(…これ以上、大きくなる前に―…)
その先の言葉を考えて、ちくり、と何かが刺さったような感覚。
まただ。
この先の言葉を、未来を考える度、何かが刺さったようなわだかまりが、僕の胸に巣食う。
その正体に、僕はまだ名前をつけれない。
「すず。」
今では聞きなれた、僕のもう一つの名前。
声の方へ顔を上げれば、器用に小脇に座布団を挟み、小さなお盆を持った佐介が居て。
キシ、と時折床を軋ませて、佐介が僕に近寄る。
香ばしいお醤油の匂いが、ほんのりする。
お盆の中身は見えないけれど、それだけでなにが乗っているのか想像は出来た。
「遅くなってごめんね、すず。
焼きおにぎり作ってたら遅くなっちゃった。」
苦笑いして、佐介が僕の隣に座布団を敷いて、腰を下ろす。
コトリ、と置かれたお盆には僕用の茹でた鶏のお肉入り小皿と、麦茶、そしてこんがりと程よい焦げ目のついた焼きおにぎり。
香ばしい、美味しそうな香りに―…。
―くぅぅぅ―…―
盛大に僕のお腹が鳴った。
えぇ、鳴ったよ、そりゃあもう盛大に。
何とも言えない羞恥心が、僕を襲う。
恥ずかしくて固まると、頭上からはくすくすと笑う、佐介の声。
「…この魅惑的な香りはどんな生き物にも効くんだね。」
「…みぃ。」
恥ずかしくて、そしてそんな魅惑的な香りを漂わせる物を持ってきた佐介が恨めしくて。
じぃ、と見つめ返すと、佐介がまた笑う。
そして自分の膝をポン、ポン、と叩く。
「ごめんごめん。
ほら、お詫びに中の方を分けてあげる。
表面は味が濃いから中の部分で我慢してね。」
そう言われてしまえば、断る理由なんて無いわけで。
僕は嬉しくてぽふん、と佐介の足の間に転がる。
お腹を佐介に向けて、小さく鳴いて、催促すれば、佐介は約束通り、おにぎりの真ん中の方を僕に差し出してくれる。
「熱いから気を付けるんだよ。」
ほかほかと、香ばしい香りが移った湯気が僕の視界にゆらゆら揺れる。
かぷ、と食べれば、予想通りの美味しさで。
僕の喉がグルグル鳴いて鳴いて、佐介が笑う。
「すずは素直で可愛いねぇ…。
勇介には内緒だからね、僕等のをあげたって知ったら怒るから。」
「み!」
「うん、良い子だね、すず。
さ、ご飯にしよう。」
そう言って、佐介は器用に食事を始める。
片手では自分のおにぎりを掴んで、口に運ぶ。
そして反対の手で、僕の為に茹でてくれた鶏肉を、僕の口元に。
そんな風に、二人でご飯を食べる。
穏やかで、もう味わえないと思っていた平和な時間。
大好きで、大切で、幸せで。
ずっと、続けばいいと思っていた。
きっと、それがいけなかった。
幸せすぎて、忘れていたんだ。
―僕が忌子の化け物だって―




