理由と仲直り
勇介の言葉に、僕を抱える佐介の身体がピクリ、と揺れた。
その様子に、頭の隅に留めていた疑問の答えが、顔を出す。
広い屋敷。訪れない両親。妙に気を遣う様子の近所の人間。
そして毎日する、線香の香り。
(…やっぱり、そういうことなのね。)
正直、祖父母の供養だと思い込もうとしていた。
ずっと共に暮らしていた祖父母が、昨年ついに…。そう聞いていたから。
きっと働き者の両親で、仕事で来れないのだろうと。
だけど、勇介の言葉と、佐介の反応で、気づいてしまう。
この人は、この兄弟は、両親を喪っている。
しかも、まだこの子達が幼い頃。
それに予想が間違ってないなら、きっと両親を喪う直前、佐介は子供の癇癪を起したんだろう。
あの時のように、大声を出して。
だからこそ、あの佐介の様子にも、勇介の言葉にも納得してしまう。
(…人の心は脆いと、いうものね。)
子供の頃の心的外傷。
そうなれば、似た状況や、また喪うという状況になれば、取り乱すのは普通だろう。
だから、こんな畜生一匹が姿を見えないだけであぁなったんだろう。
「…そう、だね。」
ぽつり、と呟かれた佐介の声に、僕の意識は二人に戻る。
二人の視線の先は、僕自身だ。
不安げで、僕を見てるようで、見てない佐介。
まっすぐ、佐介と僕を見る勇介。
ほんの少しの、緊張感。
居心地が悪くて、僕は無理やりあくびをして、毛繕いをする。
そうやって、身体を動かせば。
―ちりん―
僕の鈴が、小さく鳴る。
澄んだ、小さな独特な鈴の音。
けれど、佐介の視線を、意識を、はっきりさせるには十分な効果をみせてくれたようだ。
「すず?」
「…み?」
小さな佐介の声に、こてん、と首を傾げて、解らないフリをする。
きっと今、何か解ってるような態度は、悪手だと本能で悟ったから。
僕はただの子猫だ。
何も知らない、何も察してない、ただ、寂しがりやな子猫。
そう、演じてみせた。
「…っはは!」
「勇介?」
「悪い悪い。
あんだけ心配してなかなか重たい空気だったのに気にしないすずが可笑しくて。」
「…まぁ、ずずは猫…しかもまだ小さいから…。」
「けどまぁ、良い切替になったな。
―…悪かったな、説教めいたこと言って。」
「いや、お…僕も冷静になってなかったから。
ごめん、兄さん。」
「別に俺に対しては素でいいんだぞ?
さっきも名前呼びに戻ってただろ。」
「そういうわけにはいかないよ。
仕事で表に出た時、ボロが出たらいけないから癖付けないと。」
「真面目だねぇ…。
ま、すずも見つかったことだし、俺は一旦休む。」
「うん、おやすみ。」
そう言って、勇介は部屋を出る。
佐介に抱かれて、肩越しに部屋を出るのを見送ると、バチリ、と目があった。
「…―。」
(…。)
何かを見透かすような、見たことのない顔で、僕を見て。
だけど、何かを言うこともなく、勇介は部屋を出ていった。
キシ、と床を踏むと鳴る小さな音が、遠ざかる。
「すず。」
二人きりの部屋。
佐介が僕を呼んで、また視線を合わせるように僕を持ち上げる。
その目は先ほどまでとは違い、ちゃんと僕を映した。
「さっきは怒ってごめんね。
僕も人の事言えないのに、一方的にあんな事言って。」
「…みぃ。」
「毎食全部、は無理だけど、昼食か夕飯、どちらかだけは一緒に食べよう。
それで、一緒にお昼寝したり遊んだりしよう。
寂しくないように、部屋の前にすずがずっと居れるスペースを作ってあげる。
だから、もうあの部屋に入らないでいい子で居てくれる?」
佐介を困らせたいわけじゃなかった。
ただ、寂しくて、こんな事をした。
それを解消してくれるというのなら、僕の答えはひとつだ。
「みぃ。」
応えるように、精一杯、可愛く鳴いた。
答えは正しく伝わってるようで、佐介はいつものように、目を細めてようやく笑ってくれた。
「じゃあ、これで仲直りしようか、すず。」




