黒幕探し
「だけどさ? 俺は探偵じゃないんだよ。しかも義理もねーし、正直、つまんなそう」
そう言って俺は立ち上がり、ドアに手をかける。
――そのときだった。
「待てよ。なら、面白いことを教えてやる」
振り返って、一応、聞いてやることにした。
「俺たちが死んだ原因、それは――この国の政府の上層部。そう、内閣総理大臣の……朝霧大輔だと睨んでる」
「……今なんて?」
「だから、内閣総理大臣の朝霧大輔だってば」
……は?
「そんなわけないだろ。第一、その人は俺の――」
俺は一拍置いてから言った。
「――父親だ」
「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
幽霊たちが固まった。
よし今だ、とばかりにドアを開けて逃げようとした――その瞬間。
「おい君、ここは立ち入り禁止だ。それに、こんな時間に一人で何をしていたんだ?」
煙の匂い。スーツの男。咥えタバコの目つきは鋭い。
どう見ても刑事だろコイツ。
「すいません。あの、こいつら見えないんですか?」
「……こいつら?」
見る限り、彼には幽霊が見えていないようだ。
――まずい。このまま帰ったら絶対に家に連絡が行く。無断外出だ。怒られる未来しか見えねえ。
男は胸ポケットから、何かを取り出した。
ま、まさか……!
「俺はこういう者だ」
ガチの警察手帳だった。終わった〜、これ親に連絡行くやつだ〜〜。
名前は――後藤警部。やば、警部って偉い人じゃん。
「ん? 君、どこかで見たことあるような……え〜と、なんだっけな……」
俺がちらっと後ろを振り返ると、幽霊の一人が手で「O2」のポーズをしている。
おーつー……おっつー……ふざけてんのかコイツは! 死んでるくせにムカつく!
すると、女の子の幽霊がふわっと近寄ってくる。
「逃がしてあげようか? その代わり、私たちに協力して」
「わかった。お前らになんでも協力してやる。……俺の正体に気づかれる前にな」
俺の言葉を聞いた瞬間、真ん中にいた幽霊が――また指を鳴らそうとしてる。
……鳴らない。全然鳴らない。カッコつけてるのに。
ようやくパチンと鳴った瞬間、部屋の明かりがスッと消えた。
「うおっ!」
幽霊たちに腕を引っ張られ、俺は走り出す。
「そこの君、待ちなさいっ!」
「ねぇ君、学校で廊下を走っちゃダメって習わなかった?」
いや、お前に引っ張られてんだが!?
マジでクソだこの幽霊。ていうか、もう疲れた。走るの、いつぶりだ? 7年ぶりくらい?
……なのに、追いつけない後藤警部もまあまあヤバい。
俺たちは階段を駆け下り、理科室の前でようやく足を止めた。
「はあ……はあ……お前ら、幽霊なんだから……走らなくてもいいだろ……!」
「でも、置いていかれたら困るでしょ?」
にっこりと笑う少女幽霊。
――いやそれ、天使の笑みじゃなくて悪魔の笑顔だからな?
「それより、さっきの約束、覚えてる?」
「ああ。協力するよ。でも俺にも条件がある」
「ふふ、聞いてあげる」
「俺が死なないように、何かあったら守れ。それと……俺が協力するのは、親父の無実を証明するためだ。お前らの“復讐”のためじゃない」
その一言に、少女は一瞬だけ、ほんのわずかに口元を緩めた。
「交渉成立。じゃあ、話し合いを始めましょう?」
「なら……まずは、お前らの話を聞かせろ。“死の原因は総理大臣”なんて、冗談にしか聞こえなかった」
「――冗談だったら、君を巻き込んだりしないよ」
静かに割り込んできたのは、さっきの真ん中の男。冷たい目をしている。
「俺たちは七人。死んだ時期はだいたい一緒、理由はバラバラ。でも共通してるのは、“この学校”が舞台だったこと。そして、俺たちの死の裏には……国家が関わってる」
「陰謀論かよ……まさかこんな――」
「最初は俺たちも信じられなかった。でも……見せてやる」
またパチンと鳴らそうとする。……鳴らない。こいつ、マジでもう。
パチン。ようやく鳴った。
その瞬間、理科室の黒板がギィ……と軋むように動き、チョークが勝手に走り出す。
《失踪者リスト》《焼却処分》《極秘研究施設》
――現実離れした言葉が並ぶ。なのに、妙に現実味があった。
「この学校のどこかに、俺たちの“死”の真相が眠ってる。証拠も痕跡も、全部な」
「君が真実を追うか、誰かに口を塞がれるか。それだけだ」
そのとき――廊下から懐中電灯の光が差し込む。
「おい! そこに誰かいるな!」
後藤警部の声が迫ってくる。
「チッ、見つかったか……!」
俺は幽霊たちに目配せした。
「手を貸せ! ちゃんと逃げられるようにサポートしろ!」
「ふっ、当たり前さ」
……って、なんでカッコつけてんだよお前。指鳴らせないくせに。
マジでダサい。いや、そこがちょっと面白いけどな。